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第114話 調子に乗りすぎた結果...

学校から10分くらい歩くと、小さな漫画喫茶がある。

と言っても、今年入ったばかりの紅葉たちは知らないような穴場の店だ。


店内はかなり綺麗で、比較的料金も安い割りにはお客さんが少なく、時間を潰すにはもってこいの場所だ。


私はそこで、春奈のお店が終わるまで暇をつぶすことにした。

気になっていた漫画の続きを見たりだとか、身近な人が書いているネット小説を読んでいると、あっという間に16時を回っていた。


「そろそろかなぁ〜」


そんな独り言を呟くと、思った通り春奈からお店が終わったとの連絡が来た。

文面からなんとなく、少しだけ怒っている雰囲気があるのは気のせい…かな。


とにかく、急いで学校まで戻る。春奈への言い訳は、ちゃんと潰した時間の中で考えている。

ついでに、どうやってお泊まりまで持っていくかも、ちゃんと計画済みなのだ!


◇ ◇ ◇


「春奈〜!お疲れ様!」


なぜか最初に校門前に着いた私は、2分ほど経ってから現れた春奈に、これでもかというほど笑顔で手を振った。

そんな私の姿を見て、なぜか制服姿の春奈は複雑そうに笑っていた。


「なんだよ〜。何かあったのか〜?」


「ありましたよ...。来ないでって言ったのに…」


「良いじゃんか〜!明日はなんでもしてあげるから〜ね?許してよ!」


「なんでもですか…。じゃあ、オカルト研究部のお化け屋敷にでも行きますか...」


「...ねぇ春奈?欲しいものとかない〜?先輩がなんでも買って――」


「楽しみですね〜!」


これは…本当に明日連れていかれそうなんだけど…。

さっきとは完全に立場が逆になり、私が泣いて謝って、春奈がニヤニヤしながら駅まで歩いている光景がそこにはあった。


オカルト研究部のお化け屋敷なんて、去年から話題になっているけれど、そこら辺の遊園地のお化け屋敷よりよっぽど怖い。


遊園地なんかでは、極力お客の方に触ることなんてないように作られる。

しかし、あくまで文化祭なんだし、お化け屋敷でそこまでこだわる人は、残念ながらオカ研にはいない。


そりゃ、お客さんの中には女の子もいるから、そこまで触られたりはしないけど…それでも、遊園地なんかより遠慮というものがないのは事実だ。


そのせいで、お化けが苦手な子は絶対に近づかない事が当たり前なのだ。

1年生でも、親切な先輩から話があれば近付こうとは思わないだろう。


「ねぇ春奈…。本当にやめない?私がこの間どうなったか知ってるでしょ…?」


「先輩がさっきなんでもするって言ったんです〜。それに、私が来ないでって言ってたのに来たじゃないですか…」


「本当に悪いと思ってるからさ…ね?お化け屋敷はやめない?」


「やめません〜!」


もう完全に、母親に泣かされている小さな子供みたいな感じになってしまった…。

そんなこと気にならないくらい、私は我を忘れて泣いて謝ってるんだけど…。


でも、こうなったら意地でも泊まってもらわないと、もう明日休むから…。

春奈との文化祭デートは、そりゃ楽しみだけど…お化け屋敷に行くなんて絶対に嫌だ…。


地獄に行くと分かっていながら、ノコノコその道を歩くほど、私は呑気な性格はしてない。


「先輩?なにを決めたのかは知りませんけど、明日来ないとかやめてくださいね?結構楽しみにしてたんですから〜」


「じゃあお化け屋敷だけはやめてよ!」


「...来ないつもりだったんですね。はぁ。なら、今日は私の家に泊まってください。朝起きて、来ないなんて言われるのは嫌ですから」


「…嫌って言ったら?」


「先輩の家に泊まります!」


今日1番とも思えるほどの笑顔でそう言った春奈が、過去1番怖く見えたのはいうまでもない。


普段優しくて可愛い人が怒ると、普段とのギャップでさらに怖く見えるって誰かが言っていたけど…本当だったんだ。


今ね…目の前の春奈が鬼に見えるの…。もうすごく怖い…。

普段は私がリードしてるのに、この瞬間だけは春奈に逆らえる気がしない。

まさに、蛇に睨まれたカエル状態だ。


「じゃあ…はい。春奈の家に行きます…」


「素直ですね先輩。じゃあ行きますよ」


「はい…」


そういうと、春奈はさりげなく私の手を握って、そのまま普段とは違う方向の電車に乗せられる。


私は、電車の中でも子猫のように震えて、春奈のニコニコした顔を見つめていた。

決して目の奥は笑ってなく、数年ぶりに見る本気で怒っている顔。


確か前にこの顔を見た時も、私が調子に乗りすぎてこうなったような気がする…。

そして案の定、その時もお化け屋敷かどこかに連れていかれてお仕置きをされた気がする…。


あの時に、二度と怒らせないようにしようって誓ったと思うんだけど…。


「そういえば先輩」


「ん…?どした?」


「なんで震えてるんですか…。そんなにお化け屋敷が嫌なんですか?」


「そうだよ!せめてさ…紅葉のクラスがやってる方のお化け屋敷にしないか…?そっちの方がまだ私も…」


「先輩。今日の服可愛いですね〜。とっても似合ってますよ!」


やっぱり聞く耳を持ってくれない…。

可愛い笑顔で私を褒めてくれる春奈なんて、めっちゃレアなのに…なんでだろう。

今は全然はしゃぐ気になれない。


普段なら、すでに何回かからかって、顔を真っ赤にした春奈の可愛い顔を見ながら帰ってるはずなのに…。


こんなことになっても、今日春奈のメイド服姿を見たのに後悔はないけども…。

誰かが言ってたよね。出来るだけ後悔のないように生きろって!

それを実行しただけなのに、明日ものすごく酷い目に遭う気がするんですけど!


「なっ、なぁ春奈?紅葉のクラスのクレープ食べたか…?」


「なんですか急に…」


「いや…すごく美味しかったから、明日お化け屋敷に行く前に…どうかなって…」


「良いですけど、それでもお化け屋敷は取り消さないと思いますよ?」


変わらず笑顔でそう答えた春奈は、あろうことか楽しそうに鼻歌を歌い始めた。

電車の中なのに…。周りには何人か春奈と同じ制服を着た女の子もいるのに…。


怒りすぎて、周りが見えなくなってるのかもしれない。

まだ、感情を露わにして怒ってくれた方が、いくらかマシだ。こうやって静かに怒られると…普通に怒られるより何倍も怖い。


それこそ、朱音みたいにストレートに怒ってくれたら慣れてるから対処が出来る。

だけど、今の春奈みたいに怒られると…対処の仕方がまるでわからない。


なにか物で許してもらおうにも、話を聞いてくれないし…大人しくお化け屋敷に連れ込まれるしかないのかな…。


「先輩。何か勘違いしてませんか?私は怒ってませんよ?先輩と一緒にチェキを取れたのは嬉しかったですし、心のどこかで、どうせ来るんだろうな〜とは思ってましたから」


「じゃあなんで…」


「別に。いつも先輩の思うままにされてるので、今回は私の好きなようにしたいなって思っただけです…」


少し照れながらそう言った春奈は、言い終わった途端、自分が何を言ったのか理解したのか、改めて顔を赤くした。


一方の私は、なんだか遠回しに好きだと言われたような気がして…とっても嬉しかった。

もちろん表情には出さなかったけど、思わず心の中でガッツポーズを取ってしまった。


思い返せば、私が春奈に対して好きと言うことはあっても、その反対はあまりなかったような気がする。


だけど、今回初めてそんなことを言われて…飛び上がるほど嬉しい。

もちろん、春奈が私のことを好きなのは知ってるけど…言葉にしてくれると、やっぱり嬉しいじゃん!


「なんで急に嬉しそうにしてるんですか…?」


「ん〜?なんでもな〜い!」


電車の中でそんな調子だった私達は、春奈の家についても終始そんな感じだった。

弟君に怪訝そうに見られながらも、四六時中イチャついて…夜になる頃には、いつもとあまり変わらない感じに戻っていた。


春奈は、自分が電車で言ってしまったことがきっかけでいつもの調子を取り戻したらしい。


だけど、意地でも明日のお化け屋敷は取り消してくれなかった。

残念ながら、この時点で私の地獄行きは決定してしまったらしい。


せめてもの抵抗として、春奈の横で寝ることを提案してみる。

まぁ断られても、春奈が寝てからベッドに忍び込むけど…。


「え!?いやちょっと…。近くないですか?」


「良いじゃん別に…。私ら付き合ってるんだし…」


「いやそうですけど…。それとこれとは話が--」


「おやすみ!」


春奈が離れる前に一緒に毛布をかぶって、出来るだけ密着する。

そして、少し…いや結構恥ずかしかったけど、頬にキスをして目を閉じた。


それから体感時間10分ほど、心臓の鼓動が激しくなって全く眠れなかったのは言うまでもなく…。


しかも寝てるフリを寝てるから、私が寝ていると思っている春奈が言った独り言も、バッチリ聞こえていた。


「先輩…。私がいつまでも我慢できると思わないでくださいよ…?」

次回のお話は、12月15日の0時に更新します。


12月の19日で、丁度投稿し始めて1年です。

自分に頑張ったで賞を贈りたい気持ちでいっぱいです!


続けていられるのも、読んで下さり、応援してくださる皆様のおかげです。

本当にありがとうございます!m(_ _)m


15日·18日で更新すると思いますが、19日にも丁度いいので更新しますね!

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