第117話 飛行機にて
文化祭3日目は皆様のご想像にお任せします。
あんまり長くするとくどいと思い、このお話から修学旅行のお話になります。
今回のお話は春菜ちゃん視点でのお話になります。
この学校の修学旅行はちょっと頭が悪い。
唐突だけど、こんな愚痴をこぼして見たくなる。
なにせ、文化祭が数日後に迫っているこの時期、そして5日間という無駄に長い期間福岡や長崎に行く。
別に2・3日でいいでしょと思うけれど、飛行機で行くからなのか無駄に長い。
そして今、私は飛行機の中で隣になった紫苑に根掘り葉掘り最近のことについて聞かれている。
近くに男子がいない事をいいことに、紫苑は私の席に乗り出して妙にノリノリで聞いてきている。
「それで〜?最近どうなのよ先輩とは」
「紫苑どうしたの…。あんた、あんまりそういうの聞いてこないじゃん…」
「メグから聞いてなんか面白そうだなぁ〜!って。うちの学校さ、男子にバカが多いから女子同士で付き合うとかザラじゃん?しかも、結構人気なんだよ?鈴音先輩」
「そうなの…?全然そういう話聞いたことないんだけど…」
「そりゃ〜3年の中だと特に可愛いし〜?スタイルもまぁまぁ良くて、おまけに後輩には優しい!モテないわけがないでしょ!?」
妙にハイテンションで言ってくる紫苑に、普段のこの子を重ねるとまるで別人にしか見えない。
普段の紫苑は、どちらかと言えば大人しい子で、ボブカットと妙な妹感が少し可愛い女の子だ。
ちなみに、今年文芸部に入ってきた沙織ちゃんだっけ?朱音先輩と仲が良い子のお姉ちゃんだったりする。
お姉ちゃんなのに、なぜか妹感が拭えないって前に愚痴ってたっけ…。
「ていうか待って?うちの学校って、私達みたいな人珍しくないの?」
「普通の共学がどうかは知らないけど、女子校と同じくらい女の子が好きな子は多いと思うよ?」
「なんでそんな…。初耳なんだけど!」
「さっきも言ったでしょ?男子の頭が悪すぎて、皆恋愛対象で見れないんだって。そうすると、自然に女の子相手になるでしょ?」
「いやそう言われても…。結奈は彼氏いるし、うちの学校にも変に人気の男の人いるじゃん…。3年のなんだっけ…。ほら、クールそうなさ」
「響先輩のこと?結奈の彼氏もそうだけど、一部の頭がいい男子は好きになる子もいるんじゃない?私も断然女の子派だけど!」
本当にいつもとは別人のようにそういう紫苑は、そのままウキウキで好みのタイプを語り始めた。
この子とは同室だから、これから4日間このテンションで来られると、そういうのに慣れていない私は少し辛いかもしれない。
メグにこの子の扱いは任せた方がいいかもしれない。
それに、夜は先輩が絶対電話してくるし、その対策も考えないといけない。
さすがに部屋で電話をすると、何を言われるかわからないし…。
「ていうか、先輩が人気なのっていつからなの?うちのクラスにも狙ってた子いるの?」
「鈴音先輩が人気だったのは〜皆男子がバカだと気づき始めた頃じゃない?1年の後半からとかかな?」
「以外と早かった…。私だけ知らなかったの?」
「一部の人は多分知らなかったんじゃない?私は恋バナが好きだから知ってたってだけ〜。ちなみに、このクラスの女の子達が狙ってる人、ほぼ全員わかるよ!」
「ドヤ顔で言われてもねぇ…」
でも、先輩を狙っている子がいるんだとしたら、その子には少しだけ警戒しておきたい。
先輩が他の子に取られるなんて想像したくないけど、私が先輩に甘えていたらいつかそうなっちゃうかもだし…。
紅葉達じゃないけど、先輩の取り合いになった場合、私が勝てる可能性は多分低い。
取り合いになる時点で、先輩の気持ちが私から離れちゃってるってことだし…。
先輩が私を好きでいてくれるのが当然だなんて傲慢な考え方をしていたら足元をすくわれかねない…。
「一応言っとくと、春奈と付き合う前に鈴音先輩を狙ってた子達は3人くらいいたかな〜」
「そんなにいたの!?」
「多分、例の夏祭りに全員誘ったんじゃないかな?あの先輩、後輩には躊躇なく連絡先くれるし」
「はぁ…。油断してたら本当にまずいかもしれないね…」
「まぁ、春奈と付き合い始めてからは全員身を引いてるみたいだけど〜」
ニヤニヤしながらそういう紫苑は、完全に確信犯だった。
この子、たまにこういうところを見せるんだよね。
人を困らせて喜ぶっていうか…。
昨日文化祭での模擬店がメイド喫茶になっちゃったのも、私がフロアに立つことになったのもこの子のせいだし。
しかも、自分から率先してメイドリーダー?したいとか言っちゃってさ〜?
絶対先輩が来たら浮かれるもん…。一応来ないでとは言うけどさ!
「皆略奪愛とかは好きじゃないみたいだよ。それに、休み時間の度にイチャつかれてちゃ、割り込んだらダメって雰囲気出るって〜」
「…それは言わないで」
「一部の女の子達から崇められてるの知ってる?あんた達カップルの人気、結構えげつないよ?」
「本当にやめてほしいんだけど…。先輩にも毎時間くるのやめてってその度に言ってるんだよ?」
「その割には毎回嬉しそうじゃない…。そう言うところよ…」
そりゃ、好きな人が毎時間来てくれるのは嬉しいし、毎日一緒に駅まで行ってくれるけどさ!
それだけで崇められるって…。
女子校のアイドルとかと付き合ってる子がそうなってるのは作品だと定番だけど…現実で起こると面倒なことこの上ない。
紫苑の話ぶりだと、他のクラスの人にも狙ってた人はいて、皆私達を応援してくれてるらしいし…。
でも、そんな中夏祭りを私達と一緒に行ってくれた先輩には…なんだかちょっと嬉しい。
「あ、さっきの話に戻るけど、このクラス全員の狙ってる人が分かるって」
「正確には全員じゃなくて、ほぼ全員かな。流石に、ほとんど関わりがない子の狙ってる人なんて知らないよ」
「じゃあ、メグの好きな人って知ってる?先輩と付き合う前に色々相談に乗ってもらって、その時に約束したことがあってさ…」
「メグね〜。あの子の好きな相手も、確か女の子じゃなかったかな〜」
その話を聞いて、私は耳を疑った。
メグに相談した時、女の子同士と言う理由で難色を見せたことがあったような気がする。
その事もあって、てっきりメグは男の人が好きなんだと思っていた。
「じゃあ、メグもこの学校の女の子はほとんどが女の子が好きだって知らないの?」
「あ〜どうだろ。メグって一部の人としか関わり持ってないイメージだからなぁ〜。ただ、知らないんじゃない?知ってたら私に相談なんてして来ないと思うし」
「相談受けてたの?」
「まぁね〜。私、結構恋愛の小説とかアニメ好きでさ!それの受け売りで相談に乗ってるんだよね!」
なぜか自慢げにそう言う彼女は、控えめな胸を張って高らかに笑った。
完全にここを飛行機の中だと忘れているような気がする…。
そんなことしてたら先生が――
「うるさいわよ渡辺さん。もう少しボリューム下げてね」
「あ…はい。ごめんなさい」
ほら来た。飛行機には後1時間弱乗らないといけないんだし、のんびりクラスの子の恋愛事情を把握していこう。
ちなみに、この後聞かなきゃよかったと思える話がいくつも出て来たのは、修学旅行1つ目の思い出になった。
例えば、クラスの女の子間で現在進行形で起きている三角関係。
結奈の彼氏が浮気しているかもと相談されて、紫苑が現在捜査中のこと。
特に酷かったのは、隣のクラスの昼ドラのような男女関係のもつれ。あれだけは、私の記憶から完全に消去することにした。
「どう?面白かった?」
「最後の話を聞いて面白いって思える人はそう多くないと思うけど…」
「そうかな〜?当事者目線はそりゃきついだろうけど、第三者視点だと面白くない?」
「面白くないよ…。なんで高校生のくせにそんなドロドロの恋愛してんの?って気になる…」
「それはそれであり!」
「ありなわけないでしょ…」
結局その後、私は最近の先輩の話をさせられた。
なんでこんな…自らの恋愛模様を赤裸々に語らないといけないのか…。
今バリバリ昼間なんですけど…。こう言うのって普通夜にするものじゃないの!?
「そんなの決まってないでしょ〜?でもそっか〜順調なのね〜」
「もう満足した?」
「うんうん!特に、寂しがって修学旅行に行くの引きとめようとしてた話とか尊いなぁ〜って感じで萌える!」
「思い出させないでよほんとに…」
「でも、私達のクラスでもそう言う理由で休んだ子いるよ?」
「…は!?」
思わず変な声が出たけれど、すぐに口を抑える。
なに?彼女とイチャイチャしたいとか、会えなくなるのが寂しいから今日の修学旅行休んだ人がいるの!?
意味が分からないんだけど!
「確か運動部の子だったかな〜。1年に彼女がいるって聞いたことあるんだけど、あんまり関わりないから詳しくは知らないんだよね〜」
「へ〜。随分熱々なんだね…」
「聞いてる限りだと、あんた達と変わらないくらいイチャイチャしてるらしいよ」
「知らないよそんなの…」
それから着陸するまでの30分、ひたすら恋バナを続けた私達は、飛行機から出る頃には謎の疲労感に襲われていた…。
次回のお話は12月23日の0時に更新します。
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