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第78話 ゲーテブルク城(3)


 気絶したティアナを抱え、夜空へ飛び去っていかんとする盗賊。


 その足首をギリギリと片手でつかみ、俺はなんとかぶら下がっている状態だ。



 ひょおおおお……



「ふん、しつこいですね」


 そう言って、トルドはもう片方の足でデュクシッ!デュクシッ!っと俺の手を潰しにかかった。


「痛ッ……っ!」


「あきらめて放しなさい」


「そりゃこっちのセリフだ!」


 そう返すと、俺はもう片方の手で『ぴゅー』っと指笛を吹く。


「む、何をしたのです?」


「なんでもねーよ!」


「チッ……」


 トルドはイラ立ったように舌打ちすると、革靴《かわぐつ》の踵《かかと》で俺の手の甲の筋《すじ》を巧《たく》みに削った。


「ッ!」


 ヤバっ。手に力が……


「ぁ……ああ!!」


「はっはー!」


 手の力を失い、足から離れてしまう。


 真っ逆さまの俺。


「いーッッッ!!!!」


 落下にもがきながら、トルドが背中を向けて飛び去っていくのを見返る。


 くそっ……逃がしてたまるか!


 ヒヒーン!


 しかし、そこへ先ほどの指笛に呼び寄せられて、黒王丸があらわれたのである。


「……とっとっと、危ねっ」


 手綱《たづな》をつかみ、どっしりとした千里馬の背によじ登る。


「行くぞ、黒王丸!!」


 馬を得た俺は空中で身をひるがえし、すぐさま盗賊の背へ突進していった。



 キーーーーーーーン!!!



 よし、敵は俺が落下したと思い込んでこちらに気づいていない。


「このまま行け!! おらああああ!!……」


 飛行魔法《ウォラートゥス》斬撃を喰らわすチャンスだ……と思ったが、それだとティアナが危ない。


 ので、とっさに飛行魔法《ウォラートゥス》・タックルに切り替えた。


 夜空を猛突進する馬の肩が、敵の背中へぶち当たる。


「のわっ!!……」


 さすがのトルドも予測していないこの衝撃に女を離した。


 気絶したティアナは左方へ、ダメージを直で喰らったトルドは右方へ墜落していく。


「ティアナ!」


 俺は女だけを空中でひらりとキャッチすると、付近の森へ着地したのだった。



 ◇



 着地した森の中。


「はぁはぁはぁ……。おい、ティアナ」


「ん、んん……」


 目は覚まさないが無事なようだ。


「……よかった。もうダメかと思った」


 思わずその美しい背中をキツく抱きしめると、肩は華奢《きゃしゃ》で、なつかしい胸と胸がムッと潰れあい、じんわりあたたかい。


「っ……んん、エイガ……」


 うわごと。


 鼻先をくすぐる金髪《ブロンド》から青春の香りのする女だった。


「……城へ帰ろう」


 そう。


 城のクロスたちのところまで送り届ければとりあえずは安心なはずだ。


 でも、あわてて空を飛んで行くとその途中でトルドに発見されそうだな。


 城までは少し離れたが、歩けない距離じゃない。


 そう思って地上の木々に隠れながら城へ戻っていく。


 ザッザッザ……


 で、しばらくすると、


『領主さま。無事ですか』


 と通信魔法トランシーバーが入った。


 城周辺に配置していた坂東義太郎の50人部隊の支援系魔導師からだ。


『ああ、なんとか。今そちらに戻ってる』


 トランシーバーが入ったということは、もうそれほどの距離はないということを意味する。

(中級通信魔法であるトランシーバーの通信可能範囲は狭いからである)


 ホッ……。なんとかティアナを城まで送ることができそうだな。


 と、そう思ったのだが、


「そこまでです」


 あと一歩。


 ちょうど森と城下の境《さかい》のところで敵に見つかってしまったのである。


「トルド……」


「エイガ・ジャニエス。おとなしく女を渡した方が身のためです」


「バカ言え!」


「フフフッ、虚勢をはるものではありませんよ」


 トルドは内ポケットから櫛《くし》を取りだし、乱れたオールバックを整えながら続けた。


「あなたのことは今回のことでいろいろ調べさせていただいたのです。なるほど、あなたは確かに一流の育成者のようだ。あの五人の才能を発掘し、支配し、あそこまでのパーティーを創りあげたこと……それには敬意を表します。しかしあなたはそこまでの男なのです」


「どういう意味だよ」


「あなたの『奇跡の五人』は素晴らしい。が、あなた自身はザコにすぎない……という意味です。たとえば、ここで私とあなたが戦ってどうにかなりますか?」


「っ……」


 確かに、あの盗賊トルドが相手では、俺の戦闘力だ(・)け(・)では歯が立たないだろう。


「あなたはその女を守りたい。しかし、私はその女の魔法が必要なのです。最終的に我《が》を通せるのは力ある者なのですよ」


「ははッ!」


 俺は短く笑うと、馬上でティアナをしっかり抱き寄せて、


「同感だね」


 と言った。


「ならば降参しなさい。殺してさしあげてもよいですが……私は血が嫌いなのですよ」


「だからさ……」


 俺はそこでサッと左手を上げて言った。


「それはこっちのセリフだっつーの!」


 ヒュンヒュン……


 すると、森の影から矢が飛んで来てトルドへ襲い掛かる。



 カッ、カッ、カッ……ボン!ボン!ボン!



 暗闇からの攻撃はすべて命中し、魔鉱石に含まれた魔法が次々と発現する。


「ぐはッ……。なんだこれは!?」


「あんたも知ってるだろ。俺が今極東の領主をやっているってさ。今、この城の周辺にはその戦力を配置してあるんだ」


「なんだと?」


「ふははははっ、ここは完全に包囲されている! あんたがいくら強かろうと、個人の力で一国のパワーに敵うと思うか!」


 あれ? なんか俺の方が悪役みてーだな(汗)


 まあいい。


 俺はさらに、


『放て!』


 と合図し、数十の魔法の矢を射かけた。


「ぐっ、ぎっ、がっ……」


 すべて命中。


 射手の精度も上がっている。


 ヤツは急所を避けるので精一杯だ。


「降参するなら今のうちだぜ」


「……ふんっ! 戦力と言ってもしょせんは村人たち。この程度で私を倒せると思うな!」


 それでも敵の心は折れない。


 矢は当たるが、レベル3魔法の威力ではトルドを参らせるのには火力不足だった。


「しょうがないな……。じゃあ、あんた。ジャンケン必勝法知ってる?」


「な……に?」


「これだよ、これ」


 俺は親指と人差し指でピストルを作ってみせる。


「それがなんです」


「これが合図なんだけど。もう一度聞くぜ? 降参する気はないんだな」


「冗談ッ!」


「そっか……。ばっきゅーん」


 俺は指鉄砲を、敵に向けて撃った。


 すると、森の闇から本当の弾丸が青い光を帯びて飛んでくる。


 その青い光は【融合石】の青。


 領民部隊の魔法使いの中級魔法を5つ融合させ、『上級の火力』へと昇華した弾である。


 シュごおおおおお!!!!


 この弾には炎系魔法を融合させたようだ。


 敵へ被弾すると共に、それは火の竜となって対象を焼き尽くす。


「なっ……のおお、ぬああああっ!」


 俺がどれだけ頑張っても会得できなかった上級攻撃魔法【ドキラドン】の威力!


 リヴの『魔法銃』は大成功である。


「う、ううう。バカな……」


 これにはさすがのトルドも膝をついた。


 が、しかし、まだ倒れはしないという情勢。


 ……ところで。


 これで降参してくれねーとちょっと困るんだよな。


 と言うのも先籠めの魔法銃は連射ができないのだ。


 仕方がないので俺はもう一度指鉄砲を構え、ハッタリでこう煽《あお》った。


「よお。もう一発喰らってみるか?」


「っ!!……ゴガグギギギギ……」


 え? なんだ?


「ギギギギギギ……調子にのってんじゃねー! ザコがぁあああ!!」


 そこで、トルドのあの余裕ぶったインテリ顔が怒りで崩壊する。


 ヤバっ。脅すつもりで言ったのにキレやがった。怖い!


「トルド! 落ち着きなさい!!」


「ウウウウウ!!」


 そんな時。さらに悪いことにトルドの仲間らしき男女が空から降ってくる。


「はっ!……ソフィー? どうしたのです?」


 やはり、あの女が女勇者ソフィーか。


「どうしたじゃないわよ! やっぱり心配になって見に来たの。そしたら案の定よ!!」


「ウウウウ!」


「あんたキレると弱いんだから、とにかく落ち着きなさい!」


「ソフィー、しかし……」


 なんかドタバタしてるけど相手が三人集まってしまったら勝ち目はない。


 この隙《すき》に逃げよう。


 そう思って、そーっと馬をひるがえしかけたのだが、


「ん、んん……エイガ?」


 その時、腕の中で赤い眼鏡から青い瞳がぱちくりとするのに気づく。


「ティアナ! 気づいたのか!」


 すると俄然、女勇者パーティたちの警戒が高まった。


 ジリ……


 彼女らは自分たち3人と、ティアナの目覚めたこちらとの戦力差を計算しているようだった。


 まだヤツらの方が優勢か。


 だが、またその時。


「おーい! ティアナ先輩ー!!」


 と、城の方からエマの声がする。


 騒ぎを聞きつけてティアナを探しに来たのだろう。


「ナイスだぜ、エマ!」


「あ、ティアナ先輩! ……と、エイガ先輩(笑)」


「人の名前をギャグみたいに言うな!」


 でもまあ、今はいい。


 それにエマと一緒にデリーもいる。


「……」


 コイツは強力だぜ。


 これで勢力も均衡に近づいたはず。


「ふうっ……。わかったわ。ここは引き分けにしましょう」


 そこで女勇者ソフィーはため息をついて言った。


「おい、待てよ」


 しかしこれをひき止める俺。


 そうそう、忘れてた。


「なによ! もう引くんだからいいでしょ!」


「よくない。アンタんところの盗賊が俺の顔を盗んで困っているんだ。それを何とかしてくれよ」


「はー、しょうがないわね。トルド」


「ソフィー。……くそっ」


 トルドは手に魔法の『書』を具現化し、俺へ見せるようにして以下の項目を削除した。


≪エイガ・ジャニエスの顔(盗み条件、シェイクハンド)≫


「それじゃあ、もう行くわよ!」


 こうして女勇者と盗賊は、ウーウー言う巨大な男の肩に乗る。


 ジャリ……


 そして、女勇者はティアラーのような『額当《ひたいあ》て』を煌《きら》めかせながら振り返ると、最後に俺をジっと見つめて言った。


「ふん……カッコイイじゃない」


「あ?」


 俺はギロっと睨むが、その時には巨大な男が跳躍して女勇者たちは消え去ってしまったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] そしてまた一人エイガの毒牙にかかるのであった
[一言] 真のヒロインはリヴだと私は思うのですよ
[一言] 一国の領主になりすますって普通に考えて斬首ものだと思いますが、それで済んじゃうのかw まぁ一流の実力者と一貴族程度だと実力者が取られうる世界なんでしょうけども。
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