第104話 文化祭1日目 第2部
久しぶりに後半の方は美月ちゃん視点でのお話です。
鈴音先輩が帰った後、私はどちらかの家に泊まりたいことを話すことにした。
雫ちゃんも美月ちゃんも、さっきの先輩のせいで疲れているみたいだったけど…タイミングは今しかないかなって…。
千夏ちゃんのお母さんがいる前で、こんな話なんて出来ないし。
そもそも、どんな人が来るのかまだ分かんないからね。
今日暇になるかもって言ってたけど…本当のそうなるかも分かんないってことで...。
「ねぇ2人ともちょっと良いかな?」
『ん?どうしたの?』
「実は、家で色々あってね?今日雫ちゃんか美月ちゃんのどっちかのお家に泊まらせてもらえないかなって…。急でごめんね?でも…家にあんまり帰りたくないの!」
こんなこと急に言われても困るだろうし…ダメって言われるかも知れないけど。
でも、帰ったらお母さんに色々言われるだろうし、帰りたくないの!
2人がダメなら…皐月ちゃんが帰る前に言ってみるつもりだけど…。
雫ちゃんと美月ちゃんは、しばらくお互いを見つめた後、コソコソと何かを話し始めた。
だけどすぐに、結論が出たのかまた私の方を向いた。
「私は泊めるのは別に良いんだけど…父親に紅葉ちゃんを会わせたくないから…今回は美月さんに譲る」
「ほんと!?美月ちゃんは良いの!?」
「うん。私の家ちょっと特殊だから…ビックリするかもだけど、全然良いよ!」
「やった〜!ありがと!」
良かった!今日は家に帰らずに済む!
雫ちゃんの家に泊まれないのは残念だけど…美月ちゃんの家にもよく考えたら1回しか行ったことないもんね!
ちょっと特殊って…前に行った時は別に普通だった気がするんだけど…。
なにがどう特殊なんだろう…。
そのことを考えていると、ちょうど霜月さんと大人の女の人がこっちに歩いてきてるのが見えた。
多分、あの綺麗な人が千夏ちゃんのお母さんだと思う。
30代後半くらいにしか見えない見た目と、大人の人が持ってるには不自然なくらい可愛いバックを手に持った人で…。
しかもなぜか、パーカーの袖を腰で巻いて…なんか、活発な女子高生みたいな格好をしてる人なんだけども...。
「え…なに。あの人が千夏さんのお母さん?だいぶイメージ違うんだけど…」
「私も。千夏さんと同じで大人しそうな人かと思った…」
そして、当の千夏ちゃんは、やっぱり霜月さんの後ろに隠れて可愛くついてきていた。
なんか…恥ずかしがり屋の娘なのに、お母さんは凄いイケイケだから違和感が…。
しかも、このお母さんってどこかのレストランで料理してるとか言ってなかった?
なんか…見た目とのギャップが…。
分かりやすく言えば、ギャルみたいな人がそのまま大人になった!みたいな見た目の人なのに…。
どっちかっていうと、霜月さんのお母さんみたいな雰囲気がある。
「あの〜霜月さん?その人が…千夏さんのお母さん?」
「そうだよ〜。ビックリするよね〜!私も初めて会った時嘘じゃん!みたいに思ったし!」
「へ〜…」
「悪かったなこんなんで!手伝いに来てやったのにその言い方は無いだろ!」
このお母さんの感じ…やっぱりどことなく霜月さんに似てるんだけど…。
霜月さんの後ろに可愛く隠れてる千夏ちゃんのお母さんって未だに信じられないんだけども…。
ていうか、その…ピンクの可愛いバックはなんだろう。
すっごい違和感があるんだけど…。
「小学生の時に千夏が作ってあげたバックなの。それをまだ大事に使ってるのこの人…」
「悪いか!せっかく千夏が作ってくれたんだからそりゃ使うだろ!今日も千夏に頼まれたから来たの〜!」
「…。ねぇ霜月さん。もしかして、そういう人なの?この人…」
「気付くの早いね〜。うん。この人、千夏が大好きな単なる親バカなの」
雫ちゃんが尋ねた質問に、霜月さんが苦笑いしながら答えた。
なるほど…。なんだか妙にクセが強いと思ったらそういうことなんだ…。
そう思うと、この人が急に可愛く見えて来たんだけど…。
なんか、雫ちゃんをもうちょっと柔らかくして可愛くしたらこうなる気がする!(語彙力)
「親バカってなんだ!別に良いだろ!?可愛い千夏に頼まれたら断れないんだから!」
「うん…。恥ずかしいからそれくらいにしてお母さん…」
「ほら!めっちゃ可愛いでしょ!?我が子ながらもう可愛すぎるんだって〜!結婚したい!」
私と美月ちゃん、雫ちゃんの3人は、このお母さんのことを多分こう結論付けたと思う。
『あんまり深く関わらないほうがいい』と。
だって、見るからに鈴音先輩達よりヤバい香りがするんだもん!
先輩達は付き合ってるからまだ分かるけど…この人は親子でこんなこと言ってるんだもん!
千夏ちゃんが可愛いのは別に否定しないけど…そんなにされると、少し引いてしまうというか…。
「あ〜まぁそういうことだから、このヤバい人と私達に任せてくれても大丈夫だよ?人手が足りなくなったらヘルプで呼ぶから」
「え?私達初日のお店番だったけど、良いの?霜月さん達、3日目もするんでしょ?」
「良いよ別に。どの道、千夏は文化祭に興味無いみたいだし、実のところ、私もそんなに興味無いんだよね」
「お店したいんだったら…私達が手伝う形とる…けど…。どうかな…?」
少しだけ私達3人で話した結果、お言葉に甘えて、今日も含めて3日間遊びつくそうということになった。
3日間もあるだけに、出し物も結構あるから、3日あっても超特急で回らないと、全部見て回るのはキツイと思う。
だけど、お店番をしなくなって良くなったのは…ありがたい。
私は人と関わるのとか苦手だし、雫ちゃんも多分そうだと思う。
美月ちゃんは…昔なら多分無理だったかもしれないけど、今はクラス委員もするくらいだから、多分大丈夫になったんだと思う。
私達がお店を霜月さん達に任せて離れたところで、ちょうど文化祭開始の放送が始まった。
結奈先輩の声が全校に響いて、文化祭が開始された。
ていうか、なんで結奈先輩なんだろう…。
まぁ気にしてもしょうがないか…。
「で?どうする〜?急遽今日暇になっちゃったけど!」
「う〜ん。ねぇ、提案があるんだけどさ。明日、美月さんは紅葉ちゃんと2人で回るんでしょ?なら今日は私に譲ってくれない?美月さんは、帰る予定って言ってた皐月さんと回れば良いでしょ?」
「あ!そうだね!皐月ちゃんと回れば良いと思う!2人だけで!」
「ん〜。まぁ、紅葉ちゃんがそう言うなら良いけど…。じゃあ、16時とかにまたここに集合ってことで良い?」
「わかった〜!」
そう言って美月ちゃんと別れた後、私と雫ちゃんはなんとなく手を握りながら、とりあえず春奈先輩のクラスがやっているメイド喫茶に足を運ぶことにした。
◇ ◇ ◇
紅葉ちゃんと別れた後、私は皐月に『緊急事態発生!すぐに非常階段に集合!』とだけメッセージ入れて、非常階段に走った。
メッセージを送ってから5分もせずに皐月は非常階段に来てくれて、事情を説明すると、唸りながらも納得してくれた。
「なぁ。そもそも聞いて良いか?なんで紅葉と緑川に着いていかなかったんだ?」
「凛の様子が変なのは昨日からなんとなく察してるでしょ?その関係もあって、下手に手は出せないかなって。しかも緑川さんは、やろうと思えば、私の家に一緒に泊まるとも言える立場なのね?だけどそれをしなかったってことは、私に貸しを作りたいのかなって」
「ん〜。まぁ、凛がなにか物でつられて、緑川の方に着いた可能性はあるよな〜。何も無いのに3日目も行くことにしたとか言うわけないし」
そう。昨日の夜、凛は急に文化祭3日目、一緒に回って欲しいと言い出したんだ。
急にそんなことを言われて、怪しまない方がおかしいと思う。
一応表面上は、久しぶりに3人で会いたいとか言ってたけど…信じられるわけがない。
大体、この前も3人で会ってるのに、なにが久しぶりなのか。
それに、ゲームの大会が1ヶ月後なのに、そんな理由で凛が家から出るわけがない。
本当なら2日目に家から出るのも嫌なはずなんだ。
「あの子が物で釣られる可能性は考慮してたつもりだけど…どうせすぐに口を滑らしてくれると思って放置してたのに…」
「緑川のことだから、成功報酬とか言ったんだろうな。確かに、状況が悪すぎるな。凛を味方につけられた時点で、文化祭中に告白してくるのは確定したな」
「うん。だから、最悪今日告白させなければ、私は最低限紅葉ちゃんとの初めてのお泊まりを堪能できるから…手伝ってくれる?」
「分かった。だけど、具体的にはどうするんだ?どこで告白するかなんてわからないだろ?合流するわけにもいかないし…」
合流もしないで、凛の寝返りも期待できないこの状況で、今日の告白を阻止する方法。
多分、急に今日告白なんてして来ないだろうけど、朝からのあの態度的に、いつ告白してもおかしくない。
おそらく、昨日休んだ時に心の準備もまとめて済ませてしまったんだと思う。
私はまだ、振られる覚悟が完全には出来てないから…明日する予定の告白も、出来るかわかんないし。
「なぁ。思ったけど、別に告白を邪魔しなくても良いんじゃないか?」
「ん?どゆこと?」
「例えば今日緑川が告白したとしたら、もしも振られた場合、3日目にかなり気まずくなると考えると思うんだ。だから、今日はないと考えてるんだけど、どうだ?」
「あ〜なるほど。まぁその可能性も無いわけじゃないけど…」
「とりあえず、あんまり深く考えずに、一番のんびり出来る今日はゆっくりしよう。明日に備えるって意味でも、今後に備えるって意味でもな」
皐月の言う通り、よく考えたら、今日を過ぎたらもうのんびり出来る時間はないかもしれない。
私は明日告白する予定だし、明後日には緑川さんも告白しちゃうだろう。
そこから、私は緑川さんと紅葉ちゃんに気付かれないようにアタックしないといけない。
皐月に手伝ってもらいながら2人をどうするかも必死で考えないといけない。
そう考えると、本当に今日が最後のゆっくり出来る時間かもしれない。
「分かった。じゃあ皐月一緒に回ろっか」
「はいよ。じゃあまずどこから行く?」
そう言いながら笑った皐月の顔が、どことなく辛そうだったのは…気のせいだと信じたい。
次回のお話は、11月15日の0時に更新します。