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第86話 経験値を送れ(1)


≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪


ティアナへ


 魔王の討伐成功おめでとう。

 アクアの記事を読んだよ。

 デリーがけっこう削ってたみたいだけど、やっぱり決定打はクロスか。

 エマはさぞ天狗になってんだろうな。

 モリエはまだまだ強くなりそうだな。

 お前もよくみんなの力を引き出したんだろうな。


 こっちは元気でやってるよ。

 お前らに負けてらんねーって感じで、気合入れて領地強くしてってる。

 はやくザハルベルトへ行きたいって思うけど、さすがにS級まではまだもうちょっとかかりそうかな。


 ってわけで、もしよかったらまた領地に遊びに来いよ。

 今は魔王を倒したばっかで忙しいかもしれんけど、いろいろ済んで休みができたら考えてみてくれ。


 じゃあ、あらためて魔王討伐成功おめでとう。

 本当に誇りに思うよ。

 みんなにもよろしくな。


エイガより


≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫



 ◇



 領地には正式に【A級ライセンス】が発行された。


 先々から審査をお願いしていたことではあったが、鬼ヶ島クエストのクリアが帝都で話題になったことが決定打となったらしい。


 ギルドの審査も、世論に影響を受けるのである。


 なにはともあれ、これで俺たちは名実共に『上級』の仲間入り。


 このA級クエストで実績をあげれば、次はいよいよS級、ザハルベルトへ招かれることになる。


 そう考えると一刻も早く冒険へ出たいって思うけど……


 でも、中村の『田植え』が始まるまではとにかく港づくりに集中しなければならなかった。



 ギーコーギーコー……どしゃああああ!!



 港の埋め立て工事そのものは予想以上に順調に進んでいる。


 もう護岸ごがんができ、土を集めるために掘った水路も通り、みんなで盛土を始める段階に来ていた。


「ひ、ひい……重いッス~」


 そこでやかた組まで動員して浅瀬あさせ盛土もりどをやっているのだが、あいかわらずガルシアの足腰は弱えな。


「……」


 その横をジャージ姿にポニー・テールの五十嵐さんが、スタスタ颯爽さっそうと台車を引いて通りすぎてゆく。


 お嫁さんであり女秘書である彼女は決して肉体派ではないのだが、なにせ黙々と働くので驚異の作業効率を実現していた。


 あと五十嵐さん、ジャージ似合ってるね。


「キャー! 転んだ!!」


「アハハハハっ」


 するとその時、キャッキャと遊んでる女の子たちが作業する大人たちの進路をふさいでいるのを発見する。


「おい、みんなの邪魔になるなよ。どこの村の子だ?」


 と注意すると少女たちは泥んこの顔を見合わせる。


「えー」


「なにおっしゃるんですかぁ、ご主人様」


 え? 誰?


「マナカです」


「スイカです」


「イコカです」


 身内かよ!


「わかったわかった。お前らは遊んでていいからあっち行ってろ。あと顔洗え」


 とため息をつくとメイドたちは蜘蛛の子を散らした。


「ぜーぜー……。ったく、しょーがないッスね。ぜーぜーぜー」


 しょーがないのはお前だよ。


 まあ、彼女らは五十嵐さんのジャージを作ってくれただけでファインプレーと見なしてやろうぜ。



 カぁー! カぁー!……


 で、その日の作業が終わりやかたに帰ると、


「……みんなお風呂直行です」


 と五十嵐さんはキラーン☆と鋭い目を光らせ、パンツまで泥だらけのメイドたちを玄関ですっぽんぽんにしては人さらいのように少女たちの裸体をお風呂へ運んでいった。


 ので、俺とガルシアはもそーっとやかたの外へ出る。


「五十嵐さん、おかあさんって感じッスねー」


「ははっ、そうだな」


 と言って俺はタバコへ火を付けた。


「ところで旦那、この先も工事が続くんスか?」


「うーん、思ったより早く浅瀬あさせの埋め立てが済みそうだからな。『田植え』の前に防波堤ぼうはていにまで手を伸ばしてもいいけど、先にドックを造るってのも手なんだよな」


「でもそれは奥賀の技術者が来ないと無理じゃないッスか?」


「まあな」


 俺たちには造船の技術がないので、まだドックをどうつくればいいのかわからないのである。


「まあ、もう来るはずなんだけどな」


「だったらドックにするための窪地くぼちを堀り始めた方が効率いいッスね」


 そんなふうにガルシアと相談していると、


 ガチャリ……


 と玄関が開き、五十嵐さんがぴょこっと顔を出してにらむ。


「……済みました」


「そっか、ありがとな五十嵐かあさん」


「……??」


「じゃあ入りましょうッス。とうさん」


「誰がとうさんだよ」


 五十嵐さんは鋭い目付きで『?』と首をかしげながらも、白いほほを赤らめて少し照れたふうだった。



 ◇



 奥賀おうがの技術者がやかたにやってきたのはその翌週のことだった。


 派遣されてきた造船の技術者は5名。


 ほぼ同時に吉山きやまから製鉄の技術者も5名やってくる。


 よその領地からやって来た合計10名の技術者。


 俺は彼らを『鍛冶工房』へ連れていってリヴを紹介した。


 ざわざわ……ざわ……


「そういうワケでみなさん。彼女が『艦』造営を指揮するうちのリヴ・ランティスです。みなさんの技術で彼女をサポートしてやってほしい」


 そんなふうにな。


「ちょ、ちょいとエイガ!」


 しかし、当のリヴがそんな悲鳴をあげる。


「どういうことだよ? アタシが指揮すんのかい?」


「あ? なんか問題あるか?」


「だって……アタシにゃ無理だよぉ。艦なんて造ったことないもの」


 そう言ってリヴは自信なさげにタンクトップの乳房をシュン……とさせる。


「そんなこと言ったらここにいるみんな造ったことねーって。奥賀おうがの人たちは優れた造船技術を持っているけどそれは木造帆船(はんせん)だ。吉山きやまの人たちは優れた製鉄技術を持っているけどそれを船にしたことはない」


 俺がそんなふうに言うと、技術者たちは『たしかにそりゃそーだ』というふうに顔を見合わせうなずき合っていた。


「アタシにはどっちもないけど……」


「でも、ずっと武器をつくってきただろ? 俺が欲しいのはつまるところ『武器』なんだ。客船でも、輸送船でもない。モンスターと戦う艦なんだから」


「っ……!」


「武器である以上お前につくれないものはないって。お前はあのランティスの爺さんの娘なんだからさ」


「エイガ……」


 リヴは形見のオイル・ライターをカチャッ、カチャッ……と鳴らして見つめた。


「だいじょうぶ。俺がお前にたくさん経験値を送ってやるから!」


 と言って、俺はリヴの黄金の腕を優しくペチンと叩いた。


 そう。


 経験値転送の育成スキル【レシーバー】の付け替えで、今戦闘で得た経験値は彼女へ転送されるようになっていた。


 そして、俺たちはA級の実力と、A級のライセンスを持っているんだ。


 もうハーフェン・フェルトへの遠征とはくらべものにならない経験値を送ることができるだろう。


 なんと言ったって、これからは上級モンスターを倒して得る経験値を(それをさらに祝福の奏で2倍にした経験値を)送ることができるのだ。


「わかった……。アンタがそう言うならやってみるよ!」


 リヴが燃えるような髪を格好よくかきあげてニカっと笑うと、工房の弟子たちと技術者たちが『おー』と声をあげ、パチパチ拍手が起こった。






書籍1巻について。


書籍版には【書き下ろし】があります。


書き下ろしでは本編で書ききれなかった勇者パーティ時代の『過去エイガ』を書いていこうと思っています。


1巻はエイガとクロスの2人パーティが、ティアナと出会い仲間にするお話を書きました。


そちらもお読みくださると、本編もよりお楽しみいただけると思います!


1巻は1月15日くらい、早いところで1月11日から書店に並びます。


すでにご予約くださった方は本当にありがとうございます!


ぜひ今後ともWeb版、書籍版ともによろしくお願いいたします!




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