【9章挿話A】 女忍者・西園寺華那子
あたくしはエイガどののお言いつけで、ゲーテブルク城下への隠密活動を行っておりました。
まずは船着き場でお友だちの記者アクアどのを見つけましたの。
エイガどののおっしゃるとおり、彼女は2人の男を追いかけておりましたわ。
オールバックにスーツの男と、銀髪の少年。
アクアどのは彼らと同じ宿を取り追跡取材を続けておりましたので、あたくしも時には忍者装束で屋根裏にひそみ、時には観光客を装ったりなどしつつ3人を見張っておりましたの。
そんなある日。
オールバックの取った宿に、彼の仲間『女勇者パーティ』が集まってまいりました。
総勢4名。
盗賊トルド、女勇者ソフィ、怪力ゴンザレス、客分の少年ユウリでございます。
で、彼らは部屋で密談を始めますが、記者のアクアどのは先にクローゼットの中へ隠れておりましたの。
熱意は買いますが、少しムチャすぎですわね。
サッ、ササッ……
あたくしはと申しますと、(忍者の定石どおり)天井裏からそんなみなさんを見下ろしておりましたのよ。オホホホホ。
「ウウウウ……」
さて、この唸り声は怪力ゴンザレスという大男のもの。
どうやら彼は、隠れているアクアどのの気配に気づいてしまったようです。
「ウウウ、匂う……美女の薫り」
「え?や、やだ!今さらなにを言うのよゴンザレス……。私なんて、そんな、ぜんぜんなんだから(照)」
自分のことと勘違いしてモジモジ赤面する女勇者を相手にせずに、大男はとうとうクローゼットのドアを開けてしまいました。
ガチャ……
そして、ひそんでいたアクアどのの腕を掴み、仲間たちの前へグイっと引っ張り出してしまいます。
「え……!?」
アクアどのは前のめった体勢で勢いよく部屋へ出て来てしまいましたわ。
予想外の乱入者に、場の空気が『!?』っと緊張いたします。
「ちょ、ちょっとアナタ! 誰よ!」
まずはリーダーの女勇者ソフィーがそう問い質しました。
まあ、見知らぬ女が部屋のクローゼットから出てきたら誰でもそう怒鳴るでしょうね。
「あ、はい。ええと……。私、こういうものです!」
しかし、アクアどのはそれで特に悪びれもせず、慣れた所作でサッと名刺を差し出します。
「記者? 雑誌『冒険王』の?」
「はい! 先ほど偶然ソフィーさんをお見かけして興奮しちゃって……。それでなんとかお話を伺えないかと思ってついて来ちゃいました!テヘ♪」
「ふん、それならちゃんと取材して欲しかったわね。こそこそ部屋へ忍びこんで盗み聞きしようだなんてフェアじゃないわ!」
もっともな意見でございますが、忍者のあたくしとしては耳の痛い言葉でもありますわね。
「すみません。でもけっきょくクローゼットの中ではよく話の内容が聞き取れなかったんです(泣)改めて取材させてほしいんですけど」
「……まだ言うの?」
女勇者ソフィーはクイっと首をかしげて目を見開きます。
「ふふっ。アナタなかなか根性あるわね。アタシそーゆうの嫌いじゃないわ」
「エヘヘ、恐縮です♪」
なんだかわかりませんがアクアどの、妙に気に入られたようですわね。
「でも、アタシたち今着いたばかりでちょっと疲れているの。取材ならまた今度応じるから、今日のところは出て行ってちょうだい」
「わかりました。じゃあ今日のところは失礼しまして」
こうしてアクアどのはまんまと部屋から出て行こうとしたのですが……
「待ちなさい」
と、その腕を引きとどめたのは盗賊トルドでしたわ。
手足の長いスーツ姿で紳士めかしておりますが、眉間に怒気が含まれております。
「ソフィー、彼女が本当に話の内容を聞いていないとでも思っているのですか?」
「あははっ、思っていないわよ」
「ではなぜ?」
「いいじゃない。私たちは正しいことをしようとしているのだもの。こういうのは何事もオープンにしていくべきだわ。本当に聞けてなかったならちゃんと取材に答えるつもりよ」
「しかし、我々が地獄へ行く前に『奇跡の五人』に作戦を知られてしまったら今後に支障をきたします」
「なにが?」
「私は……あの強豪ティアナ・ファン・レールから【レベル6防御魔法セントレイア】を盗まねばならないのです」
「ふんっ、なによそれくらい。アンタ盗賊でしょ? なんとかしなさいよ」
「むっ。なんです、その言い草は」
「なによ」
こうしてトルドとソフィーが言い合っているときです。
「ねえ、トルドさん」
銀髪の少年が二人の間に割って入りました。
「仲間どうしでケンカはよくないよ」
少年はそう言うと、ふいにその手へ死神の持つような鎌を具現化させました。
「ひっ!」
そしてそのギラつく鎌の刃はアクアどのの華奢な首元へヌッ……と運ばれていったのです。
「な、なにをするの……?」
「え? だって、二人ともこの女性のせいでケンカしてたんでしょ。じゃあ、彼女がいなくなっちゃえば仲直りできるよね?」
そう言って、少年は非常に愛らしくニッコリと笑いますの。
「っ……」
これにはトルドも顔をしかめます。
「ユウリさんは引っ込んでいてください。私が処置いたしますから」
「えー、そう?」
こうしてユウリは鎌を引き、トルドが内ポケットへ手を差し入れます。
「と……トルド! ダメよ!」
叫ぶ女勇者ソフィー。
それと同時に、スーツからはジャラリと手錠が出てまいりました。
「危害は加えません。しばらく監禁するだけですよ」
「……仕方ないわね」
「えー、そんなぁ」
アクアどのは落胆してヘナヘナと尻もちをついてしまいます。
ガチャガチャガチャ……
こうしてトルドはアクアどのの右手首へ手錠をかけると、もう片方を鉄柱へかけて逃れられないようにしてしまいましたわ。
手錠の鍵はお財布へと入れられ、内ポケットへと厳重にしまわれる。
「ほら、おとなしくしていなさい」
そして、白布を取り出すと彼女の可愛らしいお口をギュッと縛ってしまいました。
「んー!」
「トルド、可哀想よ。せめて口のだけでも外してあげて?」
「我々が外出する時だけです。留守中に大きな声を出されては困りますからね」
「んー!んー!……」
あら? どうやら彼ら、アクアどのを縛りあげたまま出かけてしまうようですわね。
「ほら、ユウリさん。食事へ行きますよ」
「ちぇっ、こんなの殺っちゃった方が簡単なのになぁ」
銀髪の少年は唇を尖らせますが、部屋から出ていくトルドたちの後ろへトテテテテっと着いていきました。
さて。
それにしても彼らの誤算は、屋根裏にこのあたくしが控えていたことですわね。
あたくしは4人が出ていったところを見計らって天井裏から部屋へ飛び降りましたの。
シュタ……
「ん!?……んー!んー!」
その瞬間、猿ぐつわをされたアクアどのは覆面忍装束のあたくしを見ておののきます。
まあ、確かに。
急に覆面の女忍者が天井から降ってきたら誰でも怖がりますわよね。
「しっ、お静かに。あたくしはエイガどのの配下でございます」
そう申し上げながら猿ぐつわを取って差し上げると、
「ぷはっ……エイガさんの?」
と目を輝かせます。
この娘、本当にエイガどのを大好きなのでございますね。
「ええ、助太刀にまいったのですわ」
「ありがとう!」
「今外してさしあげますからね」
そう言って手錠を壊そうと試みるのですが、
ガチャガチャガチャ……
これがいっこうに壊れませんの(汗)
ヤスリ、工具、火薬……携帯していた様々な道具を使うのですが、ビクともいたしません。
よほど特殊な合金で作られているのでしょうか。
モタモタしていると女勇者パーティが帰ってきてしまいますわ。
「お、女忍者さん。私のことは置いてもう行ってください」
「そうはまいりませんわ……」
彼女のこと、エイガどのに頼まれているのです。
みすみすアクアどのを捕らえられたままでは、エイガどのに我々『忍の一族』を信用していただくことができませんわ。
「私のことなんかより、お願いがあるんですけど聞いてくれませんか」
「お願い?」
「はい。あの女勇者パーティは【地獄】へ進出するための門を開こうとしているんです」
「それはあたくしも天井裏で聞いておりましたわ」
そう言えば。
エイガどのとクエストをこなしている時も、倒した魔物たちは光の玉となって飛んでいってしまいました。
あの光の玉はどこへ行ってしまうのかしら……と疑問だったのですが、彼らの話が正しければ【地獄】へと還っているのですわね。
だから魔物たちは年月がたつとまた地獄の闇から復活してきてしまう。
そして、女勇者パーティはそんな魔物たちが二度と復活できないように地獄からして闇を根絶しようと考えているらしいのでしたわ。
「私の意見としては、人間が地獄の闇まで光で照らそうだなんてちょっと怖い気がするんですけど……」
「気に入らないんですの?」
「いいえ。そーゆう大きな話は私がとやかく言えることじゃないとも思うんです。冒険に携わる人にもいろんな考えがありますし、私はイチ記者ですから情報をみなさんへお伝えするのが仕事ですし」
「ならば放っておけばよろしゅうございましょう」
「ええ。けれど……」
アクアどのは少し考えるふうに目をそらすと、パっとこちらを見上げておっしゃいました。
「あの人たち、自分たちの正義のためならクロスさんたち『奇跡の五人』のクエストを邪魔してもイイって前提で動いているのが気にいらないんです」
「……はぁ?」
奇跡の5人。
たしかエイガどのの古巣でございました。
「だからせめて彼らのこと、クロスさんたちへ伝えてほしいんです」
どうやら、彼女は取材対象に思い入れが強くなってしまうタイプの記者らしいですわね。
あたくしはため息をつきます。
「申し訳ございませんが、あたくしも正義の味方で忍者をやっているワケではございませんのよ?」
「でも、エイガさんの味方ではあるんでしょ?クロスさんたちは、エイガさんにとってかけがえのない人たちなんです」
「……」
「それに盗賊トルドは、エイガさんの『顔』を盗んでいるんですよ!」
「顔を!?」
そんな時。
ざわざわ、ざわ……
ドアの向こうから声が聞こえてきました。
どうやら女勇者ご一行が食事から帰ってきたようですわ。
「ねえ。お願いします。女忍者さん!」
「しっ、お静かに……」
あたくしは猿ぐつわを元に戻しながらこう申し上げましたわ。
「とにかくアクアどの、あなたは必ずお助けにまいります故、一旦撤退致しますわ。では、ごめんあそばせ」
「んーんんーんんー……!」
シュタッ……!
こうしてあたくしは、ひとたび部屋からの離脱を余儀なくされましたの。
◇
さて、アクアどのをお助けするためにはトルドからあの手錠の【鍵】を奪わなければならないようです。
でも、あたくしの力では女勇者パーティの面々と戦うことなんてできませんわ。
つまり、盗賊トルドから鍵を盗まなければならないということになります。
とは言え、これも至難のことですわ。
盗みのプロから盗みを働かなければならないのですから。
そこで、先ほど女勇者パーティ4人のしていた話を整理して作戦を考えることに致しました。
1 女勇者パーティは【地獄】へ進出しようと考えている。
2 地獄への門を開くために、魔王アニムスの『地獄への撤退』の瞬間を狙っている。
3 地獄門をくぐるのに、『奇跡の五人』のメンバーの能力が必要。
4 トルドはその能力を盗もうとしている。
つまり……
トルドはいずれは奇跡の五人のところへ能力を盗みにやってくるはずということになりますわね。
人が何かを盗む時……そこにはスキが生じるもの。
盗もう盗もうという意識でおりますと、自分が盗まれることについて想定しないからでございます。
そこであたくしは、まもなく奇跡の五人がいらっしゃるという【ゲーテブルク城】へ潜入することにいたしましたの。
どうやって、ですって?
オホホホホッ。
城への潜入は、忍者にはお手のものですのよ。
「これでよし、ですわね」
あたくしは鏡の前でそうつぶやきます。
覆面を取り、忍者装束を脱ぎ、メイド服に身をつつんだあたくしの姿。
挨拶の練習で笑顔を作りますと、目元のホクロが我ながら魅力的ですわね♪
そう。
ゲーテブルク城には奉公人がたくさんいらっしゃいます。
その中にまぎれてメイドの一人になりすます……というわけですの。
あたかもずっとここで奉公申し上げてきたメイドであるかのごとく存在する。
大きな組織の中ではこのような忍術も可能になりますのよ。
「よくぞいらっしゃいました勇者さま!」
さて、やがて日がたつと『奇跡の五人』がゲーテブルク城にいらして、門の兵たちがこれをお出むかえ致しました。
ザッザッザ……
さすがエイガどののかつての仲間たち。
とても雰囲気のある方々ですわね。
先頭の勇者らしきお方のカリスマ感。
ミニスカートにショートヘアーの少女の迸る天才感。
どなたもなにかしらに特化しているオーラがございます。
「なんだかオバケでも出てきそうなお城ですねー」
まあ、メンバーの一人にはそんな軽口ばかりおっしゃる方もおりましたが、その横の銀髪の剣士は忍者のあたくしから見てもスキのない足運びをされるお方でしたわ。
「……」
ちなみにメイド長は買収済みでして、あたくしはそんな彼らの案内役をおおせつかりましたのよ。
「こちらですわ」
あたくしは彼ら『奇跡の五人』をそれぞれ客室へ案内いたします。
「みなさまお着替えがすみましたら、王間へご案内いたしますわ」
このようにして、あたくしはしばらく勇者パーティ5名の身の回りのお世話申し上げることになりましたの。
ただし……
アクアどのに頼まれた件につきましては、やはり考えものですわね。
たとえば、あたくしが彼ら勇者パーティに女勇者パーティの計画を暴露したとする。
さすれば当然、彼らは警戒するでしょう。
それでトルドがやって来なければ、手錠の鍵を盗むことができなくなってしまいますわ。
言い方は悪いですが、彼ら勇者パーティには囮になってもらいたいところ。
というわけで、
『盗賊トルドがあの赤い眼鏡の方の魔法を盗もうとしていること』
それは黙っておくことに致しましたの。





