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第8話 武闘家


 ところで。


 俺は『木村』の若者たちに取り囲まれていた間も、当然ながら【女神の瞳】を開いていた。



 で、その結果を振り返る前に、ここで俺の【女神の瞳】について少し補足しておこうと思う。



 補足というのは、この能力はあくまで、


1 『だれがどんな職業に向いているか』


2 『そいつがこれからどんなスキルや魔法を会得しうるか』


 を鑑定するものだから、


『そいつが今現在、どういう職についているか』


 は見ることはできない……ということだ。



 今実際についている職業ジョブを言い当てるのは『ステータス』のスキルである。


 まあ。


 俺やクロスの通っていた魔法大学校では『ステータス概説Ⅰ・Ⅱ』が一般教養課程の必修科目だったから、まったくステータスができないかと聞かれればそんなことはないのだぜ?


 けれど、少なくとも『現在の職業ジョブを見る』というのはかなり高度で俺にはできない。




 だから俺は、『木村』にやってきた時点では、若者たちがなんの職についているのか知らなかったのであり、つまり『木こり』の職性に注目したりなどはしなかったのだった。


 やっぱり、どーしてもクセで『冒険者カテゴリー』の潜在職性に目が行ってしまうのである。


 俺は、全部で10人ちょっとの若い男女へ向けて【女神の瞳】を開いてみたが、冒険者カテゴリーの職性を持った者は2人。


 それぞれ【魔法使い】と【武闘家】の職性。


 まあ、それも大した才能ではないだろう。


 実際に、魔法使いの習得可能スキルも『キラド』が限界らしかった。



 でも、そんなことは折り込みずみというか、最初から領民個々人に大きな才能を期待していたワケではないから、ガッカリもしない。


 ちゃんと一定割合は冒険スキルを習得するヤツもいる……ということがわかれば、とりあえずは十分である。



 それから他の連中の職性は、別に『木こり』に限定されず、いろいろだった。


 例えば、『船渡し』だったり『八百屋』だったり『海女』だったり。


 確かに、『木こり』職性のヤツも何人かいたのは記憶しているけど、2、3人くらいだったかな。



「でも、旦那。よく考えてみると、旦那の能力って【領主】をやるとしたらマジでチートっスよね」



 木村のおさの家で寝る前。


 ふたりで話していると、ガルシアが急にそんなことを言い出す。



「は?なんでそー思う?」


「だって、人がどんな職業に向いてるかわかっちゃうんでしょ。だったら領民をみーんな『向いてる職業』につかせちゃえば、簡単に発展できるじゃないッスか♪」



 コイツはそんなふうに言うが……


 そりゃマジであさはかな考えだと思うぜ、ガルシアよ。



 ◇



 翌朝。


「オラらはもう仕事さいくが、おめーら、どこいくだ?」


 とおさに聞かれたので、俺は最大規模の1200人の村へ行くつもりだと答えた。


 もう船は明日出てしまうし、今日中に最大規模の村くらいは見ておけたらいいよな。



「あー、『中村』かー。オラは山さ入るでな……。ああっ、だども、川へ木さ運ぶ連中がおるで、途中まで案内させるべ」


 おさはそう言うと、俺たちを連れて村の外れへ向かった。


 村の外へ向かう道に沿って、丸太の積まれた荷車がずらっと並ぶ。


 その荷車の周りに、若いヤツらがガヤガヤたむろしていた。


「コイツらが川へ行ぐ若いのだで。……おーい、チヨ!」


「なに?おさ


 そう返事したのは、若い女である。


「オメーら、大川の方へ行くが?お客さんら、『中村』まで案内したれや」


「ん、わかったよ」


「ほんだら、あとは任せたでな」


「あーい、おさ



 この娘は……


 と、俺は思わずハッとした。


 というのも、昨日見た若い連中の中で【武闘家】の職性を持っていたのは、この娘だったからだ。


「じゃあアンタら。行くよ!」


 娘はそう言うと、村の若衆たちを指揮し、丸太を積んだ荷車を何台も動かし始めた。


 ゴトゴトゴト……


 荷車を押す男たちの肩がいかり、引く男たちの姿勢は前傾する。


 そんな中、『チヨ』という娘は、道で厄介な岩があると男たちに荷車のあやつり方を指導し、車輪にトラブルがあれば即座に修理した。


 動きはハキハキして軽妙だ。


 娘の、たけの短い着物から健康的な肢体したいが躍動し、男らしく女尻めじりに締められた白い布が労働的筋肉をムキっと強調している。


 そんな男勝りな印象とは対照的に乳房の大きいのがたっぷりとして、薄いあわせ布からこぼれてしまいがち。


 シャカシャカと動く素足すあしは土にまみれて、異様なほど官能的に見えた。



「キミ、すげーな。若いのにさ」


「ウチ、木運ぶのはガキの頃からやってっら!」


「へえ。じゃあ、あの村じゃあ運送のリーダーってとこか」


「?」


「木を運ぶおさってことだろ」


「ふふっ……アンタ!わかってるじゃないかい。うふふふ」


 と言って、娘は勢いよく俺の肩をバシバシ叩いた。



 ガタ、ゴト……



 こうして、一行は大きな川へたどり着く。


「ウチらはここで仕事があるけどさ!中村はこのまま川沿いに南で行けっから」


「そっか。ありがとな」



 そう答えて、俺は川を見つめていた。


 そう。


 あれは、山の中腹で見たあの川だろう。


 すでに堤防づくりで人々が集まっている。


 近くで見ると作業はよりダイナミックで、川はキラキラ輝いて見えた。



「キミ、綺麗なところで育ったね」


 ふと、そんなふうに褒めてやると、


「へへへ」


 と娘は照れる。


「俺もここに住みたいって思った」


「本当かい?」


「ああ。今度来るときは家もてたいからさ、その時はキミ……木を運んで来てくれよな」


「うん!」


 娘はうなずくと、振り返って川の方へ走り去っていった。



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