表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/180

第69話 婚約指輪


 次の日。


 俺は風呂から出ると、いつもよりちょっと正式フォーマルめなジャケットに身を包み、薔薇の香水を少し振りかける。


「わぁ!ご主人さま素敵です♡」


「がんばってくださいね!」


「ファイトですよ!」


 こうしてメイドたちにちょっと恥ずかしい感じではげまされつつ出かける準備を手伝ってもらっていると、ふと、背中に女らしい肉体の前面側の起伏がムムッとくっついて来ているのを感じて『あ、五十嵐さんだな』と思った。


「五十嵐さん、準備できたの?」


「……はい」


 俺が振り向くと、彼女は鋭い目をせうつむくので、高い位置のポニーテールが百合ユリの花のように揺れる。


「……すみません」


「あ? なんであやまんの?」


「いえ……罰ゲームとは言え、わざわざ婚約者になっていただいて」


「……はぁ。罰ゲームじゃねえって言っただろ」


 俺はため息をつくと、女秘書の肩をポンっと叩いて言った。


「ただ、俺がそうしたいってだけさ」


「……エイガさま」



 そういえば。


 ptで罰ゲームを命じられる遊びのルールは、俺の領主権限で廃止した。


 俺の()()が次々とptで発行チャージされるのに、いつでも領主への罰ゲームと兌換だかんできるんじゃあ、いくら罰ゲーム耐性があってもこっちの身が持たないからな。


 その代わり、罰ゲームとか関係なく、五十嵐さんのたのみは普通に応えることにしたのである。


 仲間として、困った時は助けてあげなきゃだしね。


「じゃあ、ご実家へ挨拶に行こうか」


「……はい」


 そう言って2人でやかたを出て行こうとしたとき。


「あ、旦那だんな。ちょっと待つッス」


 ガルシアが宝箱を持ってトトトっとやって来る。


 なんだ?


 パカ……


 宝箱が開くと、まるで海賊の財宝のように貴金属がぎっしり詰まっていた。


「なにこれ?」


「婚約指輪、必要でしょ?お値段べんきょーしとくッスよ」


 とエクボを浮かべて笑う商人。


「大げさな。そんなんいらねーって」


「ダメッスよー、おふたり婚約者なんスから♪」


「婚約者の()()、だろーがッ」


 そう。


 俺はこれから五十嵐さんの婚約者のフリをして、彼女のご実家へ挨拶へうかがうのだった。


 ずいぶんひどい嘘をつくものだと思われるかもしれないが、これには相応そうおうの事情がある。



 まず、五十嵐さんのご実家は、五十嵐さんがいつまでも結婚しないで仕事ばかりしているのをこころよく思っていない。


 いや、実家というより、お母さんがたいへん心配している様子なのは、先日かいま見た通りなのだそうだ。


 一方。


 当の五十嵐さんはそんな母親からの『早く結婚しろ圧力』が苦手で、それで実家をけていたのである。


(五十嵐さんもせっかく【お嫁さん】職性の持ち主なのにもったいないなーとは思うけど、まあ世の中そんなもんだよね)


 で、そんな情勢の折。


 くだんの母がとうとう「今度こそは」と娘のお見合いを決めて来てしまったというのだ。


 相手は磯村いそむらの有力者。


 つまり、もうよほどのことがない限り(しゅく)(しゅく)と縁談を進めていかないと両家の面目を潰してしまうという状況。


 家のことなんてカンケーないと跳ねっ返ることもできようが、しかし、もしそれで2大村の有力家どおしがギクシャクすれば領地全体のマイナスにもなる。


 意外とぃっ使いな五十嵐さんからすれば、みんなへそんな迷惑をかけてまで縁談破棄を通すなんてできはしない。


 このままだと彼女は気乗りのしない結婚をせざるをえなくなってしまうだろう……。


 ので。


 その()()()()()()をしつらえる必要があるわけだ。



「ねえねえ旦那だんな。婚約指輪買ってあげましょうよー」


 というわけで領主である俺が『五十嵐さんの婚約者』を演じることとなったのだが……それをいいことにガルシアは高額な指輪を売り付けようとしてくるワケである。


 やれやれ。


 コイツ、ほんと筋金すじがね入りの商人だな。


「そうじゃねーッスよ。何事も形からというでしょう?こういうことの積み重ねから本当の愛が生まれるんスからね」


 マジで、商人の口にする『愛』ほどいかがわしいもんはねーわな。


 ……でもまあ、しかし。


 婚約指輪があった方が『婚約者のフリ』にしてもリアリティはあるかもしんないとは思った。


「五十嵐さん、指輪のサイズは?」


「……8号です」


「そう……か」


「なにか?」


「えっ? いや……」


 8号サイズの婚約指輪なら、ティアナへ渡すはずだったものをひとつ持っている。


 再び勇者パーティの戦闘についていけるようになったら渡そうと思っていたピンク・ゴールドの美しい指輪。


 あの指輪もこのまま『もちもの』の底に残されているよりは、こんな機会に使ってやった方が浮かばれるのかも……


 と、瞬間そんなふうに脳裏をよぎったが。


「チッ、しょーがねえな」


「へ?なにがッス?」


「ガルシア、お前にも世話になってるし。指輪のひとつやふたつ気前よく買ってやんよ!」


「おお!さすが旦那だんなッス!」


 ニコニコ顔のガルシア。


 俺はヤツの宝箱から五十嵐さんに似合いそうな指輪を探してみる。


「うーん……これか、な」


 しばらく迷って、プラチナのリングをひとつ選んで買った。


 ちなみにガルシアから買うと言っても遠雲で生産されたものではないからptは通用しない。


 小切手だが、(しめ)て100万ボンドである。



 キラーン☆



「……じゃあ五十嵐さん。手、だして」


 俺はそう言って、女秘書の神経質そうな白い手をそっと取る。


 そして、その無防備な薬指へ婚約指輪をツツーっとめてやると、


「ぁ…………」


 と、女は小さく息をらし、あのキュっと尖った唇をかすかに揺らした。


「ふふっ、じゃあいってらっしゃい。……応援してるッスよ」


 ガルシアはやさしい眼差まなざしを向けてそう言う。


「……」


 一方、少しったキツい目は薬指の銀飾をジッとにらんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ