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第84話 港をつくる(2)



 領地沿岸の調査に連れていったのは、吉岡将平と掘削者マイナーアキラ、それから射手のエース杏子きょうこの3名である。


「ごめんな杏子きょうこ。帰還したばっかなのに」


 俺は赤いセーターにおさげの少女を見返り言う。


「いいんですよ、先生。どうせ島にいてももぐるんですから」


 射手の杏子きょうこは坂東義太郎の率いる50人部隊に所属していて、先日帆船(はんせん)でケルムト文化圏から引き返してきたばかりだった。


(ちなみに、あの魔法銃を使ってトルドへ融合魔法を命中させたのは彼女である!)


 この部隊はかなりの長期遠征になっていたので、長期休暇を与えていたのだけど……


 少し彼女の力を借りたくて、呼び寄せたのである。


「でも、晴れでよかったです」


「そうだな」


 ところで、領地で唯一の離れ小島である『島村』では、この時期海藻が採れるそうな。


 杏子きょうこは部隊に所属する前、もともとその『島村』で海女あまをしていたのだった。


 ちなみに、潜在職性が【射手】なのに海女として立派にやっていたらしいのは、射手と海女の能力に通じるところがあったからだろう。


 この手のことはよくあることだ。


 例えば、五十嵐さんの潜在職性は【お嫁さん】なのに秘書として一流なのは、お嫁さんと秘書の能力に通じるところがあるからだろう。


 で、今日杏子(きょうこ)を呼んだのは射手のエースとしてではなく、その前職の海女としての能力を見込んでのことだった。


 すなわち。


 港の候補地付近の海底の様子をもぐって見てきてもらおうと考えたのである。



 ザッザッザッザ……



 俺たちは4人で領地の南海岸へ行き、岩と砂利の海辺へ小舟ボートを浮かべた。


 ぷかぁ……


 潮に流されないようにロープを繋ぎ、少しだけ岸から離れていく。


「じゃあこのあたりからいきましょう」


 と将平が言う。


「そうか。杏子きようこ頼むよ」


「はい!」


 杏子きょうこは返事すると、おもむろにその実りかけの腰へ手をやり【風のスカート】のホックを外した。


 プリーツ・スカートが溌剌はつらつとした太ももをストンっとすべり落ち、赤いセーターの下で白いパンツの股間が華やぐ。


 そして、その赤いセーターも、ほぼなんの躊躇もなくスっぽーんと脱ぎ去るのだ。


 まっ青な海と空へ振り返ると、パンツ一丁の少女の背中がぱっと花開く。


 あれ……?


 領地の海女は潜る時、チヨの締めているふんどしのような布で急所をカバーしてるって聞いたけど。


「ええ、でも帰って来てからはこの布でもぐってるんです。先生がくれた大切なものなので!」


「そ、そうか……」


 杏子きょうこが伸びをすると褐色の肩甲骨がやけに大人びて見え、膝を折り曲げて屈伸をすると真っ白なパンツのお尻に尾てい骨の影が宿った。


「よいしょっと」


 そして、肘をツンっと張って、目を海水から保護するガラス製のゴーグルを装着する。


 それだけで17の少女の顔は少し異様な面相めんそうへと変化へんげした。


「じゃあ、行ってきまーす」



 ジャパーン!!……



 飛び込みは頭から行くと思ったのだけれど、足から行くんだな。


「うっ……見ているだけでもこごえますね」


 と将平。


 まったくだ。



 ちゃぷん、ちゃぷん……



 で、しばらくすると、海面にゴーグルの笑顔が浮かぶ。


「ぷはぁっ!」


「どうだった? やっぱりこのあたりの海底は深かったか?」


「うーん。深いと言えば深いですけど、浅いと言えば浅かったです」


「?」


 よくわからないので問答を繰り返すが……


「要領を得ませんね」


「うん……」


「領主。これは領主の能力を使わねばならんでしょう」


 と、不吉なことを言い出す神官。


「あ?」


「領主は自分の魂を他人へ移すことができると聞きました」


 つまり、杏子きょうこに憑依して俺自身で海底を見てこいってことか……。


だ!……こんなまだ寒い時に海へなんてもぐれるか!」


「なさけないことをおっしゃるな。いたいけな少女がこんなにも勇ましく海原へ飛び込んでいるというのに」


「お、お前さっき見てるだけでこごえそうって言ってたじゃん!」


「言ってません」


 なんでウソつくの!?


「お、おで……もぐっでみよっがな」


 え、アキラ? マジか?


「アキラは泳げないだろう。ここは僕が」


「いや、私一人で十分ですよー」


 そんなふうにみんなが積極的な中、俺一人引っ込んでいるとカッコ悪い気がする。


「……じゃ、じゃあやっぱり俺が」


「「「どーぞどーぞ!!」」」


 やっぱりね!(泣)


「うふふっ、大丈夫ですよ。すぐに慣れます。ねっ、先生」


 海から伸びる濡れた小麦色の腕が、小舟ぎわで俺の手を握ってゆする。


「うっ、ううう」


 やむをえず、俺はこの海女あまの身体へ魂を移していった。


 ちゃぷん……


 ひー、冷てえ!


 ……と思ったのは確かに一瞬のこと。


 言っていたとおり、意外とすぐに慣れるんだな。


 冷たいけど、それほど無理じゃない。


 そして、海女あまの身体に憑依して海へもぐる経験はすばらしいものであった。


 柔軟性と身体能力の高い少女の身体で海の中を『くるり』っとひるがえり、手足をしなやか舞わせ、全身の躍動感でもって海をもぐっていく。


 下がっているのに、空を自由に浮遊しているような感覚。


 目の端に魚の泳ぐのが映り、天井の海水面からは遠い太陽がクリスタルのように美しい光を差し入れている。


 ぶくぶくぶく……


 で、それはさておき肝心な海底についてであるが、『深いと言えば深い、浅いと言えば浅い』というのは、こういうことである。


 まず、岸から少しだけ浅瀬が続く。


 これは岸にそってまんべんなくである。


 しかし、そこからグンっと深くなる場所と、浅いのが続く場所とでギザギザになっているのである。


 なんか見るからに厄介そうだな……。


「ぷはっ!……はぁはぁはぁ」


 こうして、しばらく潜ったあとに小船へ上がる。


「っ……!!」


 すると、少女の肌に風がひょおーっとそよいでメチャクチャ寒い!


 これが海中よりずっと寒いんだ。


 ガタガタ、ぶるぶるぶる……


 うつむくと、小麦色の少女になった俺の太ももにはシリアスな鳥肌がポツポツ立っていて、それでも白パンツにひとつだけ縫い込められた赤いリボンの装飾がヘソの下で『キョトン……?』とした様子なのにちょっと腹が立った。


 ひー、寒いー。


 と、俺はあわてて自分の身体へ魂を戻す。


「ほ、ほら。杏子きょうこ


 なんだか自分だけ自分の身体へ戻ってあったかなのを申し訳なく思いながら、俺は大きなタオルを杏子きょうこの肩へかけてやった。


「ありがとうございます、先生!」


 少女がそう言ってゴーグルをはずすと、いつもの可愛らしい笑顔に戻り、少しホッとする。


 それから俺は、彼女の背中をさすってやりながら、将平へ海底の様子を伝えた。


「どうかな? これだとこの辺り港はつくれそうもないか?」


「いいや、そうでもない」


 将平は少し考えるふうにしてからこう答えた。


「むしろ、浅瀬を埋め立てて防波堤ぼうはていを築くのにはてきしている。あとはアキラに海底の地盤を数ポイント調査してもらいましょう」


「それは小舟の上からで大丈夫なのか?」


「大丈夫です。光の柱を海水面から差し入れれば、地盤へ到着します」


「なるほど」


 ふと、体操座りをする少女の濡れた白いパンツのお尻から、タグがぴろっと飛び出しているのに気づいて、指でそっとしまってあげた。



 ◇



 港を河口かこうにつくるという発想もあったけれど、「防波堤によって川から流れ出る水を停滞させてはならない」という問題があるそうだ。


 なので、川からはそこそこ距離を取って、しかし水深のある南海岸のポイントを選び、港の建造予定地と決定する。


 それはちょうどやかたからまっすぐ南へ行った地点。


 しくも、最初にガルシアと中村から南へ行った時に行きついた海岸線であった。


 で、吉岡将平の書いた新しい港の設計図は以下。


 1) □埋め立て地

 2) ■ドック(ここで艦を造営)

 3) ◇水門(出来上がったらここから水を入れる)

 4) ○防波堤


□□□□□□□□□□

□□□□□■■□□□

□□□□□■■□□□

□□□□□■■□□□

□□□□□◇◇□□□

        〇〇

        〇〇

        〇〇

        〇〇

        〇〇

       〇〇〇

      〇〇〇

    〇〇〇〇  

  〇〇〇〇

  〇〇




 防波堤は海底の浅い場所へ築く。


 このポイントのすばらしいのは、岸から南西方向へカーブするように浅瀬が伸びているところ。


 その上へ堤防を築くと、ちょうど東からの海流から港を覆い守るようになるってワケ。


 ドックはまだ造れないが、この埋め立て土木はその翌日から始まった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ていうか白ぱんって濡れたらめっちゃ透けるんじゃ… 水着ですらもやばいのありますし…
[一言] リアス式海岸が水没してる感じ?
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