第123話 いつかのカップル
後半に少しだけ違う人の視点でお話が進みます。
美月ちゃんと一緒にお出かけした翌日、早く雫ちゃんに会いたい一心でいつもより早く家を出た私は、いつもより20分程早く学校についていた。
いつも雫ちゃんは早めに来ているから、数分待っていれば来ると思っていたんだけど…。
「この人達がいるかもって考えなかったの失敗したなぁ…」
私がウキウキで教室に入ると、美月ちゃんの事を話した時に…あれしていた2人がまた中にいた。
今回は別にあんな事はしていなかったし、なんなら普通に勉強してるだけに見えるけど!
「なんだその不味いみたいな顔。あやに事情は聞いてるから何もしないよ」
「…そのやんわり脅すようなこと言うのやめてもらって良いですか?怖いんですけど...」
「すまないね。これが私のスタイルなんだ。そもそも、なんで私とあやが付き合っていることがバレちゃいけないのか。その理由は知ってる?」
「気付かれたら別れないといけない…とかでしたっけ?あんまり良くは…」
そもそも、この人のことが怖すぎて、霧島さんに説明された時もあんまり身に入らなかったんだけど!?
しかも、今もなんだか威圧的だしさ〜!
私、雫ちゃんにも言ってなければ皐月ちゃん達にも言ってないからね!?
どこの誰だか知らないけど、この人を見ていると文芸部の先輩達がどれだけ優しいかが分かる。
いや、一部意地悪な先輩がいるけど…。
それでも、ここまで怖い先輩は初めてって言うか...。
「まぁ色々あるんだけど、1番は私は親と折り合いが悪いんだよ。向こうは恋愛より剣道に集中しろってめっちゃ言ってくるんだよ」
「それで、恋愛禁止っていうことですか?」
「そうそう。まぁそれも、修学旅行を無理やり休んだせいでバレそうなんだけどな!」
「…はい!?」
「だから〜修学旅行。文化祭前に行くっていう謎の旅行あるだろ?あれ、私休んだんだよ」
思わずこの人の隣に座っている霧島さんを見てみると、なぜか恥ずかしそうに頷いた。
いや、なんだかちょっと可愛いけど…なんで休んだんだろう。
春奈先輩達も、さすがに修学旅行には行ったみたいだしイチャつきたいとかそういう理由で休んだって事はないだろうけど…。
いや…朱音先輩から、鈴音先輩が無理やり九州に行こうとしてたとか聞いた覚えも…。
「春奈のこと知ってるのか?まぁいいや。修学旅行休むって親には言わないで、あやの家に泊まってたんだよ。そしたら、学校から連絡が入ったみたいで、凄い剣幕の親から連絡きた」
「そりゃきますよ…。ていうか、なんで霧島さんの家に?」
「え〜?それはあやが--」
「ちょ!何言おうとしてるんですか!?クラスメイトなんですからやめてくださいよ!」
先輩が何かを言おうとした矢先、耳まで真っ赤になった霧島さんがすかさず口を押さえながらそう叫んだ。
何を言おうとしたのか分からないけど、多分私にとってもかなり恥ずかしいことっていうのはわかった。
もちろんそれ以上の言及はせず、大人しく教室から出て2人が出て来るまで寒い廊下で待っていた。
見覚えのある男の子が教室に入って行って、数分後に逃げるように出てきた時は…流石にちょっと怖かったけど。
「ていうか、私の印象が変わったこと触れられなかったな〜」
やっぱり女の子だし、相手が雫ちゃんじゃなくても何かしら反応はしてほしい。
雫ちゃんの反応が薄かったら…そのまま逃げ帰るような気がする…。
そう言えば、昨日寝る前に決めたことがあったんだった。
美月ちゃんの気持ちに答えられるか分からないけど、とりあえず私がしっかりしないと!という事。
要は、恋っていうものがなんなのか、色んな人の意見を聞いて自分なりの答えを出すって事。
私が雫ちゃんのことをただの友達だと思っているのか、鈴音先輩達みたいに…好きなのか。
その選別も出来ないんじゃ、今後少し困るかもしれないし…。
「そのチャンスでもあるし…聞いてみるのは、もしかしたら...ありなのかな?」
一瞬、目の前の教室にいる2人に聞いてみようかとも思ったけど…先輩が怖いから止めておこうと決めたのは早かった。
聞くなら春奈先輩や朱音先輩。後、気は進まないけど鈴音先輩とかかな。
とりあえず、いつもの人達には頼れないから自分で動かないといけない。
恋とかそう言うのに無縁だったせいで、全然そこらへんのことを知らないし、これは私の問題でもある。
こればっかりは、皐月ちゃん達に頼る訳にいかないし…。
そう私が決心をしたところで、教室の中から霧島さんが出てきた。
ようやくこの寒い廊下から解放される!そう思ったのに、霧島さんが私に言った一言で、私はそれがぬか喜びだったことを知った。
「先輩が…紅葉さんとお話ししたい…そうです。私は…出てますので…ゆっくり…」
普段の霧島さんとは別人のようにオロオロとして、まだ少し顔が赤いけれど…私はそれどころじゃなかった。
あの怖い先輩と2人きりで話なんて…絶対に無理なんだけど!
下手したら殺される気が…。
「だ…大丈夫です。先輩は…あたりが強いだけで優しい…ですよ?」
「あたりが強いのに優しいって言うのは…矛盾しているような気もするけどね」
「と…とにかく、お願いします。多分、そこまでかからないと思います…」
「待って!?霧島さんはなんで出て行くの?」
「せ…先輩が、2人で話したいって…。それじゃ、失礼します!」
そう言って勢いよく走り出した霧島さんは、そのまま階段を猛スピードで駆け下りて行った。
残された私は、覚悟を決めて教室の中に足を踏み入れる。
教室の中には妙な緊張感が漂っていて、まるでドラマの最終回みたいな雰囲気がある。
いや…なんか例えが変かもしれないけど!とりあえず、そんな感じの重たい空気感?
「ごめんな。ちょっと話しておきたいことがあってさ」
「なん…なんですか?」
「別にそんな緊張しなくてもいいぞ?とって食おうなんて思ってないし」
「…全く説得力がないので止めてもらっていいですか?」
「はぁ〜。まぁ良いや。春奈知ってるんだろ?三浦春奈」
あれ?春奈先輩の名字って三浦だったっけ…。
最初に文芸部に入った時自己紹介で言われたような気がするけど…そこまで覚えてないや。
「三浦春奈ってのは、3年の鈴音と付き合ってる奴だ。これでわかるか?」
「あ〜はい。分かります。春奈先輩がどうかしたんですか?」
「いや、問題は春奈じゃなくて鈴音から頼まれたんだけどさ。君、緑川って子の事知ってるか?緑川雫」
「?知ってるも何も、結構仲のいい友達だと思いますけど…」
なんでこの先輩から雫ちゃんの名前が出てくるんだろう…。
ていうか、鈴音先輩とどう言う関係なの…。
色々と分からないことが多すぎるし、話が急展開すぎてついていけないんだけど…。
「私と鈴音は昔色々あってな。まあ今はどうでもいいだろ。それで、肝心なのはここからだ。その緑川な?3年の男子に狙われてるらしいぞ?」
「…はい!?」
「この学校の男子は、1〜3年までほとんどバカで救いようがないと私は思っているし、2・3年の女子は大体そう思ってるだろ。だから、私たちや鈴音みたいに女子同士で付き合うのなんかザラだ」
「いやあの...」
「ただ、鈴音が言うには3年の〜草薙だっけか?そいつが緑川のことを狙ってるとか抜かしてたらしいぞ?さっさと緑川射抜かないと、アホに取られるぞ?」
「あの!私の話聞いてもらっていいですか!?」
妙にニヤニヤしながらとんでもないことを立て続けにいってきた先輩に、私は思わず怒鳴っていた。
いや、とりあえず整理したいんだけども…。
雫ちゃんがどうのって言うのはまずおいておいて、鈴音先輩達みたいに女の子同士で付き合うのは普通っていう問題。
いや…それが当たり前だから何?って話なんだけど…え?いや何が言いたいんだろう…。
私別に、そこら辺を気にしたことはあんまり無いんだけど...。
「だから、君が緑川に告白できない理由が女子同士が付き合うなんてどうなんだ!って思ってるんだったら、何も変じゃないってことだ」
「いや、私が雫ちゃんに告白とか…そんなの無いですって!」
「じゃあ仮に、向こうが告白してきたら?その時、女子同士って理由で振るのは無しだぞ?しかも、緑川は狙われている。さぁどうする?」
「どうするって言われても…そんなの...」
「簡単だ!緑川を掴んで離さなきゃいい!」
ガッツポーズを取りながら自慢げにそう言ってきた名無しの先輩は、教室にちょうど入ってきた雫ちゃんを見ると、逃げるように教室から出て行った。
いや…掴んで離すなとか言われても…。
そもそも、好きかどうかが分からないのにそんなのどうしろっていうの…。
仮に付き合ったとしても、私が主導権を握る立場にはなれないと思うんだよね。
雫ちゃんが間違いなく主導権を握って、私を引っ張ってくれるだろうし…。
「おはよ紅葉ちゃん。なに…あの人」
「おはよ雫ちゃん。いや…良くわかんない…」
「なにそれ…。あ!髪色変えたんだね!似合ってる!」
「そう!?ありがとぉ〜!」
いつもと変わらずニコッと笑う雫ちゃんの顔を見て、私は名無しの先輩に言われたことが頭から離れなかった。
『3年の草薙が、その子の事狙ってるらしいぞ』
気になりすぎて、その日の放課後霧島さんに連絡先を聞いて改めて話を聞くことにしたほど…私はそのことについて気になっていた…。
◇ ◇ ◇
「紅葉にとりあえず揺さぶりはかけといたけど、どうやらあいつの想像してる事は大体あってるんじゃねぇか?」
紅葉と話し終えた後、ほとんど誰も来ないと噂の非常階段で携帯を取りだし、依頼人に電話をした。
私が前に色々とやらかしてしまった時、仮ができてしまった為、面倒だが断れなかったんだけど!
大体、私は当事者じゃないから今何が起こってるのか分からないし、今私がこうやって動いている意味すら分からない。
「なるほど。まぁ私もその可能性が一番高いって思ってた。で、紅葉の性格上放課後にも話聞きに来るだろうから、そこで作戦の第2段階に進んでくれ」
「はいよ。本当にこれで貸し借りナシだからな?」
「分かってるって。私は紅葉に信用されてないからな。とりあえず、こっちの指示通り動いてくれればいいから」
そう言うと、依頼人は電話を切った。
まだ文句を言いたかったんだけどなぁ...。
大体、ここ1週間だけで良いから指示に従えってどういう事だよ!
しかも、アイツに相談もちかけてきたのって1年の女子らしいしさ!
「頭は良いのになんで急に臆病になるのかねぇ...。見てた感じ行けそうだったけどな」
私は、ついさっき見た自分を雇っている黒幕とその想い人を思い出してため息をついた。
次回のお話は1月10日の0時に更新します。
完全に私事ですが、今年高3になりまして、いよいよ受験生です。
英語と国語以外壊滅的なんですが...どうしましょう笑