第109話 文化祭3日目 第1部
文化祭3日目は、雫ちゃん視点でお話が進みます。
文化祭2日目が終わった夜、私は協力者である凛さんと電話をしていた。
紅葉ちゃんは今日も美月さんの家に泊まるとかで一緒には帰れなかったけれど、美月さんの態度から察するに、想定外のことにはなっていないと思う。
ただ、今日は急遽皐月さんと、凛さんのお兄さんが同行することになってしまって、ほとんど明日についての話ができなかった。
皐月さんは途中で私達のお店に呼ばれて行ってしまったけれど、凛さんのお兄さんがそばにいるのに、あれこれ話すのは流石に無理だった。
しかも、今日は一日中、凛さんの射的襲撃に付き合わせれて、半分呆れているところだ。
ゲーム機だの特大のお菓子だの、ぬいぐるみだの、明らかに囮用の商品をほとんど1発で取っちゃうから、綺麗にどこの店からも出禁にされるし…。
「だってさ〜!お兄ちゃんも今日は文化祭だからって多めに見てくれたんだもん〜!」
「それでも限度ってものがあるでしょ…。ていうか、なんであんなにポンポン取れるわけ…」
「ゲーマー魂を舐めたらダメだよ〜!?テープでくっつけるとかしないと、私からは逃れられないのだ〜!」
なんか…画面越しでもわかるくらい調子に乗ってるんですけどこの人…。
もう夜中の2時なのに、このテンションって…。この人に協力を頼んだの、失敗だったかな…。
そういえば、うちのクレープのお店、ほんとどうなってんだろう…。
今日の朝と帰りなんか、昨日なんて目じゃないくらいの行列出来てたんだけど…。
しかも、クレープなのにほとんど男の人だったし…。
意味分かんない…。確かに昨日食べた時は美味しかったけどさ…。
「とにかく!明日の最終確認ね?」
「はいはい。でも、私は皐月達をあの場所に近づけなきゃ良いんでしょ?大丈夫だって〜!」
「問題はそこじゃないでしょ?皐月さんのことだから、凛さんの異常くらい多分気付いてるって。絶対に阻止してこようとしてくるはずだから、気取られないように気を付けて。いい?」
「ん〜。まぁ頑張るよ〜。射的が全部行けなくなったから本当は行きたくないんだけど…」
誰のせいでそうなったと思ってるの…。
しかも、なぜか私も出禁になるし…。
凛さんのお兄さんだけだよ!?なぜかあの場にいて出禁にならなかったの!
むしろ、明日も来てくださいとか言われてたし!
本当に意味分かんないんだけど!
でも…本当に大丈夫かな…。
告白する場所を変えた方がいいかもしれない。
具体的には、当初想定していた真反対の方向でするとか…。
凛さんが失敗した時、もしくは裏切った場合…は成功報酬だし考えなくても大丈夫か。
でも、凛さんが失敗する前提で計画を立てるなら、伝えた場所から真反対の場所で告白するっていうのも…。
「ねぇ〜もう良いかな?私、この後もしなきゃいけないことがあるから〜」
「ああ…。分かった。じゃあね」
「は〜い」
そのまま電話を切った私は、結局1時間ほど場所を変えるかどうか迷い、結局凛さんを信じることに決めた。
本音は、真反対の方向でいい場所なんて、全くと言っていいほど思い浮かばなかっただけなんだけど…。
紅葉ちゃんはそこまで気にしないかもしれないけど、私はちょっとでも気にしたい。
美月さんが告白したとして、想定外だったのは、今日も泊まると言い出したことだけだ。
だから…そこまで酷い振られ方、振り方はしてないんだと思う。
美月さんはしっかりしているように見えて、割とメンタルが弱いから、振られた時は泊めるなんて出来ないはずだ。
それこそ、1人にして欲しいとか強がって、夜に泣く…私に似たタイプだと思う。
「ん!?待って…そう考えると…」
もう夜中だし、明日は紅葉ちゃんと一緒に文化祭を回るのに、一度考え出すと止まらない。
なんで振られたはずなのに、あんまりダメージが無いのか。
その答えが、今日の告白の結果を左右する…今後の私達の関係を左右する気がしてならない。
「えっと…落ち着いて考えてみよう…。パソコンは…」
考えをまとめるのに、いつも使っているパソコンを起動してメモ帳を開く。
そこに、今わかっている情報をカタカタと入力していく。
まず、文化祭から帰る2人、主に美月さんの態度から、告白したのは間違いない。
2人の関係性から、オッケーされた可能性も0じゃ無い。
だけど、付き合えることになったとしたら、美月さんがもっと分かりやすくはしゃいでいるはずだからその可能性は消してもいい。
じゃあ…振られたということになる。
だけど、メンタルが弱い(仮)美月さんが、振られた後でも紅葉ちゃんを泊めると言い出すか…。
それは多分ありえない。紅葉ちゃんがどうしても帰りたく無いと言うなら、皐月さんの家にでも行って貰えばいいのだから。
「答えを保留にされた…。いや、紅葉ちゃんの性格的にそれは無い…。だとしたら…」
友達のままで居たいと…振られる理由の大半みたいなことを言われたのか…。
それでも、振られたことに変わりはない。少なくとも、かなりダメージはあるはず…。
軽い気持ちで友達で居たいと、告白されたときに言う人は少し考えて欲しい。
私もここ最近分かったけど、好きな人から友達でよくない?なんて言われると、言われた方のショックは…人にもよるだろうけど、結構でかい。
美月さんも、多分そう言うタイプだと思う。
「これも無い…。あと考えられるとしたら…なんだろ」
美月さんよりは有利な立場にある私でも、振られないと言う保証はどこにも無い。
だから、美月さんが振られた理由を、どうしても知っておかないと行けない気がする。
紅葉ちゃんは、女の子同士だからダメとか、そんなことを言う子じゃ無い。
実際、男の人よりも女の人と付き合いたい!みたいなことを前に言っていたし、振られた理由は同性だから。なんて言う理由じゃ無い。
振られると分かっていながら告白する人出来る人なんて、そう多くはない。
私も、今回の告白が上手くいく保証はないけれど、勇気を出して頑張ってるんだ。
それが、必ず振られると分かれば、告白なんてする意味がない。
対策を立てて、振られる可能性を少しでも減らしてから告白するべきだ。
恋愛なんて、自分で書いていただけで、経験はほぼ0に近いけど、必死に頭を使った結果、こう言う結論に至ったんだ。
自分の勘と、経験を信じて、必死で考える。
「逆に、美月さんの方から答えは保留でいいと言った…?いや、現実でそんなこと言う人いないよね…。ラノベじゃないんだから…」
あれこれ考えているうちに、気付けばもう朝の5時になっていた。
下の方で誰かが家から出ていく音がして、ふと時計を見るとそんな時間になっていたんだ。
不思議と、一睡もしていないのに眠気はない。
2時間近く考えても、答えは出なかった。
これは、今日の告白は取りやめた方がいいかもしれない。
美月さんが振られた理由がわからないのに、私が何も対策をせずに告白したら、同じ結末になる可能性だってある。
振られるということは、付き合える可能性が格段に下がるだけじゃなく、美月さんと完全に同じ立場になってしまうことにもなる。
そうなると、中学の頃から付き合いのある美月さんの方が、どちらかと言えば有利だろう。
下手をすると、紅葉ちゃんを取られてしまう可能性だってある。
それは…それだけは、絶対に避けないと行けない。
「はぁ…。仕方ない。頼りたくは無かったけど…あの人が一番こういうことには詳しいだろうなぁ…」
そして私は渋々、先輩が起きるであろう8時まで待つことにした。
どうせ春奈先輩とどっちかの家に泊まってるんだろうし、こんな朝早くから電話するほど、私は非常識じゃない。
とりあえず、全く眠くないので適当にネット小説でも読んで時間を潰していると、3時間なんかあっという間に過ぎた。
ちなみに、読んでいたのは朱音先輩が書いている小説だ。
恋愛ものだし…なんかちょうどいいかなって…。
「もしもし〜?どした〜?」
「おはようございます…鈴音先輩。ちょっと聞きたいことがあって…今大丈夫ですか?」
「ん〜なんだ?春奈がお風呂から上がるまでなら大丈夫だぞ〜?」
やっぱり泊まってるのか…。
ちょっと呆れたけど、突っ込むとダラダラ惚気られそうだから、頑張ってスルーする。
この先輩に、紅葉ちゃんに告白するとかは言いたくないけど、仕方がない。
これは、私にとってかなり重要なことなんだから…。
「あの、紅葉ちゃんの件なんですけど…友達が、紅葉ちゃんに昨日告白したんですよ…。ただ、振られたみたいなんですね?だけど、振られた理由が分からなくて…」
「あのなぁ〜話が端的すぎるぞ…。それだけじゃ分からん」
「色々説明すると長くなるので省きますけど、紅葉ちゃんのことを大好きな人が、本人に振られたとしても、ダメージが少ないって、なんでだか分かりますか…?」
「分かるわけないだろ…。大体、そんな説明で分かる人いたら凄くないか?」
「まぁ…そうですよね…」
本当にわからない…。なんで美月さんは、ほとんどダメージなく告白を終えられているのか。
私もダメージを少なく振られるという可能性は、この状況ありえる。
分かりやすくいうと、美月さんと同じ理由で振られるという可能性だ。
振られた理由が分からないから、その可能性が今の所、成功する確率より高いだろう。
「告白して振られたのに、ダメージがほとんど0。その相手っていうのが、紅葉ってんなら、まぁ…思い当たる理由はいくつかあるけどな…」
「え!?いや、さっき分からないって言ったじゃないですか!」
「正確な理由なんて、そんな本人達に聞かないと分かるわけないだろ…。あくまで私の予想だ。それでもいいなら話してやる」
「…お願いします」
「まず1つ。紅葉がその子のことをとても大切な友達だとか言ったんなら、多少なりともダメージはあっても、最低限のダメージで済むと思う。そりゃ振られたショックはあるだろうけど、1番の友達とか言われたら、紅葉のことを好きな奴は、結構嬉しいんじゃないか?」
そういうものなんだろうか…。
確かに、美月さんは中学の頃から友達だったと言っていたし、1番の友達と言う可能性は大いにある。
美月さんも、今はそれで良いと思っているなら…仮に振られる前提で告白をしたとしたら…十分にあり得る。
なにせ、振られる前提で告白したのに、なんか1番の親友と言われて、これからもよろしくとか言われたんなら…ダメージは確かに無いかもしれない。
なるほど…。考えもしなかった。
「もう一つ。そもそも、紅葉が恋愛ってどういうものなのか分かってないから、好きって気持ちにどう答えたら良いか分からないって場合な。正直、こっちの方が可能性は高いと思ってる。こっちの方がダメージは少ない。なんなら、ほぼ0なんじゃないか?」
「振られたとも、オッケーされたとも取れる。しかも、今後の展開次第で、付き合える可能性が大幅に上がるからですか?」
「そうだな。この前、likeとloveの違いを初めて知った紅葉なら、高校生でも恋愛がどんななのか分かってなくても、まぁ納得は出来ないか?」
「出来ないって言えないのが、またなんとも言えませんね…」
「だろ?まぁ、本当のところは本人に聞くしかないんだし、何するつもりなのか知らないけど、頑張りな」
そういうと、先輩は一方的に電話を切った。
多分、春奈先輩がお風呂から上がってきたんだろう…。
今頃、あっちでは大変なことになってそうだけど…考え出すとなんか…あれだから、考えないようにしよう。
でも…美月さんが振られた理由がもし2つ目なら、私が振られるのもほぼ間違いない。
どうにかしないと、本当に不味いかもしれない。
私は疑惑を抱えながら、学校に向かう準備を始めた。
次回のお話は11月30日の0時に更新します。