第82話 防諜
帝都に滞在している遠雲の仲間たちのところへ西園寺華那子を連れて帰ると、ワッ!というふうに沸いた。
彼女の覆面の装束がいかにも『忍者』というふうで、(ルックスとして)みんなの期待へ大いに応えたらしい。
中でも、リヴの喜びようったらなかった。
「あんたが女忍者さんかい!」
「え?」
「なんとかしておくれよ! エイガがイジメられないようにさ」
リヴはタンクトップの乳をぱるんぱるん揺らして、覆面女忍者の肩をぐわんぐわん揺らす。
そう言えば、この二人は初対面か。
「な、なな、なんですの?」
「おいリヴ。落ち着けよ。西園寺さん困ってるだろ」
「……エイガどの、華那子とお呼びくださいまし」
「華那子、なんとかしておくれよ」
お前が呼ぶのかよ。
「女忍者さん。藁人形と五寸釘です」
メイドのスイカはなにか勘違いしているようだ。
「ウチ、地面を割って水柱が立つヤツが見たい!」
わかったわかった。
「やれやれ。ちょっと『忍者とはなんぞや』ってとこらへんを、みんなへ解説してやってくれよ」
「はぁ……仕方ありませんわね」
西園寺華那子が答えると、五十嵐さんが障子の向こうからホワイトボードを運んできた。
「オホン……。それでは始めさせていただきますわ」
~~西園寺華那子の忍者講座~~
この帝都には『隠密サンプラザ学校』というエリート忍者の育成機関がございます。
そこでは毎日午前中に、次の3つの講義を基本として叩きこまれるのですわ。
1 諜報……情報の収集の術
2 謀略……情報操作や宣伝の術
3 防諜……敵の仕かけてくる諜報や謀略を察知し、それを逆利用して敵の思考を操作する術
忍者はこれらの理論に基づき、目的を達成するために暗躍いたしますのよ。
忍者、と申しますと華やかな忍術などが有名ですが、それもあくまで上の基礎理論に基づいて暗躍を達成するための手段にすぎないのですわ。
≪忍者講座おわり≫
「「「わー!」」」
パチパチパチパチ……
と喜んでいるのは、五十嵐さん、ガルシア、ナオ、そして何故かスイカだった。
一方で、チヨやリヴはあんまり面白そうにしない。
チヨはホワイトボードが登場した時にすでに中庭へ鍛錬へ行ってしまったし、リヴは唇を尖らせて不満げだ。
「なんだい。忍者さんさえ来れば、吉山の領主なんて闇から闇へ葬られると思ったのにさ……」
「おいおい。俺は別に吉山の領主を抹殺しようとしているワケじゃないからな(汗)」
「そーなのかい?」
「……力で終わらせようというのであれば、吉山の領主など相手にしなければいいだけです」
と五十嵐さんが言う。
そう。
そもそも吉山が鬼ヶ島を領有しているというのも、それは歴史上のことである。
それまで島をパワーで『実行支配』していたのは鬼たちであって、その鬼を俺たちが駆逐した以上、今の実行支配は俺たち遠雲にあるということになろう。
よく考えてみればさ。
歴史上の領有だって、ずっと昔の実行支配によって『領有』ってことになっているだけだろ。
だから、このまま俺たちが力づくで鬼ヶ島の実行支配を続ければ、いずれは歴史上にも俺たちの領土ってことになるんだろうさ。
そーやって領土というのは出たり引っ込んだりするものなのである。
まあ……
でも俺は、別に領土そのものを広げたいとか、そういう系の欲はあんまねーんだよな。
「そもそも自分らが鬼ヶ島に注目しているのは鉄鉱山があるからッスよね」
そうだ。
だから、吉山の領主のことなんて無視して、とっととアキラを送って鉄鉱石の採掘を始めてしまうのが一番簡単と言えば簡単なのである。
そーやっている間に島は俺たちのモノになるだろう。
でも、それはちょっと非紳士的すぎだし、中央や他の領主たちから危険視されるかもしれない。
できれば余計な衝突は避け、交渉で『鉄』の件だけスマートに目的を達成したいところ。
「ただ、その交渉そのものができなくて困っているんだよ。すげー嫌われちゃてさ」
「オホホホ……。その程度のことならば、ちょっとした防諜で解決致しますわね」
「と言うと?」
「エイガどのが嫌われてしまったキッカケの『逆』をやって差し上げればいいのですわ」
◇
「五十嵐さんや。本当に吉山のだんごはおいしいねえ」
「……ええ」
ある日。
俺は五十嵐さんと一緒にだんごとお茶でのんびりしていた。
「おや? もう無いのかい? 吉山のだんご」
「スイカが今買いに行ってます……」
「早く食べたいなあ。あれを食べると吉山の領主の家来になってしまいたくなるほどだ」
「……エイガさま、気持ちはわかりますが思いとどまってください」
さて、こんな茶番のような会話を繰り広げているのにはわけがある。
俺は以前、『いつか心を開いてくれるはず』と思い吉山の領主本人へ根気よく話しかけにいったワケだけど、それは一旦やめて、
『吉山の領主がいないところで、吉山の特産物や領主のことを褒める』
という作戦に出ていたのであった。
西園寺華那子が言うには、
「エイガどのに対しては、必ず吉山の忍者が諜報しておりますわ」
とのこと。
「なんでそんなことが言い切れるんだ?」
「絶対にしております。エイガどのが嫌いということは、エイガどのが気になるということでもございますの。そんなエイガどのが自分のことをどう思っているか……自己検索をかけたくなるのが人情というものですわ。これからは壁に耳が、障子に目が、天井裏には忍者があると思ってお過ごしくださいまし」
確かに。
人は、本人に告げられることよりも、自分のいないところでされる噂話の方が真実だと思うものである。
『あの人、キミのこと大したヤツだって言ってたよ』
って言われた方が、本人に言われるより信ぴょう性があるだろ?
彼女の見立てが本当ならば有効な手立てかもしれない。
「領主さま! 吉山のだんごですよ!!」
と、そんなふうに考えているとスイカが買い物から帰ってくる。
「うまーい!!」
ウソではない。
たしかにうまいんだ。
でも……そんな叫ぶほどじゃないから、むしろだんごの普通のおいしさに申し訳ない気がした(汗)
もちろん。
作戦は吉山の特産物をおいしそうに食ってるだけではないんだぜ。
他の領主と話している時も、随所に吉山の領主へのリスペクトを織り交ぜたりキメの細かい撒き餌をする。
正直、大変なストレスであったが、その他によい手段も思い浮かばないので仕方ない。
で、そんなある日のこと。
議会の休憩時間に喫煙処へ行くと、桃のハチマキをした吉山の領主とばったり会ってしまう。
「あ……」
思わず足が引っ込みかけたが、それはあまりに不自然なのでそのまま灰皿のところでタバコへ火を付けざるを得なかった。
「……ども」
「ん……」
喫煙処に他に人はない。
二人っきりだ。
気まずいなあ。
こっちとしては本当に防諜が効いているのかわからないので不安だ。
ところがそんな時、
「あの、遠雲の方……」
と、桃のハチマキが喋りかけてきて心臓がバクンッと跳ね上がる。
「は、はい? なんでしょう」
「ああ。その……よかったら今夜、夕げをご一緒いたしませぬか? あなたのことはいろいろ誤解していたようだ」
来た!
「ええ、喜んで」
よし、これでピースは揃うはずだ!
あけましておめでとうございます!
次回は遠雲に戻って港の造営に入ります。





