第122話 私のイメチェン
美月ちゃんとの約束の日、私は待ち合わせの時間ぴったりに学校近くの駅に着いた。
私が着いた時には既に美月ちゃんが少し寒そうにして待っていた。
その姿を見て、なんだか変に緊張してしまう自分がいることに気がつく。
いや、文化祭が終わった後は初の対面だから、変に緊張しちゃうのは仕方ないかもしれないけどさ!
だって…あんなこと言われたし。変に意識しないように気をつけないと…。
そんな気持ちで堂々と向かったのに、意外にも美月ちゃんはそこまでのようだった。
「別にそんなに気にしなくて良いよ?私も私で、1番の友達って言われて結構嬉しかったし!」
「そう言ってくれると…。でも、なんだかごめんね?勇気を出して言ってくれたのに、私が良く分からない理由でその…」
「だから気にしなくても良いって!そんなところも、紅葉ちゃんの魅力の1つなんだから!」
「はっ、はい…」
「じゃあ行こうか!」
私がなんとなく恥ずかしくなっていると、美月ちゃんはそんな私に構いもせず手を引いて駅の中へと歩いていった。
こんな光景、雫ちゃんに見られたりしたら変に勘違いされそうだなぁ…。
まぁ、雫ちゃんがこんなところにいるわけ無いんだけど…。
それでもなんだか、少しだけ周りを気にしてしまう自分がいる。
当然雫ちゃんの姿はホームにも電車の中にもなくて、無事に?美容院に着くことができた。
そしてやっぱり、私の髪を切るのは美月ちゃんがどうしても嫌だと言うので、黒髪に染めるだけにしておいた。
「ねぇ、聞いても良い…?」
「ん?私が紅葉ちゃんの髪を切って欲しく無い理由?」
「良くわかったね…。うん。なんでそんなに頑なに嫌だって言うのかなって…」
「端的に言うと、昔からずっと長かったしバッサリ行くとあれかなって怖かったの。後単純に、私が長髪の子が好きって言うのも…」
「うん。なんか聞かない方が良かったような気がする…」
待ち時間の間にそんな会話をして自分で自分の首を締めた私は、自分の髪が黒くなるまで美月ちゃんと会話しないことに決めた。
なんだか…変に墓穴を掘って恥ずかしい思いをしそうだったし…。
私が1番びっくりしたのは、髪を染める作業だけで1時間近くかかったことだった。
染めるだけだし30分もあれば終わるかなって思ってたんだけど…。
前に来た時はもうちょっと髪が短かったから短時間で終わったのかな…。
「どう…かな?」
「…紅葉ちゃんちょっと待ってて!」
お店を出てすぐ、私が美月ちゃんに感想を聞いてみると、美月ちゃんは顔を赤くして私から少し距離をとった。
なんか…そういう反応をされると、どういう風にするのが正解なのか分からないんですけど…。
2分くらいして私の元まで帰って来た美月ちゃんは、少しだけ息を荒くしながらも似合っていると言ってくれた。
なんでそんなに慌ててるのか全然分からないんですけど…。
何かあったの?
「いや…!?うん!あれがあれなだけで、何も無い!」
「あれがあれって…」
「とにかく!私の見立ては間違ってなかった!めっちゃ可愛い!」
「そう?ありがと!」
「どうせなら、服でも買いに行かない!?もっと可愛くしたい!」
興奮した様子の美月ちゃんは、渋る私を無視してそのまま近くのモールへと私を連行した。
前に皆で来たモールとは違うけれど、ここもなかなか広い…。
あのモールの半分くらいの大きさかな…。
私全然出歩かないし、こういうところよく知らなかったんだよね…。
でも…今日はお母さんから髪を染めるお金しかもらってないから、あんまり持ち合わせが…。
美月ちゃんにそういうと、当たり前のようにプレゼントすると言って来た。
「さすがに悪いってば!今日も私が誘ったんだし!」
「良いの!半分私の趣味なんだし、プレゼントさせて?」
「いやでも…」
「あほら!あの店だよ!行こ!」
◇ ◇ ◇
後日、この時のことを皐月ちゃんに聞くと、美月ちゃんは完全に我を忘れていたらしい。
美容室から出た直後も電話をしていたらしく、そこで永遠と私について語られたらしい…。
2人がうまく行くように願っていた私からすると、なんだか複雑な気持ちになってくる。
元々、美月ちゃんが私に好きだと言ってくれた時から少しだけあれだったんだけど…。
◇ ◇ ◇
「よし!じゃあ紅葉ちゃん!とりあえずこれとこれ着てみて?」
「え!?いやこれ高く――」
「遠慮はしなくていいって!大丈夫!ほら早く〜!」
その勢いに負けて、私が更衣室で渡された赤のハイネックと黒のロングスカートを試着している間、美月ちゃんは他の洋服を選びに行っているみたいだった。
なんか…ここまでされると、逆に断りにくいんだけど…。
しかも、これ2つとも買うってなると平気で1万円超えるんだけど!?
いくら趣味とはいえ…友達にこれをプレゼントされるっていうのも…。
「ん〜!微妙!次これ!」
「ねぇ美月ちゃん…?これも結構高いよ…?ていうか、友達にここまで高いものプレゼントされるって申し訳ないよ…」
「え〜!?じゃあ〜紅葉ちゃんが私の言うことなんでも聞いてくれる代わりに、私は私がプレゼントしたいものをあげるって言うのどう!?」
「うん。それでも全然釣り合ってないと思うんだけど…」
「忘れた?私は紅葉ちゃんの事が好きなんだよ?好きな子がなんでも言うこと聞いてくれるって…これ以上ないくらい幸せだよ!?」
そんなことを顔を真っ赤にしながら熱弁されて…お店の中だったこともあって私が折れることになった。
ただ、プレゼントするのは良いけど、私が申し訳なくなるから予算は1万円以内ってことにしてもらった。
いや、1万円でも十分高いけど!折れてくれなかったの!
それから1時間弱、色んなお店を回ってお人形のように着せ替えられた結果、妙に可愛らしい服をコーディネートされた。
白のハイネックと紺色のロングスカート。オマケになぜか丸メガネまで買ってもらった…。
ギリギリこれで一万円っていうのは…微妙な気持ちになる。
「1万円以内って結構難しいね…。かなり時間かかっちゃった…」
「ねぇ…本当に似合ってる?なんか落ち着かないって言うか…」
「似合ってる!丸メガネが無いと大人っぽくなるけど、良い感じな塩梅で可愛らしくなってる!」
「なんか…髪染めたばっかりだし、余計に変な感じ〜」
トイレの中の鏡で自分の姿を確認しながらそう言う私と、満足げに頷いている美月ちゃん。
だけど、今この服が似合っているかは別として、この1時間私が着させられたもの全て可愛くて趣味が良かった。
なんて言うか…全部私好みっていうか…。
お母さんが買って着たらどれも迷わずお気に入りになるようなレベルだった。
どれだけ美月ちゃんは私の好みを把握しているのか…。
この、今かけている伊達メガネも良く分からないけど、確かにこれが無いと大人っぽかったし…。
美月ちゃんって将来、こういう仕事についたら成功しそうな気がする…。
「それ色んな人に言われる!それもあって、ちょっと真面目に考えてるんだよね!」
「そう言えば、凛ちゃんは将来ゲームで暮らしていくつもりなのかな?」
「凛は〜どうだろうね。あの子の場合、夏祭りの射的で乱獲した景品を適当にフリマアプリで売ってれば食べていけそうだけどね〜」
「まぁそれは…あるかもね…」
「だけど真面目な話、あの子はゲームで暮らしていくんじゃないかな。皐月かお兄さんあたりがお金の管理とかしてそうだよね〜」
なんだか、その光景を容易に想像できるところがなんとも…。
派手に遊びたい凛ちゃんが、皐月ちゃんに泣きついてるところなんか、容易に想像ができる。
私、将来のことなんて何にも考えてないのに、皆もう考えてるなんて凄いなぁ…。
10年後とかの将来、私が何をしてるかなんて想像できないよ…。
「誰かが高校時代が1番楽しいって言ってたけど、その通りかもね…」
「なんでそんな高3の人が言うようなこと言ってるの…?」
「だって〜私ね?さっきまで色々文句とか言ってたけど…今この瞬間が最高に楽しいの!この時間がずっと続けば良いのにな〜とか思ってる!」
「も〜!紅葉ちゃんのそういうところが可愛いって言ってるの!自覚して!」
「え〜!?いやそんなこと言われても…」
その後は適当にモールの中を探検して6時前には家に帰った。
ちなみに美月ちゃんからのお願いは、雫ちゃんと3人でいる時は、必ず美月ちゃんとだけ手を繋ぐこと!と訳のわからない条件をつけられた。
この約束になんの意味があるのか全くわからないんだけど…。
それでも、家に帰った時お母さんにも可愛いって言われたし、とりあえずは言うことに従うことにしよう…。
次回のお話は1月7日の0時に更新します。
新しいお話を出すのが4月頃になると思うので、それまでにはこっちを片付けたいと思っています。
本当に4月に新しいお話が出せるのか、それまでにこっちが終わるのかは未定ですけども(苦笑)