第85話 港をつくる(3)
さて、計画したように港をつくるためには、まず海岸付近の浅瀬を埋めたてなければならない。
モンスターと戦う『艦』を造営するための『ドック』と『水深の深い場所』を隣接させる必要があるからだ。
で……
その『埋め立て』は、いきなりドシャドシャと盛土しても、水が浸食して崩れてしまう。
だから、まず埋め立てたい範囲を護岸(浸食されにくい石など)で囲う必要があるんだってさ。
≪元の海岸≫
□ □
□ 浅瀬 □
□□□□□□
こういう感じに。
こうして新たな海岸線にしたい範囲を『護岸』で囲ってから、浅瀬へ盛土していくというワケ。
防波堤は浅瀬の続く場所へ向かって、これを細長く延長していく感じで築く。
でもまあ……しかし。
これはなかなかに大規模な土木事業だ。
それなりの人員を確保しなければならない。
まずは、休暇中の坂東義太郎の部隊50名を除き、残り100名の部隊をすべてこの事業へ投入する。
(休暇中の50名も後日参加してもらうつもり)
剣士や攻撃的魔法使いの能力は、いわば重機的土木パワーとして考える。
しかし、それでも人員が足りないので、各村からも募集をした。
≪遠雲にあたらしい港を! 人員求ム!≫
そんな文句の『のぼり』を立てると、7つの村のうち(『外村』以外の)6つの村から人が集まってきてくれた。
中村から230名、磯村から116名、木村から30名、谷村から8名、奥村から2名、島村から2名。
計400名近い。
みんな遠雲の港がボロボロなのを知っているのである。
新しい港ができるというのは、領民全体のモチベーションを喚起する共通の事業でもあったのだ。
まあ、集まって来た中には、おじいさんおばあさんとか、子供連れの奥さんとかいて、そういう人たちも含めての人数だけどな。
ところで。
吉岡将平が言うには、これまで川の堤防などを築いていた時は「これからみんなのための堤防をつくるので手伝って!」と呼びかければ、みんな(個々人へ特別の対価や報酬はなくても)けっこう喜んで手伝ってくれたらしい。
だから、今回も『有志で手伝ってもらう』という扱いもできたのだが……
「こういう時こそpt負債を発行するチャンスッスよ!」
と商人が言うので、『メイドの給料』や『長者からの献上』のように、この事業へ携わった労働力には(老若男女問わず)すべて俺の【pt借用書】を与えた。
「ははっ……俺は遠雲の借金王だな」
「うーん、それを言うにはまだまだ足りないッスねー」
俺は自嘲するが、ガルシアはそれでも満足しないようだ。
まあ、俺にはまだ難しくてよくわからない『pt』関係の話だが、俺の-pt(負債)が誰かの+pt(資産)を生み出すということだけはなんとなくわかってきたので、まあ、さしあたってはガルシアの言う通りにしておこうと思った。
財務のことはお前に任すって言っちゃったしな。
ガガガガ……バシャ、バシャ……ザッザッザッザ、キイイイイ……!!
なにはともあれ、こうして集まった村人400名と部隊100名――総勢500名で港づくりが開始された。
この500名でどのような分担をするかも重要なポイントである。
まずは以下のように人員を3班へ割り振っていった。
・A班 護岸のための石を採掘し、海岸まで運ぶ班……200名
・B班 石で護岸の囲いを形成する班……200名
・C班 盛土するための土を掘り、港予定地の前にためておく班……100名
A班を指揮するのは掘削者のアキラである。
地質調査により、領地のどの場所の石が護岸に適しているか知っているのは彼だしね。
まあ、アキラの引っ込み思案な性質が心配されたが、掘削現場において彼のスキルは並みはずれており、すぐにみんなの尊敬を勝ち取ることに成功していた。
「ご、ごごから……ごごまで、魔法使いさんに爆破してもらってだ。剣士さんに砕いてもらっだ石をみんなで……は、運ぶど」
口下手なのは相変わらずだけど的確な指示である。
奥村から手伝いに来てくれた(アキラの妹にあたる)女主人が、
「あれが穀潰しのアキラか?」
と目を丸くしていたのには、傍からみていても胸があたたまった。
続いて、B班を指揮するのは吉岡将平である。
彼は昨年、堤防づくりのリーダーをやっていたことでもわかるように、土木監督力がある。(僧侶や神官が地域の土木をつかさどるってのは、よくあることなんだそうな)
将平のB班は、アキラのA班から送られてくる石で、端から護岸を築いていった。
そして、C班はナオをリーダーに据えた。
というのは、「盛土の土をどこから持ってこようか?」という話になった時に、
「この前『木村』から『中村』のあいだにつくった【水路】を、港まで延長したらどうですか?」
というナオのアイディアが非常に優れていたので、それを採用したという経緯があったからだ。
つまりさ。
水路の溝を掘るときには土が出るだろ?
その土を盛土に使えば、『水路』と『埋め立て』で一石二鳥というワケ。
水路を港まで延長する前提なら、港予定地の近くから土を運んでいけるしね。
これで水路の交通は、
『木村』→『中村』→『川』→『館』→『港』
と繋がる計画になる。
副産物というにはデカすぎる果実だな。
こうして、港づくりは順調に進んでいった。
が、しかし。
もう一月ほどすると、最も人口のある『中村』が【田植え】で忙しくなる。
「それはもう、去年のことを思い出していただければ……」
と中村出身の五十嵐さんが言う。
確かに。
領民部隊の創立の時、田植えで中村からあまり人を集められなくて25名から始めたんだもんな。
それまでになんとか海岸付近の浅瀬の埋め立てまでは完成して、ドックを造り始める基盤を整えておきたいところだ。
キャラデザの方、今日はモリエを公開します!
とても可愛いのでぜひご覧ください。
キャラデザ公開も、あとは主人公のエイガを残すのみとなりました。