第118話 ある意味予想通りの展開
修学旅行のお話は意外と短めになりそうです。
飛行機の中で重たすぎる恋愛話を聞かされた私は、そのまま宿泊するホテルに着くまでずっとグッタリしていた。
初日と最終日はほとんど移動で、特に何もすることがないからいいものの、明日以降もこれが続くとさすがにしんどい。
ていうか、クラスの子の恋愛話なんて興味ないのに紫苑が半ば無理やり話してくるんだもん!
修学旅行で完全にテンションが上がってるじゃん…。普段こんなにアクティブじゃないのに…。
「うわ〜結構広いね〜」
「春奈?ほんと大丈夫?顔色すごいけど…」
ホテルの部屋に着くなり、窓の景色を見て更にウキウキしている紫苑と、いつも通り冷静なメグ。
もう1人のルームメイトは、仲がいい子の部屋に遊びに行っている状態で、私は思わず床に座り込んでしまった。
今は大体16時だけど、ここから2時間はもう自由時間だ。
何かのクラブの合宿じゃないんだからさ…。
別にそんなに自由時間なんていらないんですけど…。
「あそう言えば春奈。あんた、先輩から連絡きてんじゃない?私の方に春奈から返事がこないって愚痴がきたんだけど…」
「なんでメグに…?」
「そんなの知らないわよ。とにかく、さっさと連絡返してあげなさい」
なぜか怒られた私は、飛行機を降りてから一度も開いていなかったスマホを開いてみる。
するとそこには、4件ほど先輩からメッセージが来ていた。
紫苑が窓際でニヤついているのが少しムカつくけど…とりあえず返信はしておく。
もう着いた?とか、なんで返信くれないの?とか内容が薄すぎて、数秒もあれば終わるんだけど…。
「ていうか、これメッセージ来たの20分前じゃん!そんなに早く返信が欲しいって言われても…」
「普段と違ってあんたと会えないから、余計に構って欲しいんじゃない?」
「そんな子供みたいなこと先輩が言うわけないじゃん…」
「でもでも!行かないでって言われたんですよね!?」
「…なんであんたはそんなに嬉しそうなのよ…」
私が紫苑に呆れていると、すぐさま先輩から返信が来て、暇だから話そうと訳のわからない理由で通話することになった。
まさかとは思うけど、メグの言う通り寂しいから話したいだけなんだろうか…。
いくら先輩でも、そこまで子供っぽいことはない…はず。
ちなみに他の人は、部屋でトランプやゲームをしたり、勉強や文化祭のことを決めているらしい。
まぁこれは、変な気を利かせて部屋を出て行った2人から後に聞いた話なんだけども…。
今回は基本、先生が普段から仲良くしてる子達をグループにして部屋を決めたらしいから、無駄に長い旅行期間でも退屈はしないだろう。
私は…毎日先輩から電話がきそうだと少し憂鬱だけど…。
「だって〜!朱音は勉強が忙しいみたいで構ってくれないし、1年の連中もなんか付き合い悪いんだもん!」
「後輩達の付き合いが悪いのは、先輩の日頃の行いが悪いせいだと思いますけど…。ああ、そう言えば先輩」
「ん?なんだ?」
「いえ、さっき友達から聞いたんですけど、2年の人達の間で先輩がいろんな子から狙われてたって本当ですか?」
私がそう尋ねると、画面の向こうで先輩が複雑そうに微笑んだ。
別に浮気がどうのと言う心配は全くしてないし、先輩がこうやって電話したいと言ってきている時点で、そんな可能性はないだろう。
ただ…気になるじゃん?
先輩の彼女として、先輩がモテるって言われたら少しなりとも心配にはなる。
「夏祭りとか、いろんな子に誘われてたって…」
「まぁ〜誘われたっちゃ誘われたかなぁ〜。でも、それがどうかしたのか?」
「いや…先輩は全然そんなこと言ってこなかったので、ちょっと…」
「あ〜ごめんごめん。私は昔から春奈一筋だし、勝手に言う必要なんてないかな〜って思ってた!ごめんね」
「いや…別に怒ってる訳じゃないですけど…」
ていうか、さりげなく聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなことを言わないで欲しい…。
そりゃ!私だって小さい時から先輩一筋だけど!むしろ、先輩より私の方が先輩のことを好きだって自信あるけど!
「心配なら、帰ってきたときにでも履歴見せてあげようか?全員ちゃんと断ってるぞ?」
「…なんですかそのニヤケ顔。すごく嫌な予感がするんですけど…」
「別に〜?なんでもないぞ〜?」
「まさかとは思いますけど、断る口実に私がどうとか言ったんですか!?」
「大正解〜!さすが春奈〜!」
正確には「私は春奈が好きだから、もし君が私にそう言う気があるならごめんな」と誘ってきた全員に送ったらしい…。
何やってんだろ…。ていうか、このとき私達付き合う前だよね!?
大胆すぎませんか先輩…。
地味にちょっと恥ずかしいし…。
その後、他愛のない話をダラダラしていると、あっという間に夕食の時間になってしまった。
さすがに夜電話するのは今日はやめておこうと言った時は凄い駄々をこねられたけど、明日また話すと言うと、なんとか引き下がってくれた。
「じゃあ先輩。また明日」
「うん。早く帰ってきてね…」
「なんですか...。もう子供じゃないんですから…」
「春奈がいないと寂しいの〜!学校サボって私もそっちに行こうかなぁ...」
「も〜分かりましたから!帰ったらできるだけ一緒にいてあげますから!絶対そんな馬鹿なことしないでください!」
自分で言っておきながら少し照れるなんて、なんだかみっともないなぁ…。
いや、こんなことを言わせる先輩が悪いってところもあるけども!
そうして電話を切ると、いつの間にか入口の方にはルームメイト以外の女の子が数人いた。
全員微笑ましそうにこっちを見ながら、私と目があうと一目散に逃げ出した。
多分、紫苑が言っていた私達を崇めてるとか言う人たちだと思うけど…。
盗み聞きは趣味がいいとは言えないなぁ…。っていうか、あの人達いつからいたの…。
◇ ◇ ◇
「結構前からいたよ?あんた達が会話に夢中で気付かなかっただけ」
「あのさ〜!私にプライベートな時間ってないの!?」
「知らないよ〜。あの子達に言ってよ…」
「勝手に崇めるとかはこの際良いけど、先輩に迷惑をかけそうで怖いんだけど!」
「それは大丈夫!そこら辺はちゃんと注意してるから!最低限のマナーは守りなさいって!」
「盗み聞きとかしてる時点で守れてないけどね!」
そんなことがあって、夕食中に紫苑とバッチバチにやりあったのは仕方のないことだと思う。
私に迷惑をかけるのは百歩譲って良いけど、先輩に迷惑をかけるのは本当に許せない。
盗み聞きなんて言語道断!
「そこら辺はあの子達に注意しておくからさ〜。今回は見逃してくれない?」
「次やったらいくら私でも本気で怒るからね!?」
「今もちょっと怒ってるじゃ――」
「何か言った!?」
「なんにも!?」
久しぶりにこんなに怒った私は、紫苑からデザートとして出たプリンを奪い取ってそのままパクパクと食べた。
盗み聞きの責任をプリン一個で収めてあげたんだから、今回は我慢してもらおう。
そいて案の定、夜中になると先輩から「寂しいから寝るまで構って!」というメッセージが来た。
ルームメイトには先に寝ると言い訳して、布団の中でニヤつきながら通話したのは良い思い出になったと思う。
私が何をしているか、少なくとも横でダラダラしていたメグには絶対気付かれてたけど…。
結局寝たのは1時過ぎになったけれど、十分話したし明日は通話をお休みしても問題ないだろう。
そう考えながら眠った私は、先輩の寂しがりの度合いを翌日以降初めて知ることになる。
次回のお話は12月26日の0時に更新します。
1周年を迎えたその日に早速投稿日の予告を間違えました...。
投稿して予告日を変えるのは抵抗あるので...
ポンコツなの怒らないでくださいm(_ _)m