第124話 友達
今回のお話は、雫ちゃん視点でのお話になります。
事の発端は日曜日、学校近くの駅で偶然紅葉ちゃんと美月さんを見かけた時だ。
初めて凛さんに呼び出されて家に向かっている途中、本当に偶然見かけたのだ。
とっさに隠れたので向こうからは見つかっていないと思うけれど…文化祭であんなことがあったのに、楽しそうに出掛けられるのか。
まず2人で出掛ける事は無いと考えていたので、受けたショックはだいぶ大きかった。
例えるなら、彼氏の浮気を目撃した時、人はこんな感情を抱くのだと思ったね。
いや、紅葉ちゃんはそもそも男じゃ無いし、なんなら私と付き合っても無いけどさ!
それでも、ショックだったのは確かだ。
反対のホームだったので、どこに何をしに行ったのかは分からないけれど、電車の中でずっとモヤモヤしていたのは確かだ。
それは凛さんの家についても同じで、綺麗に整頓された部屋に通された時も、ずっとその事を考えていた。
「緑川さん?どうかした?」
私はさっきも言ったように彼女じゃ無いし、紅葉ちゃんは美月さんを振っている。
そんなことは分かっているけれど…やっぱり少し不安だ。
美月さんには紅葉ちゃんと中学の時から一緒にいるという、私には無いアドバンテージがある。
しかも、私よりも頭が良く頼れる人もかなり多い。
これは…もしかしなくても不味い?
「緑川さん?本当に大丈夫?」
「え…?ああごめんなさい。ちょっと考え事をしていて…」
「紅葉ちゃんのこと?そう言えば、美月が今日一緒に出かけるとか言ってたね。現場でも見ちゃった?」
「どうしてわかるの!?天才…?」
「あ〜やっと気付いた?そう!私って結構天才なんだよ!?」
…なんでだろう。ドヤ顔でこんな事を言っているジャージ姿の女の子を、天才といった自分が恥ずかしくなってくる。
私の状況をある程度分かっている人なら、誰でも想像ができただろうに…。
いや、それよりもなんでこんなところに呼ばれたんだろう。
今日は美月さんと紅葉ちゃんのデートだから、邪魔されないようにここに釘付けにしたいとか?
いや、今までそんな陰湿?な事をされた事はないから違うか。
「実はさ、私って美月と皐月以外に、まともな友達がいないんだよね。海外の大会で会う人は大抵大人だし、そういうところに行く時は必ず帽子かぶって顔バレしないようにしてるから…」
「…探せばあなたの素顔出てきたけどね!」
「嘘〜?おかしいなぁ。隠してるつもりなんだけどなぁ…」
「あなた、普通の大会には素顔で出てるじゃない…。しかも同じ名前で…」
「ああ〜そう言えばそうだね!忘れてた!」
バカだ…。完全にバカだこの子…。
オンラインゲームを本名でやっちゃう子供なんかよりよっぽどヤバイ気がするんだけど…。
なんで私は、こんな子に協力を求めたんだろう…。
完全にあの時は深夜テンションでどうにかなっていたんだろう。
頭がおかしかったのかもしれない…。
「話戻すけど、単純に言えば友達が少ないから友達になって欲しくて!でも、外に出るのは嫌だから家に来てもらったの!」
「…また急ね。しかも、あなたは友達なんかあの2人さえいれば問題ない!って思ってる人だと思ってたんだけど?」
「いや怪しむのはわかるけど!本当にただ友達になりたいだけなの!紅葉ちゃんのことで複雑だろうけど、相談に乗る事はできるよ!?」
「いや、そもそも私達って友達じゃなかったの?私、友達じゃない人にあんな頼み事しないんだけど…」
もしかして、遠回しに友達だと思っていたのは私だけって言われてる?
1番悲しいやつなんですけどそれ…。
えぇ…。結構メンタルにくるな…。
凛さんには悪気がないってことくらい分かるから、余計傷付くよね。
純粋な子供に酷いことを言われたほうがグサっとくる感覚!
なんで私の周りってこういう人が多いんだろう!
いい意味で子供っぽいっていうか、純粋すぎるっていうか!
いや、世間知らずって言う方が正しいのか!?これは…。
「…あ〜うん!私達友達だったね!うんうん!」
「…なんかごめんね?気を遣わなくていいよ?」
「いや本当!友達が少ないからさ私って!じゃあ…私と紅葉ちゃんって、友達なのかな!?」
「だと思うけど…。というより、何度も遊んでるでしょ?私達」
凛さんは意外そうな顔をした後、心底安心したように笑った。
なんかさ…この子といると凄い疲れるよね…。
いい意味で退屈しないし、なんか中毒性があるって言うか?
この子とうまくやれているあの2人を見ていて分かるけど、凛さんはいたらうるさいけど、いないと寂しいとか。
そんな立ち位置なんじゃないかな。
実は、こう言う人が友達関係の中では1番大事にした方がいいっていう説もある。
完全に自論だけどね。
「はぁ…。本当にしっかりしてよ…」
「ごめんってば〜!よかった〜!私って意外と友達いるんだね!」
「…4人かそこらを友達が多いかと言われると微妙だけどね」
「友達なんて、色々話せる人が数人いれば足りるよ。多すぎたら疲れるだけだって。それに、少ない方が真摯に向き合えるし大事にしようって思えるでしょ?」
「いや分かるけどさ!」
なんでこの子は、たまに深いことを言うんだろう…。
キャラがさっきからブレブレなんですけど…。
とんでもないバカになったと思ったら急にいい事言い出すし!
かと言って天才とか言うと調子に乗ってまたバカになるし...。
今度皐月さんに凛さんの扱い方を学んだ方が良いかもしれない。
「はぁ…。じゃあ友達として相談してもいい?」
「うん!なに?」
「私は、あの時やっぱり告白するべきだったと思う?それと、これからどうすればいいと思う?」
「告白するべきだったかで言うと、多分答えは出ないんじゃない?結局、成功してたかどうかは分からないし、無理に結論を出しても、それは結果論になっちゃうよね。そういうのって言ったもん勝ちだから、そんな考え方は私嫌いなんだよね。過ぎたことに拘ってもいい事ないしさ」
さっきまでバカ丸出しだったのに…なんか急にカッコよくなるじゃん…。
凛さんにそんなど正論言われると…凹んじゃうなぁ。
確かに、私も結果論とか言ったもん勝ちの言葉は嫌いだけどさ…。
例えば、お母さんに宿題をやれと急かされた子が言う言い訳ね。
今やろうと思ってた。なんて、本当にやろうと思っていたのかは急かした側からしたら分からないし、言った者勝ちだ。
こういうのが私は嫌いなんだよね。
「後ね?これからどうすれば良いかだけど、正直私には分からない。いつも作戦を考えるのは皐月だし、私は基本ゲームで忙しいから永続的な協力は難しい。だから、それを私に相談されてもって感じ」
「そう…。まぁ、あてはあるにはあるけど…」
「じゃあその人に頼れば良い。ちなみに、私は恋愛に興味が無いからできるだけ中立の立場にいるつもり。緑川さんは良い人だし、皐月達の方裏切ったら怖いから…うん!そこは安心して?」
「…別に疑ってなかったわよ。あなた、どこまで自己評価低いのか知らないけど、自分で思ってる以上にいい子よ。ありがとね」
「そ、そうかな〜?あ、お菓子でも食べる!?ちょっと持ってくるね!」
嬉しそうに部屋を出て言った凛さんを見て、将来がすごく心配になったのは言うまでもなく…。
なんか、コロッと詐欺師に騙されそうなんですけどあの子…。本当に大丈夫かな…。
◇ ◇ ◇
その日の夜9時、私は唯一頼れそうな先輩に電話して、0時過ぎまで作戦を一緒に考えてもらった。
代償は、紅葉ちゃんとどうなろうと逐一状況を報告する事。
例えこの作戦が成功しても、その後の状況なんかを逐一報告することになった。
ただ、今までもさりげなくいいアドバイスをくれていたし、意外と頼りにしているのも確かだ。
その日から数日と経たないうちに状況が大きく変化するなんて、この時の私はもちろん知る由もなかった。
次回のお話は1月13日の0時に更新します。