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第60話 水路


 帰還して半月ほど後。


 領地の山中で。


「はあああぁぁぁぁぁぁ …………」


 武闘家娘のチヨがぷりっとした中腰で打撃の力を溜めている。


 ふんどしにふちどられた力強いお尻。


 目の前には巨大な岩石に、たき水飛沫みずしぶきをあげていた。


「やあ!」


 その時、かけ声とともに娘のこぶしが岩肌へ向かって襲いかかる。


「やあ!やあ!やあ!やー……たあ!!」


 連打、連打、連打。


 先の遠征で戦闘力12,000にまで達した武闘家の一拳一拳は、黄金の強オーラをまとって物理力を累乗する。


 やがて強大だった岩石もひび割れ始め……とうとう音を立てて崩壊した。



 ピキ……ピキピキ……ボゴーン!!


 どババババババババ……



 すると、岩の抜けたぶん、滝の流れが分岐してこちらへも噴き出してくる。


「おお!やった!!」


みぞに水がいぐべ!」


「ばんざーい!」


 この現場にいた16名の部隊は歓喜の声を上げた……。




 さて、俺たちが今なにをしているのかと言うと……


 これは木材運送用の水路を作るために水源を引いて来ようとしていたのである。


 この滝は、『木村』から一番近い水源ポイントのひとつだ。


 だから俺たちは、滝から木村への山道にみぞを掘って水の通り道を作っていたのだけど、滝まわりはゴツゴツした岩場だったから、最後には岩石を破壊して水の分岐を変え、なんとかみぞへ誘導したというワケである。


「やっ……きゃっ! うふふふっ」


 こうして自らのこぶしで華やかにラストを飾ったチヨだったが、そのせいで噴き出す水を喰らってびしょびしょになってしまたようだ。


 笑いながら戻ってくるけど、この寒空での強制水浴びにはさすがの年中ねんじゅうふんどし娘もこたえたんじゃないか?


 ぽた……ぽた……



「おい、だいじょうぶかよ」


「全然へーき!ほら!」


「ん?」


 だいじょうぶなのか?


 そう思って油断した時、チヨはその手の平を俺の服の中へスッと差し入れ生の背中へピタっと張り付けてきた。


 ゾクゾク!!……


「冷てっ!」


「うふふふっ。ね?領主さま、ほら♪」


 チヨは身体からだがすごく冷たくなったのを自慢したいらしく、さらにぴたぴた抱きついてくる。


「う……」


 首根っこに巻き付いてくる娘のかいなは氷のようで、薄衣うすごろもに肌のくような乳房はムにゅっとしながらも俺の胸をヒタヒタと冷たく濡らした。


「お、おい!誰かき火を……」


 本人はふざけているが、これはちょっと尋常でないくらい冷えている。


 ガタガタガタガタ……


 俺はマジで心配になり、体温を分け与えるようにチヨを抱きしめ、背中をさすり、肩を間断なくゆすってやりつつ、部隊の者がき火を起こすのを見ると、あわてて白ふんどしをつかんでそちらへ放り出してやった。



 ボウッ!!……パチパチパチッ!



「はー、あったかい……」


 ほっと息を吐くチヨ。


「最後離脱できなかったのは可哀想だったな」


「へーきだって。ウチ、じょうぶだけは取り柄なんだ」


 チヨはそう笑って土にあぐらをかくと、別に恥ずかしくもないというふうに水びたしのひとえを肌からペロンと剥がし、その乳房を炎へ向かって突き出した。


 ねじり鉢巻はちまきに濡れた黒髪は長くはないがりんとして女らしく、った裸の背中に肌色の筋骨のうごめく無自覚な肉体美には、山の土草に似たおおらかな神秘性があった。


「ほら、これ」


 と、俺は上着を脱いで女の裸へかけてやる。


「でも、ウチ……」


「着とけって。それ、あったかいだろ」


「……領主さま♡」


 俺は胸ポケットから紙巻きタバコを取り出すが、それはチヨの胸でびちょびちょに濡らされていたので、しかたなく一本だけまみき火へかざして乾かし始める。


 生乾きのタバコへ無理やり火をつけてもすぐに消えてしまうのを、チヨの若々しい瞳がジッと見つめていた。



 シュボ!!


 ふー……やれやれ。


 で、やっと火種のついたその時。



『こちらY地点。計画どおり誘水が完了』


『Z地点も。計画どおり』


 通信魔法【トランシーバー】が入る。


 他の地点の支援系魔導師からの通信だ。



 そう。


 俺たちが誘水作業していたのはX地点。


 これと同じことが、他のY地点とZ地点でも行われていたのだ。


 それぞれ、帰還組の部隊17名ずつが配置され、築いたみぞへ水を引いているはずである。


 そして、この3地点から誘導された山水は、中腹の一ヶ所に築いた『溜め池』へ貯水される計画だった。


『X地点も計画どおりだ。貯水地点で合流しよう』


 俺もトランシーバーでそう通信すると、立ち上がった。



 ◇



 山肌に作成したみぞは、実際、服を脱いだ美女の背中のように見える。


 ザッザッザ……


 部隊を率い、その水の道をたどって山を進むと、照葉樹から常緑針葉樹のテリトリーへと移ってゆく。


 つまり、林業を生業なりわいとする『木村』が人工的に植林している区域へ入るのである。


 貯水用の『溜め池』はまさにこの区域の中腹に作ってあった。


 じょばばばばばばば……(×3)


 部隊が50名合流する頃、3地点から誘導してきた山水がすでに『溜め池』へそそがれ始めている。


 その底にはすでにかすかな水鏡が生じ、空とみどりの青を牧歌的に映じていた。


 よし。


 あとはここから大川の方へ向かってみぞを掘れば、材木を輸送する水路が完成するはずだ。




 ……ところで、こんなややこしいことをしているのは、『木村』と『中村』ではかなりの土地の高低差があるせいだった。


 平らな土地であれば、みぞを掘って水を溜めれば水運路は完成されるが、高低差のある水路は水を溜めておけないから、供給する必要がある。


 それで、この『溜め池』から調節して放流できるシステムを作ろうとしているワケ。



 このように高低差の問題は水路作りをマジで難しくしたが……でも悪いことばかりじゃない。


 と言うのも、『溜め池』に標高があるということは、それは位置エネルギーを持っているということだからだ。


 位置エネルギーを持った水があれば『水車』を回すことができるはずである。


 水車が回れば魔力エネルギーを起こせる。


 生活に使っても、産業に使ってもよい。



「領主さま。はじめるべ」


「あ?ああ、そうだな」


 そういうワケで仕事量は多く、この工事はまだ途中なのだが……


 でも、問題はない。


 すぐに終わるだろう。



 ビシュン!……バキバキバキ!


 ちゅどーん!!……


 ……ぼうっ!


 ガッ、ガッ、ガッ!!



 剣が木をまっぷたつに斬り、爆発魔法が土を掘り下げ、火炎魔法が草をぐ。


 ……そう。


 冒険でモンスターを倒すほどのパワーがあるのなら、それを土木工事で使えばものすごい物理力になるに決まっているのだ。


 しかも、それが50人もいるのだから。



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