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第83話 港をつくる(1)


 吉山きやまの領主と晩餐ばんさんを共にしてからは、毎日のように彼と歓談するようになった。


 まず俺は「鬼を倒して島を平定したからと言ってそのまま島を我が物にしようとは思っていない」ということ、しかし「モンスターを倒す艦の造営のために鉄についての権益が欲しい」という正直な事情を硬軟こうなん織り混ぜて伝える。


 すると吉山きやまの領主は、鬼ヶ島における鉄鉱山てっこうざんの『採掘さいくつ権』を、(ギルドを仲介に支払われる褒賞金と引き換えに)譲ってもよいと言う。


 ギルドを介した褒賞金はボンド支払いなので極東の領主たちは苦労すると言うが……まあ、モノポリー的に完全な悪手なので、相手の厚意であるには違いなかった。


 さらに、再び鬼が地獄から攻めてきた時に吉山の力で守れるように「領民部隊育成の技術を提供する」と約束すると、あちらは「製鉄の技術を提供する」と約束してくれた。



 ところで。


 そんなまどろっこしいことをするくらいなら、もう鉄は輸入すればいいじゃないか……と思われるかもしれないが、そこは『国産』にこだわりたいところ。


 そりゃあ、ただ艦を造るだけならそのとおりの設計に合わせて発注すれば、その通りの型のはがねを購入することができるかもしれない。


 でも、俺たちは艦でモンスターと戦うのである。


 戦闘条件に合わせた『改造』や修理、メンテナンスのことも考えると、自分たちで製鉄し、自分たちの思う通りにる能力がぜひとも欲しい。


 うちにはすでに優秀な鍛冶工房があるので、それと連動して『鉄鋼石から製鉄できる技術』も育成しようというワケだった。



 で、こうして鬼ヶ島の件がまとまると、やがて議会も閉会。


 大臣や奥賀の領主とも『艦』について細かい交渉や、技術協力の日取りなどをめると、「あとは話を進めていくだけだ」ということで領地へ帰ることになった。




 ◇




 ヒヒーン……


 馬の首を並べて遠雲とくもに着くと、山道には梅のつぼみかんざし売り場のごとくチラつきはじめ、寒さもだいぶ和らぐ時節となっていた。


 領地の西側の弱モンスターたちもぴょん♪ぴょん♪っと跳ねてご機嫌な様子である。


 それに混じってナツメの婆さんが山を駆けてキノコを採っているのを見かけると、とてもほのぼのとした気持ちになった。


「「おかえりなさいませ、ご主人様!!」」


 で、やかたへ着くと、メイドが2人で出迎えてくれる。


 留守を守ってくれていたマナカとイコカだ。


 そう言えば、以前のハーフェン・フェルトからの帰還のときはやかたほこりまみれだったけれど、今回はそういうことにはなっていない。


 メイドたちの手によってきちんと掃除されていたし、何より帰ったときにちゃんと人に迎えられるのはスゲーほっとするな。


 メイドを雇おうとか言い出した時は五十嵐さんの趣味なのかなーとか思ったけど、マジ雇って正解だわ。


「ただいまー!」


「きゃー!おかえりー」


 さて、俺が居間に座って一息つくと、ひとり帝都へ連れていったスイカを二人がキャーキャーと取り囲んではしゃいでた。


 そう言えば、彼女ら3人はこれまで誰もこの遠雲を出たことがなかったんだってさ。


「でね、それでね! お舟がね! 忍者さんがね!……うー、あー、えーっとね!」


 スイカはむしろ日常に戻って急に興奮してしまったようで、目をぐるぐる回してしゃべる。


 しかしまったく伝わっておらず、残っていた二人は次第と苦笑いするばかりとなっていった。


 ふふっ、おもしれーな。


「エイガさま……」


 そんな時、太ももの側面に『むち♡むち♡』っと若々しい脚の感触がする。


 五十嵐さんだなーと思いながら「どうした?」とソファーの隣を見た。


「……採掘権も確保しましたので、さっそくアキラと将平を鬼ヶ島の鉱山へ向かわせますか?」


「あ、うーん。ヤツらはまだちょっと行かせたくないんだ」


「?……なぜです?」


「うん。まず、なにを置いても先に『港』を作らなきゃならないからな。明日でイイから将平に来てもらって相談するから」


「わかりました……」



 で、翌日。


 吉岡神社の神官(息子)である吉岡将平がやってきた。


 彼は、初めてこの領地に来た時に見た『堤防づくり』のリーダーをしていた男だ。


 土木の知識があり、霊能力で地鎮もでき、アキラと一緒に魔鉱石の掘削や地質調査にあたってもいる。


 そういうワケで。


 港づくりにおいてはまず彼との相談が必要なのだった。


「領主。あなたはどうして遠雲とくもの港があんな『モンスターが出現する、西側の誰も住んでいないところ』にあるかご存じか?」


「いや、よくわかんない。なんでなんだろーなぁって思ってたけど……」


 俺は少し考えるようにして『もしかしたら』と思っていたことを言う。


「ひょっとして潮の流れ、か?」


「そのとおりです」


 ここら付近の潮の流れは、領地の東海岸にそって来ることが多いのだそうだ。


 西のスカハマから船がやってくる時に、東海岸に港があっては潮の影響で港へ寄りづらい。


 逆に、南へ三角に突き出た地形のおかげで西海岸は潮の影響がほとんどない。


 人里から離れていても西側に港がつくられたのは、そういう理由からなのだった。


「俺は新しい港をさ。河口かこう付近の南海岸につくりたいと思っていたんだけど」


「それでもなみにはさらされます」


「じゃあやっぱ西海岸につくった方がいいかなぁ」


「しかし、お話を伺うに、それはそれで問題だ……」


 将平が言うには、西側の海岸はそれほど水深がないのだそうだ。


 逆に水深という意味では南の先端の方が深くあるそうな。


「じゃあ、けっきょくどうすりゃいいんだよ?」


「南側に新しい港をつくるには強固な『防波堤』を築く必要がある。西側を使い続けるならば水深を掘り下げる大工事が必要だ。二者択一でしょうな」


 なるほど。


 どちらの計画で進めるか……。


 その判断するために、俺たちはとりあえず調査へ出かけた。


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― 新着の感想 ―
[一言] モノポリー的に完全な悪手 の意味がググってもわからない。 モノポリーやったことない・・・
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