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第63話 片翼の塔


 片翼の塔はA級クエスト区域である。


 俺たちはまだB級ライセンスなので、ギルドから立ち入りの許可が出ない。



 だから……


『じゃあ俺1人でナイショで侵入はいっちゃおう』


 と、もくろんでいたのだった。



 まあ、ギルドにナイショでモンスターを倒してもランク的には評価されないけれど、今の目的は【融合石】の入手なのである。


 ギルドから受けた鬼ヶ島クエストはナオの部隊が頑張ってくれるのだし……


 その間、俺は俺でやれることをやるまでだ。


「……と、いうわけで行ってくるよ」


 俺の肩でやっと『ほよ?』っと目を覚まし、めずらしく頬を赤くする五十嵐さんにそう説明を施すと、俺はソファから立ち上がった。


「あ!ご主人さま」


「おでかけですか?」


 すると、さっきはキャーキャー言っていたメイド3人娘がとたんにキビキビと動き出す。


 バタバタバタ……サッサッ


 上着、埃払ほこりばらい、くし、香水などを持ち出し、出がけの主人(俺)へせっせと奉公ほうこうするメイドたち。 


「「「いってらっしゃいませご主人さま!!」」」


 !?


 俺が玄関で靴を代えると、3人ともひらひらな白いエプロンの膝元へ綺麗に指先をそろえ、ペコリ、ペコリと正しいお辞儀を並べた。


 おお……彼女らキャピキャピしてはいるけれど、メイドとしての仕事はちゃんとやれるって感じだ。


 村でも元気な働き者だったのだろう。


「……」


 それに【女神の瞳】で見ると3人ともなかなか良い職性を持ってる。


 聞けばそのメイド服も自分たちでったのだと言うし、この線も育成してみたら面白いかもな。


「じゃあ、留守は頼んだぜ」


 そう残すと、俺はやかたを出て行った。



 ◇



「ちょいと! それ……大丈夫なのかい?」


 で、出発前、装備を整えに鍛冶工房へ行ったのだけれど、その主リヴはそんなふうに眉根をよせた。


「いくらアンタでも、あの片翼の塔へ1人で行こうなんて無茶だよ……」


 そう。


 確かに片翼の塔は、俺でも相当キビシい場所であった。


 なにせ世界有数の『A級クエスト区域』なのだ。


 出現するモンスターはすべて上級。


 ここが軽くこなせるようなら、そもそも勇者パーティを解雇になんか、なっていないのである。


「チッ……お前が心配するようなことじゃねーよ」


 俺はちょっとイラ立って、思わず突き放すように返してしまう。


「ふん、そうかい」


 すると、タンクトップの乳はぷりぷり怒ってそっぽを向いてしまった。


 しまった……。


 心配してくれたのに、この言い方はなかったな。


 そう後悔するが、それでもこの女鍛冶は現状できうる最高の装備をそろえてくれた。



 カチャ、カチャ、カチャ……



 不機嫌でも仕事はちゃんとやるってことか。


 さすがに俺より2つ年上なだけあって大人だ。


「……仕方ないんだよ」


 決まりの悪くなった俺は、リヴの整えてくれた装備をまといながらポツリ言い訳する。



 と言うのは……


 この先、順調にA級ライセンスを獲得しても、今のままでは領民部隊でA級クエスト区域を攻略することはできないだろう。


 中級と上級の壁は、やはり高いのである。


 で、その壁を越える有力な手段は、魔法融合を駆使すること。


 しかし、その魔法融合に必要な【融合石】を手に入れるのに、A級の【片翼の塔】に出現するゴーレムを倒さなければならない……というジレンマ状態があるのだった。


 これを覆すには、俺が先に行って融合石を獲得する『最短ルート』と『攻略法』を探り当てておかなければならない。


 多少危険でも、だ。



「エイガ……」


 装備が終わると、リヴは格好のいいデニムの腰に手を当て『ふう』とため息をついた。


「アタシはね、今もあんたのこと……領主の前に友達だと思ってるんだよ」


「うっ……なんだよいきなり」


 俺は好きな友達から『友達』と言ってもらえて顔がニコぉ☆っとしてしまうのをゴマカすために、眉間へシワを寄せてにらむふうにした。


「うふふっ。アタシゃ、あんたがクロスと2人パーティだった時からの仲だしね。あんたの()()に出た時の強さがハンパないことも知ってる」


 リヴは遠い目をして長い髪をバサっとかきあげた。


「だから……信じることにするよ。必ず無事に帰ってくるってね!」


 リヴ……。


「頑張んな!融合石を持ってきてくれりゃあアタシがたぁんと強い武器作ってあげるからさ」


 そう言って、女鍛冶は俺の背中をバシっと叩いた。




 ◇




 馬で海を渡るのは、俺も初めての経験だった。


 ヒヒーン!!


 黒王丸にまたがった俺は、遠雲とくもの地を飛び立ち、極東を離れ、南西の海をぐんぐん飛んでゆく。


 水平線で雲と交差する汽船。


 遠く下方の水面へポツリと落ちる馬影。


 八方から乱反射する陽の光は、瞳を痛めそうなくらい強烈だった。



 キーーーーン!!



 馬の高速音。


 目当ての陸が見えてくる。


 俺は少しホッとした。


 海の真ん中で落馬したら一貫の終わりだしな。



 で、それから途中で一泊して馬を休ませると、次の日も空を行った。


 異国の森や川、町、村、畑が眼下に過ぎ去ってゆく。


 地上の小さな人々はみな幸せそうで、こうして見ると自分が巨人にでもなったかのようにさえ錯覚された。


「あれか……」


 目的地だ。


 荒地の真ん中に、そびえる巨大な塔。


 片翼の塔である。


 人間の力ではとても建造できそうもない高さのそれは、60階だてとも100階だてとも言われていて……しかも斜めに傾いているからおそろしい。


「黒王丸。よく頑張ったな」


 俺は黒い馬の、絶世の美女にも劣らぬたてがみを撫でながら、空中でちょっと考えた。


 ざわ、ざわ……


 様子をうかがうと、塔の正門前にはやはりギルドの出張所が設置されている。


 雰囲気のある冒険者が幾人もおり、職員も目を光らせていた。


 まあ、自分のライセンスのクラスより上のクエスト区域へ侵入するのは、いわゆるグレーゾーンってヤツで、見つかっても罰則はないんだけどな。


 とは言え見つかれば排除はされるので、堂々と正規ルートで入るわけにもいかない。


 そこで俺はこの斜塔の30階ぐらいに位置するところまで高度を上げると、適当なバルコニーへ馬のひづめを降ろした。


「お前はここで待ってろ」


 ヒヒーン……


 こうして高層階のバルコニーに馬を待たせると、耽美な石のアーチをくぐり塔の内部へと足を踏み入れたのだった。


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