第73話 帝都の議会(1)
俺は『領主』として議会へ出席するため、帝都へ行くことになった。
お供にはガルシア、五十嵐さん、リヴ。
身の回りのことをお願いするメイドとして一人スイカを連れていくことにした。
それから、鬼ヶ島クエスト攻略の代表者としてナオとチヨについてきてもらう。
鉄の出る鬼ヶ島の鬼を退治したのでその領有権を認めて欲しい……というのが今回一番の目的なのだから、クエストで活躍した張本人たちの証言は欲しいところだからな。
ところで、帝都へは以前のように『船でスカハマ経由』で行くつもりだったのだけれど、極東の領主たちは議会へ向かう時【行列】を成して行くのが慣行らしい。
ので、今回は陸路を取ることになった。
「でも距離があるから馬が必要だな……」
そこで馬の調達を『中村』の長者にお願いすると、「栄誉あることでございます」と快く献上してくれると言う。
前に遠征先の商業都市ハーフェン・フェルトでボンドがなくなっちゃったことを思い出すと、こうして領民が必要なものタダでくれるってのはスゲーありがたい環境だよな。
「いや、旦那。ちゃんと『pt借用書』を発行しましょッス」
しかし、ガルシアはそんなふうに俺を諫めるのだった。
「ん? タダでくれるって言うモノにわざわざpt負債を発行するなんて『損』なんじゃないか?」
長者には世話になっているので別にいいのだけれど、損得勘定にうるさいはずの商人らしくないと思って聞いたのである。
「別に損じゃねーッスよ。商人の世界に『タダより高いものはねー』ってことわざがあるの知ってるッスか?」
「知ってるけど、それが何?」
「こういう言葉もよくよく考えりゃ本質なんスよ。つまりあれはね、人間タダだと思って受け渡ししても『貸し』と『借り』の感じはお互いに記憶されるもんだってことなんッス。冒険者たちも言うでしょ? 『借りは返したぜ』って。あれだって別にほっときゃタダじゃないッスか。でも返すんでしょ? 借り」
「ま、まあな」
ここまではなんとなく言ってることも理解できたのだが……
「献上や物納ってのは、領主に対する領民の潜在的な『借り』を解消しようとする行為なんスよ。でも、pt借用書で決済すれば、お互いに『借り(徴税権)』と『借り(pt借用書)』が資産として残るでしょ。だから旦那の損にはならないし、pt借用書を『流通』させるためにも領民からタダでもらうのはやめて、ちゃんと借用書で『支払い』するべきなんスよ」
ここまで来ると俺にはちょっと難しくてよくわからんかった。
ヒヒーン!……
なにはともあれ、馬が用意できたので出発だ。
自分では馬に乗れない五十嵐さんは俺と一緒に黒王丸へ乗る。
ハッハッハッ♡ ……ウヒヒーン♡♡♡
黒王丸は五十嵐さんのことが大好きだからご機嫌な様子だ。
メイドのスイカはガルシアの馬に乗ってもらった。
リヴは昔っからおてんばで、馬にもよく乗ってたから大丈夫だろう。
ナオやチヨは乗馬未経験らしいが、運動能力も高いのでこの機会に乗れるようになってもらおうと思った。
パカラッ、パカラッ……
で、彼女らは思った以上に早く馬に慣れてしまったのだった。
武闘家娘のふんどしのお尻が馬の背を跳ねると、肉と肉の直にぶつかり合う感じがとても勇壮で格好イイ。
「うん、けっこういけそうだな」
こうして部隊のエース級二人が軽々と馬を乗りこなすのを見て俺は思った。
今度、前衛を『騎兵』で編成してみよう……って。
◇
3日後に帝都へ着く。
黒王丸で飛んでけばすぐに着けるのでまどろっこしいが、『みんなでゾロゾロ行って目立つ』というのが行列の主旨なので仕方ない。
馬を預けると、まず「帝都見物でもしよう」ということになる。
ガルシアが屋形船をチャーターすると、俺たちはおいしいお酒とすきやきを食べながら都の水路をめぐっていった。
まあ、もちろん未成年と五十嵐さんはオレンジジュースで乾杯させたけどね。
ちゃぷん……
それにしても、帝都の街は水上交通が発達していた。
庭に椿を植えるのが100年来の流行らしく、公の川路に面した民家の庭先からその紅白の花弁がまるで美女の首を刎ねたように『ぼとり……』と水面へ落ち、波紋を広げ広げしつつ小さな石垣の岸へ流れ着いては可憐な首塚を溜めている。
紅白と言えば帝国大学のボート部が紅白戦をしているのを女学生さんたちがキャーキャー言っているのが賑やかで、賑やかと言えば川沿いの料亭では幇間や女芸者があるいは陽気に、あるいは艶に舞っていて超パリピだった。
こうして見ると意外と愉快な都なんだなぁ。
「……右手に見えますタマネギ型の屋根が極東武道館です」
屋形船の先頭では五十嵐さんが『ガイドのおねえさん』をやってくれていた。
ムッとした顔の割には白い手袋なんかはめてけっこうノリノリである。
そんなこんなで帝都見物が終わるとホテルに泊まり、初日はのんびりしたものだった。
翌朝。
宮中から牛車が迎えに来て、我々遠雲一行は内裏へと向かう。
あいかわらず寝殿造りの荘厳さには圧倒されるが、
「うひょー! すげーッスね」
と、ガルシアのそんな感じにはホッとさせられた。
やっぱり一人で行くのと、みんなで行くのとでは気持ちの持ちようが違うのである。
「遠雲の領主エイガ殿でございますね。そろそろ議会が始まりますのでご案内いたします」
だが、さすがに議会そのものには領主本人しか出席できないそうだ。
「エイガ! 頑張んなね」
「行ってらっしゃいッス~」
控え処ではみんなキャッキャ♪とモノポリーをやってのんびり時間を潰している。
うーん、なんだかなぁ。
俺一人緊張してエライ人たちの中へ出て行かなきゃなんないのが、なんかスゲー理不尽だ。
まあ、俺が領主なんだからしょうがないって言えばしょうがないんだけどさ。
「こちらでございます」
さて、こうして案内されると、畳敷きの非常に絢爛な大広間が現れる。
ここが議場か……。
たくさん座布団があるな。
どこに座ればいいんだろ?
「おお、これはエイガ殿」
そんな時、奥賀のちょんまげ領主が声をかけてくれたのはスゲー助かった。
「ああ、どうも! ごぶさたです!」
「あれからのエイガ殿のご活躍もお聞き申しておりますぞ」
「いえいえ、本当に奥賀の船のおかげですから。ところでコレ、席とか決まってるんですか?」
「いや、気にせんでよいです。座布団は領地の数だけありますからな」
「なるほど」
「ただし、我々は極東の東地方の領地なので東側の席に座らねばなりませぬぞ」
「はあ」
よくわからなかったので、俺はそのまま奥賀の領主の隣に座った。





