第106話 文化祭2日目 第1部
文化祭の2日目は基本的に美月ちゃん視点でのお話になります。
まさか、紅葉ちゃんと同じ家で朝ごはんを食べて、一緒に家から出る日が来るなんて…思わなかった。
当然朝ごはんも私が作ったけれど、両親とは違って美味しいって食べてくれるし…。
もうね、私明日死んでも良いなって思えるくらい、今幸せなんだけど…。
ていうか、よく言うけど恋愛って、片思いの時が一番楽しくて幸せなんだよね。
想いを伝えちゃうと、今まで通りの関係じゃなくなっちゃうし、緑川さんと紅葉ちゃんが付き合い始めちゃうと、こんなことはもう二度と出来なくなっちゃう。
だけど、私が想いを伝えなければ、まだ友達として家に呼べる可能性はある。
緑川さんが嫌がったら、紅葉ちゃんは優しいから断られるかもだけど…。
「怖いなぁ…」
「ん?どうしたの?」
私達は、今日お店に出るわけじゃないから、別に制服じゃない。
紅葉ちゃんは私が貸しているブラウンのカーディガンとプリッツスカートを可愛く着こなしている。この際私はどうでも良いとして…この服を選んだ私のセンスを褒めて欲しい。
秋らしくもあって、紅葉ちゃんの可愛さが一層引き立つような!そんな服を選んだの!
しかも、不自然にならないようにちょっと短めのスカートを履いてもらえたし!
だけど、まだ振られる覚悟ができてない私は、先の言葉を小声で呟いてしまった。
当然横を歩いている紅葉ちゃんには聞こえるわけで…。
「あ〜お化け屋敷?昨日行きたいって言ってたもんね!」
「そ…そう!行きたいとは言ったけど、ちょっと怖いなぁ〜って!」
紅葉ちゃんが良い感じに勘違いしてくれたから、それを利用することにする。
誰でも、振られると分かっていて告白するのは怖い。
なら止めればいいじゃんと思うかもしれないけど、そうじゃなくても、今日は紅葉ちゃんにあることを説明しないといけない。
そう。私が急に紅葉ちゃんから一回離れて、姿をガラッと変えて現れたのか。これを説明しないといけない。
この時に一緒に告白するつもりだったんだけど、止めるとなると、上手い理由を考えないといけない。
だけど、紅葉ちゃんって天然?の割に、嘘には敏感だから…バレる可能性があるし…。
なにより、自分の好きな人にもうこれ以上嘘を重ねたくない。
「ね〜今日はまずどこから行くの〜?文化祭ってもう始まってるんでしょ?」
「ん〜。とりあえず、緑川さんと春奈先輩達のペアとは出会わないようにしたいから…そうね。まず皐月に会いに私達のクラスのやつに行こうか。良い?」
「うん!私ももう一回食べたいって思ってたの!」
今は別に昨日みたいに8時や9時に家を出たわけじゃ無い。
今は10時を少し過ぎたところだ。文化祭は3日とも10時からだから、もう文化祭自体は始まっている。
今日はお店がないから、寝坊した紅葉ちゃんを起こさずにそのまま横でジッとしてたんだけど…。
寝顔が可愛かったせいで起こすのがあまりに遅くなり過ぎたって言うのは内緒で…。
好きな人が真横で寝てるんだよ!?見惚れるのはしょうがないと思うんだ!
春奈先輩と鈴音先輩に会いたくない理由に関しては、説明しないでもわかると思う。
緑川さん達と遭遇したくないのは、絶対に凛目的の男の人が近くに何人か群がってるからだ。
紅葉ちゃんを、そんな不衛生?なところには連れて行きたくない。
凛はどうせ、いくつかある射撃の店で調子にのるだろうし、そこら辺を避けていれば遭遇しなくて済むだろう。
体育館でのゲーム大会に参加するほど、大人げなくはないだろうし…。
いや、あの子なら充分ありえる...はぁ。
「あ、そう言えばみっちゃん!」
「え!?な…なに?」
「今日教えてくれるんでしょ?私から突然離れちゃった理由〜!」
「え!?えっと…それは…」
「教えてくれるんだもんね?」
「はい…」
え?なに?急に紅葉ちゃんが怖く感じたんだけど!
ニコニコしながら圧を放つ紅葉ちゃんなんて…なんか新鮮なんだけど…。
しかも、慣れてないせいで若干オドオドしてるの少し可愛い…。
この前私を怒ってる時も思ったけど、慣れてないことを無理してやろうとしてる紅葉ちゃんって、いつもより可愛いよね〜。
「なら良いの〜。ほら急ご〜?」
「分かりました…」
完全に紅葉ちゃんの犬みたいになってるんですけど私…。
なんか、首輪でもつけられてるみたい…。なんでこんなことになったんだろう…。
別に良いんだけどさ…。いや、むしろこっちの方が...じゃなくて!
なんだかんだでそのまま学校に着いてしまった私達は、微妙な空気のまま、校門で待っていた皐月に声をかけられてしまった。
「なぁ聞いて良いか?2人して何やってんだ?」
私は顔を真っ赤にして俯きながら、紅葉ちゃんと手を繋いで、紅葉ちゃんは反対に、ニコニコしながら柔らかく私に対して圧を放っている。しかも、若干オドオドしながら。
そんな私達を、普段の私達を知っている人が見たら、そりゃこんな感想が出てくると思う。
でも…皐月のその、辺な人を見る目はやめてほしい。
「別に良いでしょ…。色々あったのよ…」
「はぁ。あっそ…。早く行きな?私はここで凛を待ってるだけだから」
「分かった。またね…」
やっぱり今日も、千夏さんのお母さんと、霜月さん達がお店をやってくれているらしい。
あの人達、いくら文化祭に興味がないって言っても、3日連続でお店番なんて退屈じゃないのかな?
いくら好意でやってくれてるとはいえ、なんだか少しだけ申し訳なく感じる。
とりあえず、ここに来るまでに話していた予定通り、まずは中庭に向かうことにしする。
校内は2日目と言うこともあって、かなり大賑わいだった。
多分、明日はもっとすごいことになるんだろうなぁ〜。特に夕方の体育館は…。
「うわ…。なにあれ…」
「昨日より列が長いね…。どうする?やめとく?」
「紅葉ちゃんは?食べなくて良いの?」
「ん〜食べたいけど…多分あれ20分くらい待たないと食べられないんじゃない?」
そう。想定外だったのは、昨日緑川さんと中庭で話した時より列が長かったことだ。
昨日はせいぜい、20人並んでるかな〜くらいだったんだけど…。いや、学校の文化祭で20人も並んでたら大したものだろうけど!
今はその比じゃないっていうか…。何人いるのか数えるのが面倒になって来るくらいいるんだけど…。
何があったのこれ…。店員さんがみんな可愛い女の子だから並んでるのかな…。ほとんど男の人だし…。
私はこの時、この列に並んでる人とはあんまり関わりたくない…。と勝手に思った。
「じゃあ他のところ先に行って見て、帰ってきた時にまだこんなだったら諦めよっか…」
「そうだね。それで良いと思う!」
「これだけ並んでると、さすがに皐月と霧島さんは呼び戻されそうね…。ていうか、材料足りるのかな…」
「あ〜3日目もあるからちょっと怪しいかもね〜。ていうか、そもそもなんでこんなに並んでるんだろうね〜」
とりあえずその場を離れた私達は、後で凛に襲われるであろう射撃のお店を少しだけ回った後、体育館に移動した。
射撃のお店では小さなお菓子しか取れなかったけど…ゲーム機とか置いてたら絶対狙われるでしょ…。
ていうか、よく許可出たよね…。普通の学校の文化祭ですけど…。
どうせ取れないって思ってるなら、悪いことは言わないからさっさと隠したほうが身のためだと思う…。
あと2時間したら、間違いなくあの凛に2・3回で取られるから…。
「そういえば、昨日はここ来なかったけど、何やってるの?」
「3日目は確か、午前中はプロの劇団の人呼んで何かの劇するらしいんだよね。午後は告白祭か何かするらしいし。それ以外は、やりたい人が自由に歌ったりしてるんじゃなかったかな〜」
「あそうなんだ!ちょっとだけ休憩したら、また遊びに行こうか!」
「そうだね!ちょうど疲れてきたし!」
ちなみに、今日も本来電車で来るところを歩いてきました…。
紅葉ちゃんが疲れるのは当然です…。私はずっと楽しかったけど…。いろんな意味で!
まぁ、間違っても下手な人がこんな、大多数の人に見られる体育館のステージに立つとは思えないから、少し休憩するぶんには良いと思う。
ちなみに告白祭って言うのが、この学校の文化祭で一番盛り上がる企画らしい。
よくある、文化祭の勢いを利用して告白しちゃおうってやつね。
まぁ、私と緑川さんは、このステージと似たようなことをやるんだけども…。
体育館はそれなりに広いから、大人の人が100人くらいなら余裕で入りそうな感じだ。
そんな、200人とかももしかしたら入るかもしれないけど…。
私達が中に入った時、ちょうど3年生くらいの男の人数人がステージで楽器をセットしているところだった。
司会の人の説明によると、皆でバンドを組んでいるらしい。
どうせすぐに出るんだし、わざわざ椅子に座らなくても、壁に寄りかかってたら十分だろう。
「でもさ〜こんなに人の多い前で歌うって凄いよね〜。私なら絶対無理!」
「私も絶対無理だなぁ〜。上手い下手とかじゃなくて、単純に恥ずかし――って!あの人凛のお兄さんじゃんか!」
「え!?うそ!どこどこ!?」
いよいよステージの上で演奏が始まると視線を紅葉ちゃんからステージに向けた時、中央でマイクを持っている人の顔を見て、私は思わず変な声が出てしまった。
そこには、見間違いでもなんでもなく、凛のお兄さんの響さんがマイクを持って立っていたから…。
次回のお話は11月21日の0時に更新します