第7話 村人
「モンスターに気をつけろよー」
ばあさんと別れ、俺とガルシアは山を南へ降っていった。
「そうだガルシア。回船って、今度いつ来るかわかるか?」
そう聞くと、ガルシアは片手でメモ帳をぱらぱらとやる。
「上りの船は明後日ッスね。でも、また船に乗るんスか?この領地を育成するんじゃなかったんで?」
「正式にここの領主になるには帝都へ行かなきゃならないんだよ。この領地の証書を名義書き換えしなきゃだし」
「なるほどッス。じゃあ明後日までどーするっス?」
「とりあえずこのまま南へ降りてみようぜ。ちゃんと人がいるってわかったんだしな。ただ、今回は観光客って体でいこう」
ザッザッザ……
さて、行き行きて山道を降りてみると、その麓に『村』らしきものを見つけた。
規模的に小さいので、最大の1200人の村ではなさそうだけど、すでに陽は沈みかけている。
この村に泊めてもらえるとありがたいな。
「どースかねー。田舎の人はよそ者への警戒心が強いスから」
とガルシアは心配したが、それは杞憂に終わることとなる。
と言うより、この村に関してはむしろ逆を心配するべきだったのだ。
「すいませーん。ちょっといいですか?」
「わっ!なんだオメー」
村人のひとりが大声を出すと、家屋からどんどん人が出てくる。
「おお!ヨソもんだ。どっから来た?」
「歳いくつだ?」
「コレ食え」
「嫁おるんか?」
敵意はないようだけど、若い男女が多く、すごい勢いでいっぺんに話しかけてくるのだ。
日焼けした肌に、珍しいもの好きそうな目がたくさんギョロギョロしている。
「えっと……俺ら、観光で来たんですけど。泊めてもらえるとありがたいなーって」
そんなふうに伝えると、なおさらだ。
「だったらオラんちに泊まれ!」
「アタイんちがイイに決まってるよ!」
「いや、オラんちだ!!」
すげー勢いで詰めよってくる村の若者たち。
うっ……。
日々の労働で引き締まった肉体から、ムワっと汗の香りが薫ってくる。
「オメーら、いいかげんにしろ。お客さん、困ってるでねーが」
「長!」
しかし、彼らよりは貫禄のある黒ヒゲの男が出てくると、なんとか騒ぎは収まった。
「そういうわげで、お客さんはオラんちで泊めるでよ」
「えー、けっきょくかぁ」
「長。ズルいがー」
「そーだそーだ」
そういって不満げに唸る若者たち。
つーか、コイツら。なんでそんな自分ちに泊めたいんだよ。
ブーブー!……ぴーぴー!
「うるせ。散れ!」
と長が怒鳴っても若者たちはなかなか離れなかった。
◇
「おじゃましまーす」
長の家は意外と清潔で、寝るのに不快さはなさそうだ。
その上、飯と酒すら振る舞ってくれたのである。
奥さんがけっこう可愛くて、作る飯もうまくて羨ましい。
俺は酒を飲みつつ長に尋ねた。
「なあ、この村はなんの産業で食ってんだ?」
「ぁあ!?」
いかん。単語が抽象的すぎたな。
「えっと……みんな何のしごとしてんの?」
「ああ、オラたち。木切っとる。木こりだ」
「なるほど。だからみんな、あんなに逞しいんだな」
「!!……そう思うが?ははははっ!」
さて、長の話をまとめると、この村は『木村』という名で人口150人ほど。
おもに材木を生業にしている村らしい。
長は最初「木こり」と言ったけれど、よくよく話を聞いてみると、それはただ木を切るだけではなく、『遠雲』一帯の『材木に関すること』全般を行っているようだった。
山で木を切り、製材したりするのはもちろん、需要量を見積もったり、方々への運搬、加工、足場事業なども行っているとのこと。
「儲かってんの?」
と聞くと、長は黒ヒゲをニンマリさせた。
特に、『ギドラの大蛇』が遠雲を襲ったあとは、材木の需要が増え、すこぶる景気はよいのだそうだ。
まあ、それはちょっと皮肉な話ではあるけどな。