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第111話 文化祭3日目 第3部 

美月さんと別れた私達は、取りあえず体育館の方へと向かっていた。

初日で紅葉ちゃんの回りたいところは大体回ってしまったので、今日は私が行きたいところでいいよと言ってくれたんだけど…。


正直、告白のことしか考えてなかったから行きたいところなんてないんだよね…。

強いて言えば、参考の為に告白祭なるものを見て見たかっただけなんだけども…。


この学校には確か…よく分からないジンクス?みたいなものもあったけれど、胡散臭すぎて誰も信じてる人はいないとか春奈先輩が言ってたっけ…。


まぁ実際、ジンクスなんて文化祭実行委員の人が盛り上げようと広めた作り話っていうオチだろうけど。


「あそう言えばね〜?昨日ここに、さっき会った凛ちゃんのお兄さんが立っててね〜?すっごい歌上手かったの!」


「そうなんだ…。じゃあその後かな。私達に合流してくれて、1日中凛さんのお目付役でついて来てくれたんだよね」


「へ〜優しいんだね〜。あ!昨日は凛ちゃんと何してたの?」


「ん〜射的とか回ったかなぁ〜?」


ちょっと遠くを見ながらそういうと、紅葉ちゃんが何かを察したように苦笑した。

さすがの紅葉ちゃんでも、凛さんと射的が組み合わさればどうなるか、すぐに想像がつくらしい。


まぁ、紅葉ちゃんも夏祭りで凛さんの射撃の腕は見ているから…想像がつきやすかったのかもしれない。

それにしても…どうしたらあんなに射撃が上手くなるのか…。


いや、今はこんなこと考えている場合じゃない。

今考えるべきは、紅葉ちゃんへの告白をどうするかだ。


本当に美月さんが、恋愛がどんなものなのかよく分かっていないと紅葉ちゃんに言われたのなら、多分私も同じことを言われる。


そりゃ無理やり押し切れる可能性もあるけど、そんなことをしても、数ヶ月後には振られる未来が見える。


一度付き合って別れるということは、もう一度付き合える可能性が限りなく低くなることと同じだ。


「雫ちゃんどうする?座る?」


「え…?ああ〜そうだね…」


今体育館では、何かの劇が行われている。

私は全くもって興味がないけど、告白祭になると席が取れない可能性を考慮して、特段行きたい場所もないので早めにここに来たんだけど…。


よくよく考えたら、お昼ご飯を買いに一度出るんだからあんまり関係なかった...。

こんなことにも気づけないなんて、全然周りが見えていない証拠だ。


劇が終わるまでの2時間ちょっとで、考えを整理してまとめないといけない。

その結果、告白をどうするか…予定通りするとしたら、14時にはここを出てあの場所に行かないといけない。


それ以外の時間だと、帰るのが遅くなってしまうし…。

だからタイムリミットは、告白祭を含めた3時間。


「ねぇ雫ちゃん。これってなんの劇…?」


「待ってね…。ロミオとジュリエットだって〜」


「あっ…あ〜あれね!」


「もしかして…紅葉ちゃん知らないの?」


少しだけ信じられないような顔をした後、紅葉ちゃんは私を無視してステージに集中し始めた。


多分知らないっていうのは図星だったんだろう。

別に、知らないなら知らないで、適当に校内を見ようか?と提案しようと思ったんだけど。


紅葉ちゃんがどうかは分からないけど、私は音楽番組なんかで興味のない歌手が出て来たら飛ばすタイプだ。


要は、知らないものにはとことん興味のないタイプってことね。

紅葉ちゃんもそういうタイプだったら、この劇は退屈だろうし他のところに行ってもいいかなと思ったんだけど…。


「まぁ…面白そうだしいいか…」


横で真剣に劇を見ている紅葉ちゃんを見て、その提案をするのは不要だと悟った私は、大人しく例のことを整理することにした。


まず大前提として、私が想定している通りの理由で美月さんが振られた場合、私が告白しても結果は見えているので告白するのは無しだ。


仮に違っていた場合、その理由にもよるけれど告白はしない。


例えば、他に好きな人がいるとか言われて美月さんが振られた場合、その紅葉ちゃんの好きな人が誰なのか、探りを入れて見ないといけなくなる。


振られる前提で、振られた後に好きな人を聞くなんて勇気は、私にはない。

その点から考えれば、美月さんはあの時うまいかわし方をした。


「想像している通りだと思う」っていうのは、遠回しに言えば正確な答えは教えないよ?と言われているのも同じだ。


「失敗した…。あの時もっとしっかり聞いておくべきだった…」


「ん?何か言った?」


「え!?ああ〜いやなんでもないよ。大丈夫」


紅葉ちゃんに直接聞くっていうのもまずありえない。そんな度胸があれば、告白したほうが早い。


冷静になって、もう一回よく考えて見よう。

私は、美月さんがどう振られていた場合のみ、告白することが出来るんだろう。


同じ理由で断られる可能性があるのはダメ。好きな人が他にいる等も、まずはその人が誰なのか探りを入れないとだからダメ。


美月さんのダメージがほぼ0で、なおかつその後も気まずい関係にならず、比較的いつも通りの関係を築けている振られた理由。


ん?私が告白できる美月さんが振られた理由って…もしかして無い!?

そう考えるなら、またも美月さんに知恵比べで負けたような気がする。


おそらく、昨日告白したのは皐月さんも絡んでいるだろう。けど、美月さんが振られた場合、私が告白できない可能性まで考えていたのだとしたら、そこらへんの高校生のレベルを超えているような気がする。


普通の恋愛のはずなのに、ここまで考えられるって…正直意味が分からない。


今、私が大声で叫びたいことを当てられる人は、そこまで多くはないだろう。

さすがにこの場で叫ぶわけには行かないので、心の中で思いっきり叫ぶ。


『普通の恋愛なのに、普通そこまでする!?』


別に社長令嬢との身分違いの恋とか、ちょうどステージの劇でやっているような、禁じられた恋なんかじゃない。


普通の、世間では青春と言われる1ページのはずなのに、なんでここまで頭を回して必死に考えているのか。

いや、それは私も同じだけどさ…。


しかも、予言とか言って挑発して来たところを見ると、美月さんは振られとしても、私が告白できなくなるからと割り切っていたのはほぼ確定でいいと思う。


やってくれたなぁ…。小説の異世界物で、悪役なんかがよく使うセリフだ。

そんなの、現実で使う人なんていないと思ってたけど…こういう時に使うんだ…。


ここまでコツコツ貯めて来た貯金を出そうと思ったら、貯金箱の蓋が開かない!みたいなイライラ感がある。


実際私は、鈴音先輩のアドバイスで、着実に紅葉ちゃんとの距離を縮めて来た。

後は告白するだけというところで、精神面での大きな壁がそびえ立っている。


凛さんのいう通り安定行動をするならば、ここは告白しないでもう少し時間をかけるべきかもしれない。

それなら、私の状況はあまり変わらない。


だけど今までと違うのは、おそらく物凄いスピードで美月さんが距離を詰めてくるところだろう。


「はぁ〜面白かったね〜!」


そんなことを考えていると、少し涙目になっている紅葉ちゃんが、まだステージの方を見ながらそう言った。


どうやら、劇が終わってしまったらしい。

確かに、ロミオとジュリエットって言うのは、最後はバットエンドみたいな終わり方だったし、純粋な紅葉ちゃんなら泣いちゃうか。


涙をハンカチで拭いながらうなづいている紅葉ちゃんを見て、やっぱり可愛いなぁ〜と思う。

だけど、それとこれとは話が別だ。


絶対にこの恋愛ゲーム?には勝たないといけない。

そうなんだ。勝つために、今は焦るべきじゃない気がする。


勇気ある撤退は、恥じゃない。みたいなことを誰かが言っていたような気もするし!


「そう。良かったね」


「うん!すっごく面白かった!」


そしてその後、30分後の告白祭までの間にお昼ご飯を買いに行く。

告白を見送ると決めた今、告白祭なんて見る必要ないんだけど…まぁ良いじゃん。


ちなみに告白祭の結果は、2時間くらいで10組以上が告白をしていたけれど、成功したのは2組だけだった。


なんか…物凄く自信を無くしたんですけど。

美月さんの予言、ほとんど…と言うか、全部当たってて少し怖い。


なにあの子。実は宇宙人で、とんでもないことが出来るとか言わないよね…。


もちろん、今日も美月さんの家に泊まるとは言わなかった紅葉ちゃんは、久しぶりに私と一緒に帰ってくれた。


その2人きりの時間が、今日1番…。というか、この文化祭で1番楽しい時間だったのは言うまでもない。

次回のお話は12月6日の0時に更新します。


今回のお話、告白を期待していた方には申し訳ないのですが、付き合う前が1番面白いと思うタイプなので、もう少しだけお付き合いをm(_ _)m


次回は久しぶりに春奈ちゃん達が出てきます〜

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― 新着の感想 ―
[良い点] 付き合い始めたら一安心で、後はイチャつくだけですからねぇ。 じれじれしますがそれが冒険譚のそわそわの様な魅力があって好きです
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