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第57話 工房


 領地遠雲(とくも)の港に船が着き、荷を下ろしたりなどしてから、俺は『帰還組』の部隊50名へ向かって言った。


「じゃあ一旦ここで解散しよう。今日はみんな自分の村に帰ってゆっくり休んできていいぜ」


 ワッ!!……


 これにはみんな手をあげて喜ぶ。


 部隊の連中は遠征を通してずいぶんと好戦的になっていたから、この帰還組の50名もハーフェン・フェルトでは「帰りたくない」と駄々をこねる者も多かったくらいなのに、いざ帰ってみるとやはり自分の村が恋しくなるらしい。


「山本さんと一太郎君は泊まるとこないだろ?よかったらウチにおいでよ」


「エイガ殿。おいは……」


 そう言う大工職性の山本ゴン吉さんは『木村』の友達んちに泊まるんだってさ。


 あのあたり工兵、輸送部隊は連携を通してけっこう仲良くなってるもんな。


 奥賀おうが出向組がウチの領民部隊と仲良くなるのは、領主としても好ましいことだ。


「うん、わかった。木村のおさによろしく伝えておいてよ」


「おお!かたじけないでごわす」


 それから田中一太郎くんに至っては、いつのまにか部隊の攻撃系魔法使いの女の子に惚れられていたらしく、半ば強引に腕を引かれている。


 彼女は確か中村の娘だったかな。


「あっ、親方おかみさん……」


 まあ、一太郎くん自身はリヴのおっぱいの前を離れたくない様子だったが、優柔不断な彼には自分を「好き」と言ってくれる女の子の手を払うことなどできそうもなく、けっきょく魔法使いの彼女の家に泊まるハメになりそうだ。


「やれやれ。なんだかエッチだねえ」


 そうつぶやき、ため息をつくリヴ。


 まあ、田舎の人は結婚も早いしな。



 あとは五十嵐さんだけど……


「五十嵐さんも今日くらい実家に帰れば?」


「いえ……」


 五十嵐さんはそう言ってブルンブルン首を振った。


 うーん。


 前々から思っていたけど、五十嵐さんはなにかといって実家に帰りたがらないんだよなあ。


「……じゃあ、まぁ普通に帰ろっか」


「はい」


 そういうわけで、俺は他に帰る場所のないガルシアやリヴ、そして五十嵐さんを連れて一緒にやかたへと帰ったのだった。



 ◇



「ただいまーっス」


 やかたに着くとガルシアが陽気な声を上げるが、留守にしていたやかたから返って来たのはシーンっとした静寂以外にない。


 そこで荷物をしまったり、リヴに部屋を与えてやったりしているうちに気づいたのは、一ヶ月以上留守にしていた家屋かおくの圧倒的なほこりっぽさであった。


「ケホケホ……。あんたら、すごいところに住んでいるんだねえ」


 そのほこりむせびまくるリヴ。


 まあ、一応新築なんだけどな。


「エイガの旦那ぁ。やっぱりメイドでも雇った方がいいッスよ」


「メイドかあ……」


「領民の中にメイド職性の女の子はいないんスか?」


「いないことはないけど……メイドの場合ちょっとなぁ」



 ――そう。


 あれは俺がまだ勇者パーティにいたころの話。


 クエストのついでに、ある貴族の家で『メイドを雇いたいから才能のある者を見極めてほしい』と頼まれたことがあった。


 育成スキル【女神の瞳】の噂を聞いてのことであろう。


 それで彼の領地からメイド職性の女の子を2、3人選んでやったのだが……


 その彼女らが、皿は割るわ、塩と砂糖を間違えるわで散々だったと言う。


「どーいうことッスか?」


「おそらく【女神の瞳】の判断基準に『メイドとはドジであるべき』って視点が盛り込まれてたんじゃねーかな」


「なんだい、その思い込みは?」


「マジでな」


 女神の瞳は、身体能力や魔法、技術といった特定の才能の見極めにはかなり正確な判定を行うのだけど、とりわけ営業やサービス業など人間関係を中心にした職についての判定はだいぶまぎれが多い。


 と言うか、結構思い込みの激しいところがあるから注意が必要なのだ。



「じゃあ普通に面接でもしてみたらどーッス?」


「そんなことやってるヒマはねーだろ。ねえ、五十嵐さん」


「ぇ……?」


 そう声が漏れるのでふと振り返ってみると、女秘書の膝の前に広げたのぼりに、


冥土メイド求ム≫


 と、筆が踊るところであった。


「五十嵐さん……」


「はい?」


「いや……なんでもない」


 五十嵐さん……メイド好きなのか?




 ◇




 そういうワケで、俺たちが領地へ帰ってきてまず最初に開始した事業はメイドの募集だった。


 やかたの前にはのぼりが幾本も乱立し、青空の下バタバタはためくこととなる。


冥土メイド求ム≫

冥土メイド求ム≫

冥土メイド求ム≫


 どれだけメイド求めてんだよ。


「たくさん応募があるといいっスね!」


 ガルシアもニコニコしてそう言うが、しかし、俺はそんなことをやるために遠雲とくもへ帰ってきたわけではない!


 そう。


 俺が農繁期に入る前に領地で始めておきたい事業は大きく分けて二つ。



 一つは、クエストでの獲得アイテムを、原材料として活かせるように工業を育成すること。


 もう一つは、領民部隊の作戦遂行能力を活かして、領地の交通インフラを強化することである。



「……ちょっと出かけてくる」


 そこでやかたのことは五十嵐さんたちに任せて、俺は吉岡神社へ向かうことにした。


 ちなみに、吉岡神社のあの長い石段も、黒王丸が飛べるようになった今ではひとっ飛びである。


 便利になったものだ。


 ヒヒーン!……



「そういうワケで頼みがあるんだ」


 さて、神社には親父の方、吉岡十蔵がいたのでさっそく話を始める。


「と、申しますと?」


「うん。遠征中にスカウトしたリヴ・ランティスって技術者がいるんだけど。彼女を中心に工業系の研究機関と学校を作ろうと思って」


「何やらすごい話ですな(汗)」


「いや、規模自体は小さなところから始めるから安心してくれよ。ただ、まずは【工房】が必要でさ。レンガとか、炉とか、特殊な造りが求められるから、ほら……俺のやかたを建ててくれたあの棟梁がいるだろ?あれを建てたくらいだから特殊な注文にも応じられそうだ。彼に手伝ってもらいたいんだけど」


 そう。


 俺はあの『ランティスの鍛冶屋』のような施設を擬似的に遠雲とくもで作ろうとしているのだ。


 というのも。


 これから上位のクエストをこなすにあたって、リヴにはさらに装備を開発してもらいたいところである。


 俺たちの特徴……つまり『モンスターに対する集団戦法』に合った装備は、自分たちで創り出すほかないからだ。



 もっとも、装備を開発してもらうだけならば何もリヴに領地まで来てもらう必要はなかった。


 ハーフェン・フェルトの鍛冶屋でそのままやってもらえばよかったんだからな。



 しかし、領民部隊は150人いるのであって、いくらリヴでも一人でそんな量の供給をし続けるのは無理がある。


 魔鉱石の【矢じり】がサーベル・タイガー戦で弾切れになってしまったのもそのせいだ。


 そこで彼女に、彼女の開発した新兵器を生産する【技術者集団】をこの遠雲とくもで育成してもらおうと考えているワケ。


 まずは5~10人の規模をめざそうと思う。


 これが研究機関と学校の意味だ。



「……と、いうわけで、そのためにはまず【工房】というハードが必要なんだよ」


「わかりました。大工の棟梁には領主様のところへ行くよう申しつけておきますで」


「うん、頼むよ」


 よし、これで一つは動き出すぞ。


 で、あとは息子の将平に話があるのだけど……


「将平ならアキラ君と領内の地質調査へ行っとります」


「地質調査?」


「へえ。最近ヤツらはそれにハマっておるようで。今日は『磯村』へ行くといっとりましたかな」


 アイツら魔鉱石掘ってねえのかよ……とは一瞬思ったけれど、地質調査か。



 それはそれで食指の動くワードだな。



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[良い点] マークで絶対強くなっとるやんw
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