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第74話 帝都の議会(2)


 ざわざわざわ……


「……静粛に、でおじゃる」


 と大臣。



 議会が始まるようだ。



 中央の御簾みすの内には大王おおきみがいらっしゃるとのこと。


 議長を務めるのは、その御前ごぜんに控えている大臣である。


 この下に極東60余州の領主たちが東西に分かれて向き合い、それぞれ『ムンっ!』と胸を張って座布団に座っていた。


 それぞれが一国一城のあるじであると思うと壮観でもある。


「ふぁーあ……」


 まあ、議会そのものは俺にとっては基本退屈なんだけどな。


 俺はうつらうつらとしながらも、なんとか眠らないように耐えていた。


「zzz……っ!……zz……っ!!」


 と、そんな時。


 ふと、畳の中央に引かれた2本の赤いラインへ目を留める。


 東西に分かれた領主たちの西側に1本。


 東側にもう1本が引かれていた。


 東側のは俺の膝の前を通っている。


 なんなんだろうな、これ……。


 そう思って手慰みにその畳の赤線へ触れてみた時だった。


「無礼者!」


 急に、向かいの席の『桃のハチマキ』をした男が立ち上がって叫ぶ。


 無礼者? どこ?


「キサマだ、キサマ! そこの若いの」


 と思ったが、どうやら俺のことを言っているらしい。


 桃のハチマキは俺を指さし言った。


「そっちがそのつもりなら相手になるぞ! この新参者の田舎(ざむらい)が!」


 マジで意味わかんねーけど、なんかスゲーののしられているのはわかる。


 コイツ、ケンカ売ってんのか?


 冒険者ナメんじゃねーぞ?


 そう身を乗り出しかけたのだが、


「エイガ殿どの(汗)……御下がりくだされ」


 と、奥賀の領主が横で俺の服を引っ張る。


 瞬間、『彼のような人格者がたしなめるということは、俺にがないのかもしれない』と察して、


「……ませんっす」


 とだけ言って俺は引いた。



 で、あとから奥賀の領主が教えてくれたのだけど、あの赤いラインは『これ以上前に出てはいけない』という意味の線なのだそうだ。


 そもそも領主たちは東側と西側で衝突することが多いらしい。


 その上で極東の領主階級はみんな刀や剣を帯びてもいるから(俺も『銅の剣+17』を帯びている)、議会が白熱すると刃傷沙汰にもなりかねない。


 そういう理由で東西に引かれた赤線なので、不用意にそこへ触れるとすごくケンカ売った感じになってしまうってワケ。



 ……そんなん知らんかったもん、とは思ったが、初めて来た場所の『しきたり』を知らずに怒られるなんて種類の理不尽は、世の中に腐るほどある。


 まあ、運が悪かったのかもな。


 この時はそんなふうに考えていた。




 ガヤガヤガヤ……


 さて、その日の議会が終わると、領主たちは宮中の『渡り廊下』で歓談する。


 領主だけではなくその家臣や忍者、財界人、ロビイストなども入り乱れ、議会そのものよりも実質的な政治的社交の臭いがした。


 そんな中、


「遠雲の方! 遠雲の方!」


「貴殿、遠雲の方でござろう!!」


 なんか有力者っぽい人たちが俺の周りにたくさん集まってくる。


「は?……はぁ。俺が遠雲の領主ですが。なにか?」


「聞き及んでございますぞ! 鬼ヶ島の鬼を退治したのでござろう」


「いやはや、『伝説の桃の人』以来の快挙ですなぁ」


「いかようにして退治なされたのか? 家来はいかほど?」


 そんなふうに、議場では仏頂面をしていたおじさまたちが少年のごとく目を輝かせながら質問を浴びせてくる。


 そう言えば五十嵐さんが言ってたな。


『極東で、桃の人の伝説を知らない人はいません』


 って。


「ぜひ鬼退治のこと、お聞かせくだされ!」


「え、いや……。実際にクエストに当たったのは育成した部隊の者で……」


 たじろぐ俺。


 聞くところによると、みんな議場では神妙にしていなくちゃいけないので我慢していたらしいが、内心俺に対して非常に興味を持ってくれていたらしい。


 それはまあ嬉しいことだけど、こうも囲まれるとさすがに参るな。


「あ、エイガ~!」


「領主さまー!」


 そこへ遠雲の仲間たちがひかどころから出てきた。


 ちょうどいい。


「あの、みなさん。たしかにウチの領地は鬼ヶ島を攻略しましたが、実際にクエストへあたったのはこの子たちなんです」


 そう言って、俺は左手でナオの頭をサラサラなで、右手でチヨの肩をむっちり抱きながら各々方へ紹介する。


「なんと!」


「まだ少女ではないか!」


 そう言うと極めて男男したルックスの領主たちが『わっしょいわっしょい』という感じで少女たちを誉め称え始めた。


 なんかスゲー光景だな。


「えへ……えへへ♪」


 おっ? めずらしくナオが照れている。


 まあ、よその人に誉めてもらうのは独特の嬉しさがあるものだし。


 これでナオもちょっとは自信を持ってくれるとイイよな。


「ふー、やれやれだぜ」


 さて、人だかりがナオやチヨに集中して、やっと一息ついていると、


「お疲れさまです……」


 と、五十嵐さんがレモン水とタオルを手渡してくれる。


「おお、ありがと。ぐびぐび……」


「で、旦那」


「ぐびぐびぐび、ぷはっ……ん?」


吉山きやまの領主とは話せたんスか?」


 そこでガルシアが本題について尋ねてくる。


 そう。


 吉山きやまとは、鬼ヶ島を名義上保有している領地であった。


 古代から製鉄技術で勢力を誇った大領地であり、むかしむかし桃の人が生まれ育ったという伝説の地でもある。


 つまり、鬼ヶ島の領有権や鉄の扱いについては、吉山きやまの領主との話し合いが重要になってくるはずなのだが……


「いや、ちょっと吉山きやまの領主が誰だかわかんなくってさ。どなたなんだろ?」


「……エイガ様」


 五十嵐さんが俺の腕にぴとり寄り添って言う。


「あちらです……」


 彼女の視線を辿ると、なんと、そこにはあの桃のハチマキの男があった。


「ゲッ……。アイツか」


「なにか?」


「いや。俺、さっきアイツに叱られたんだよ」


「何子供みたいなこと言ってんスか」


「だってお前。大人になってフツーに叱られるのマジでイヤだぜ?」


「そーいうことこそキッカケになるんスよ。世界はツンデレで回ってんスから」


「そーかなあ」


 ガルシアに発破はっぱをかけられて、俺はそろーっと吉山きやまの領主の方へ行く。


「あ、どうも。吉山きやまの領主」


「むっ、キサマは!……」


「あの、さっきは知らないこととはいえ失礼しました」


 そう言ってペコリと頭を下げる俺。


「!?」


「未熟者ですが、今後ともご指導いただければありがたいです」


「む、むう。わかればよいのだ。拙者も少し言い過ぎたかもしれぬ」


「いえいえ。ところで領主。今晩のご予定は……」


 とイイ感じに雨降って地固まったところで、彼をディナーへ誘おうとした時だ。


「ワッハッハ、それにしても……」


 と、渡り廊下の角の向こうで、数人の領主たちの話すのが聞こえてきたのである。


「……それにしても遠雲の方が鬼を倒してしまって、吉山の領主は面目丸つぶれじゃの。桃のハチマキが泣くわい」


「そういえばあやつ議会で怒鳴っておったな。おおかたいておるのだろう」


「それにひきかえ、遠雲の方は人間ができておったの」


「まったくじゃ。ワッハッハ」


 領主たちは我々に気づかずそのまま去っていった。


「……」


「っ……」


 後に残ったのは、俺と吉山の領主の間の微妙な空気である。


 ヤバイ、なんか言わねえと。


「あの、その……」


「くっ……キサマ、調子に乗るなよ!」


 吉山の領主はハチマキをひるがえしてプンスカ去って行ってしまった。


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