第89話 経験値を送れ(3)
中村の田植えを長者や五十嵐家に任せ……
俺は、25名の精鋭遠征部隊を帆船へ乗せて海を渡っていった。
陸路も経由して『ラムー』という町へ着く。
ここが片翼の塔に一番近い町なのである。
この町でもう一泊の後、いよいよ片翼の塔へ25名精鋭部隊のみんなを連れていった。
ザッザッザ……
今回はちゃんと正面に設置された『ギルド出張所』へ並ぶ。
もうA級ライセンスを取得しているのでこっそり忍び込む必要はないんだからな。
堂々と受付を通ればいい。
ガヤガヤ……ガヤ……
しかし、こうして冒険者の列に並んでいると、なにやら領民たちはモジモジとしだす。
「先生、あの……」
「どうした?」
「なんだか見られている気がするんですけど」
いつも明るい杏子ですら、風のスカートのお尻をキュっと抑えながらそう言った。
確かに、受付に並ぶA級冒険者たちの視線が俺たちに集中している気はする。
「まあ、今回の部隊は少数精鋭だけどさ。普通のパーティからすれば25名なんて大所帯もいいところだ。そりゃ目立つさ」
最初は単にそう思ったのだが……
「おい、色モノがいやがるぜ」
「ぷっ、ははは」
耳をそばだてると、なにやらヒソヒソそんな声が聞こえてくる。
「たしか領地を単位にクエストをこなしてんだっけ?」
「まあ、しょせんは変化球。すぐ消えるだろうさ」
「ははは、違いねえ」
なるほど。A級ともなると『冒険とはかくあるべし』みたいなこだわりを持った連中も増えてくる。
俺たちみたく変わったやり方をするのが気に食わないヤツも多いんだろう。
でも、そんなのはしょせん取るに足らないヤジだ。
気にせず放っておけばいい。
俺は心中でそんなふうに笑い飛ばしていたのだけれど、
「う……」
「ううっ」
部隊のみんなは違ったようだ。
みんな、ただでさえA級冒険者の雰囲気の中で萎縮している。
そんな中で白い目で見られるのはひどく自信を喪失させるらしいのだ。
「大丈夫だって! 堂々としてりゃいいんだ。俺たちだってれっきとしたA級冒険者なんだからさ!」
そう励ますが、あまり効果がない。
なんとかしねーと。
「次の方どうぞ!」
そんなふうに考えていると受付が回ってきてしまう。
「あ、ああ……。これ、A級ライセンスだ」
「エイガの領地様ですね」
で、そんなふうにライセンスを提示している時、ふと作戦を思いついたのだった。
気乗りはしねーけど仕方ない、か。
「それではお通りください」
「ありがとう」
こうして受付が済むと、俺はあえて目立つように演技めかしてスタスタ塔の外周を進んで行く。
「あっ! あのぉ」
すると、案の定すぐにギルド職員が声をかけてきた。
「塔の入口はこちらなのですが」
「ああ、知ってるよ。でも俺たちは入口からは入らないから」
「は、はあ?」
と首をかしげるギルド事務員を尻目に、俺はおもむろに黒王丸へ縄をくくりつけ、そいつを板東義太郎に持たせた。
ざわ……ざわざわ……
ざわめくその場のA級冒険者たち。
「坂東くん、しっかりつかまっていろよ」
「御意でござる」
そして馬で空を飛び、坂東義太郎をゴーレムの出現階層60階まで引き上げるとバルコニーに下ろし、また地上へ戻っていく。
ヒヒーン!……
で、次はチヨを黒王丸へといざなうのだ。
「お、おい!」
すると、ひとりのスキンヘッドの冒険者が声を荒げる。
「お前、なにおかしなことしてんだよ!」
ふふ、思った通り。
目立つところでバルコニーへ飛んでいけば、絶対に頭の固いヤツがイチャモンつけてくると思ったんだ。
それにコイツ、さっき色モノだなんだと言ってた男だな。
ちょうどいい。
「なにって、仲間をひとりずつ目的の階まで運んでるだけだけど」
「そ……」
スキンヘッドは頭に血管を浮かべた。
「そんなことが許されると思ってるのか!? ちゃんと入口から攻略しろ!」
「そうだそうだ! ツルッぱげの言う通りだ!」
「塔へバルコニーから入るなんてズルだぞ!!」
スキンヘッドの怒鳴るのに、周りの冒険者たちも呼応して非難の声をあげる。
俺は「ふふっ」と鼻先で笑いながら言った。
「別に、『塔へ入口から入らなきゃいけない』なんてルールはないだろ。ねえ、事務員さん」
と聞くと事務員は「え、ええ……」と口ごもりながら答えた。
「たとえルールがなかったとしても、塔は1Fから攻略していくものだ!」
「じゃあ、アンタはそうすればイイんじゃないか? 俺たちには俺たちのやり方があんだよ。なにせ……」
俺は可愛いふんどし女武闘家の肩を抱きながら続ける。
「なにせ俺たちは色モノなんだからな」
「っ……!!」
「じゃあ、失礼」
「ま、待て」
スキンヘッドは俺の肩を抑えてまだ言う。
「オレはな、親切で言ってやってんだぜ? 塔というのは階層が高くなればなるほどモンスターが強くなる。だから1Fから順に攻略していくのが修練にもなるんだ。それをスッ飛ばして強モンスターにヤられたらむしろ可哀想だからな」
そう言って、ペキ、パキ……と拳を鳴らすスキンヘッド。
「どうしようってんだよ?」
「思い知らせてやるってことさ。お前にこの塔の攻略は無理だってことをな!」
すると、ふいにその拳がこちらに飛んでくる。
ごおおおお……
「っ!!」
しかし、その拳はブーン!っと空を切り、ヤツは前につんのめった。
「や、野郎……どこへ行った!?」
「スローだな」
「な……!?」
すでにヤツの背後に回り込んでいる俺。
そのツルツル頭へ軽いチョップを入れてみせる。
「ぎ……っ!」
まあ、カッコつけたけど、それほど大したことはやっていない。
少し前に戦った盗賊のトルドと比べるとハエの止まるような動きだったしな。
そもそも、チヨの体捌き、杏子の視力、西園寺華那子のすばやさ……と、【憑依】で移ってきた(育成の副産物の)能力で、並みのA級冒険者程度の攻撃ならば軽く避けられるのだ。
「俺たちは、俺たちのやり方で強くなってきたんだ。アンタのお節介は気持ちだけいただいておくよ」
「てめ!」
と赤面して凄むが、周りの冒険者たちはすでにシラケており、彼も彼の仲間たちに止められ「おぼえてろよ」と去っていった。
「やれやれ」
さて、そんな立ち回りをして見せて、俺はみんなを振り返る。
「領主さま!」
「……領主さま。カッコいい♪」
すごく嬉しそうな顔をする領民部隊。
まあ、あんなふうにむやみに相手をやり込めるやり方は嫌いなんだけどさ。
そのおかげで部隊のみんなは少し自信を得た顔付きになった。
あのスキンヘッドには(噛ませ犬にして)悪いことをしたが、育成者は時に『よその連中』に勝って見せることも必要なのだ。
キュイーン! ピシューン! ガシャーン!! バリバリバリ……
その後、肝心のゴーレム狩りは順調に行った。
塔でのゴーレム出現階層はわかっているし、攻略法も実験済み。
風の足具で他のモンスターからは逃げ、ゴーレムは思いっ切り熱した後に冷やしてモロくなったところを叩けばいい。
もちろん、この作戦を遂行するのにもある程度の力は必要だ。
だけど、みんなほんとうに強くなってくれていた。
戦闘力はチヨが1万8000、エリ子さんが1万6000、坂東義太郎、杏子、ナオが1万4000という具合である。
こうして見ると、後発の坂東義太郎が意外に強くなってきている。
ただし、戦闘力の高低ですべてを語れないのは、杏子やナオの重要性を考えてみてもわかると思う。
そもそも戦闘力7万5000のゴーレムを倒せるのは集団戦法のおかげであり、個々の戦闘力よりもむしろ『連携』が俺たちの戦いの要なのである。
そしてなにより成長しているのは、その部隊の連携力なのであった。
「よし、このへんで今日は引き上げよう」
この日に獲得した融合石は50個。
初日にしては上々だ。
◇
それから俺たちは、塔の60階でゴーレムだけを狩ってはラムーの町へと戻って泊るというのを繰り返した。
ゴーレムを狩るのは簡単だが、経験値は上級の経験値。
それが【祝福の奏】で2倍化されて、リヴたち領地の技術者へも転送されているはずだ。
必須の【融合石】もボロボロと獲得できるしね。
「みんなよくやったな。今日は休みにするから、町で遊んでおいで」
こうしてゴーレム狩りも5日すると、俺は部隊の者たちへ(ボンドで)小遣いを与え、俺は一人領地へ向かう。
レシーバーの付け替えをしなくちゃいけないからな。
ヒヒーン……
で、空を飛び一夜で領地へ帰ると、まずは持てるだけ持ってきた融合石を持ち鍛冶工房へ向かった。
「な、なんだこれ……?」
するとその隣に、見なれない建物がそびえ建っていたのである。
レンガ造りで四角い煙突状の施設。
俺はしばらくボーっとそれを見上げていたのだけれど、
「おや、エイガ! 帰ってたのかい?」
そう呼ばれて振り返ると、女鍛冶がぷりぷりと元気よく胸を張って工房から出て来ていた。





