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第53話 イブ



「こりゃまたずいぶん激しく使ったみたいだねえ」


 サーベル・タイガー討伐後。


 ランティスの鍛冶屋へ行って銅の剣を見てもらうと、リヴが笑いながら言った。


「また叩き直せるか?」


「もちろんさ」


 むふふ。


 今度はどれだけ『+』がつくか楽しみだ。


 リヴ本人に叩いてもらいたい思いもあったが、一太郎くんの成長に期待するところもある。


 まあ、そこらへんも含めてリヴの判断に任せよう。


「じゃあ、頼んだよ」


「あ、エイガ。その……」


「ん?」


「昨日は仲間に誘ってくれて……ありがとね」


 リヴのいつもは男勝りなデニムの太ももが内股にモジっとして言うので、俺は少し戸惑って「ああ」とだけ漏らす。


「あたしもこのまま跡継ぎの出そうもない店で枯れてくのは甲斐がないし……あんたの仲間になってたくさんの人たちと仕事ができればどんなに楽しいだろうって思ったよ」


「そ、そうか!」


「うん。でも……」


 女の手元で、形見のオイル・ライターがカチャ、カチャっと鳴る。


「それでも、この場所を出るのはあたしにとって小さなことじゃないんだ」


「……わかるよ」


 だから、決して無理にとは言わない。


 人のほとんどは生まれた場所に残るのが一番幸せで、移動すべき性質を持った者は全体の何%かなのである。


 リヴがそのどちらかなのは、リヴ自身に判断してもらうしかないのだ。


「ただ、リヴ。領主としてお前と仕事がしたいって気持ちは、これマジなんだぜ」


「うん……」


 無理強いになってはいけないと思って、その日はこれで帰った。






 さて、船へ帰ると一足早く帰っていた領民たちはいつものように宴会状態であった。



 今日の動きっぱなし、緊張しっぱなしの戦闘でみんな疲れ果てているはずなのに、祝勝会は別腹という感じである。


 しまいには相撲という極東のレスリングでミニ大会を始めるシマツ。


「乾杯ーッス」


 一方。


 俺はガルシアと五十嵐さんとで乾杯していた。


「……」


 ちなみに五十嵐さんのジョッキにはオレンジ・ジュースをそそいである。


 それが不服なのか俺の手のビールをジーっと見つめているけど……まあ、やめときなって。


「それにしても、みんな順調に強くなってるッスねー。この調子ならあっという間に魔王だって倒せるようになるんじゃないッスか?」


「ははっ。まあ、そうは簡単に行かねえよ」


 俺はビールをぐびっと半分ばかり飲んでから答えた。


「今までは戦えば戦うほど一人一人の能力もグングン伸びていったけど、これからはそうも行かないだろうしな」


「どーいうことッスか?」


「冒険の能力ってさ。初心者からある程度のところまではグーンって伸びるんだ。でも、その『ある程度』までいくと、伸び悩む時期と伸びる時期が交互にあらわれて、右肩上がりとはいかなくなる」


「……なるほど」


「そういうことッスね」


 二人とも思い当たるところがあるらしい。


 まあ、これはなにも冒険や戦闘に限った話じゃねーもんな。



 もちろん、そんなのはブッちぎって成長する天才もいるけど、150人部隊のみんなは天才じゃない。


 冒険者の職性がある者を集めてはいるけれど普通の村人なんだから、強くなるって言っても限界もある。


 おぼえる魔法に限って言っても、中級のレベル3が限界だろう。


 そして、これだと【矢じり】による集中砲火だけでは『総攻撃力』が頭打ちになっていくはずだった。


 つまり、このままの調子で冒険を続けても、150人部隊で魔王級を倒すには火力不足。


 さらなる火力を求めるには、別の工夫がいるというわけだ。


「……」


「じゃあ、どーすんス?」


「だからそろそろ、この遠征で得たものを領地へ還元していこうと思うんだ」


「……戦いで得たものを領地の内政に活かし、内政で得たものを戦いに活かすということですね」


「うん、そういうこと」


 で、それができて初めて『領地を単位にクエストをこなす』と言えるのだ。


 女神の瞳で見えた【強国】の職性は、2500人とあの土地を含めた『総力』のことなんだろうしな。



 ワッ……!!


 さて、そんなふうに3人で話合っていると、何やら領民たちの声が高まるのを聞く。


 どうやら相撲チャンピョンの決定戦を、チヨとエリ子さんが繰り広げているらしい。


 ドタン!ドタドタドタ……


 なかなか決着のつかない、長期戦である。


 ふんどしを取ったり、肉づきのよい脚をからめたりする激しい攻防。


 俺はその取っ組み合いの躍動感に目を奪われ、いつの間にかみんなの輪の中に入り夢中で声をあげていた。


 途中でハッと我に返ったが、隣ではあの五十嵐さんですら小さな両拳を握って夢中になっている。


 ひょっとしたら、領主がいつもみんなの輪の外にいなきゃいけないなんてこともないのかもしれないな……


 なんてことをちょっと思ったりもした。



 ◇



 その後。


 目を離したスキに五十嵐さんがビールを飲んで大騒ぎになったりなどのトラブルもあったが……まあ、おおむね無事に祝勝会も終わった。


 俺も自分の船室へ戻る。


「ふー、やれやれ……」


 と、息を付いてドアを閉めたその時。


「っ!?」


 ……誰かいる。


 具体的に言うと、ベッドがおかしい。


 布団がこんもり盛り上がっているのだ。


「誰だ!」


 そう叫ぶが返事がない。


「ええい!出てこい」


 俺は勇気を出して布団をめくる。


 バサっ!!


「zzzz……スー、スー」


 すると、布団の中にはショートヘアーの可愛い女の子が横たわっていた。


「なーんだ、モリエかよ……って、え?」


 なんでコイツがここに?


 と一瞬驚いたけど、まあ、グリコに居所がバレているわけだからヤツの仕業か。



「スースー……zzzz」


「おい。寝たふりしてんのわかってんぞ」


「っ!(汗)……ぐう、ぐう」


 あくまで寝たフリをするので、俺は少女の鼻を摘まみ、口をふさいでみせる。


「んーんー!」


 すると、ポンポンポンとタップするので、そこまでで離してやった。


「ぷはー。師匠、ひどいよー」


「お前、なにしてんの?」


 俺はため息をついてたずねる。


「……ええと、クリスマス・プレゼントだよ♪」


「なにが?」


「お師匠が。ボクへの」


 お前へのかよ!?


「ね?ひさしぶりに一緒に寝ようよー」


「いや、普通にダメだろ」


「なんで?」


「だってお前。もう寝るのとか風呂とか俺と一緒にしなくなってたじゃん。女の子としてお年頃になったからだと思っていたけれど」


「えー。それは師匠とティアナおねえちゃんが付き合い始めたから遠慮してたんじゃない」


「!?……お前、それ知ってたのか?」


「クロスにいちゃん以外はみんな知ってたと思うけど」


 マジかぁ……。


 エマはともかく、モリエにだけは内緒にできてたと思ってたのに。


「ね?聖夜クリスマスだしイイでしょ?」


 落ち込む俺をよそに腕を掴んでベッドへ引きずり込もうとしてくるモリエ。


聖夜クリスマスは明日だろ」


「ボクの地元じゃクリスマスといえばイブだったよ?」


「屁理屈はイイから帰れって。ほら」


 そう言って布団を完全に捲り上げて追い出そうとするが、


「あ!ヤメ……お願いヤメて!!」


 モリエは急にあせり出して、布団をギュっと掴んで離さない。


 どうやら下半身を布団から出したくないようだったので、一瞬『おねしょでもしちゃったのか?』と頭をよぎったが、この歳でありえる話ではないと思い直し、強行に布団をすべて捲りあげた。


 バサっ!……


「ヤ!ヤぁ!!」


 すると、モリエはベッドの上で紺地に白のスカートのすそをキュウっと抑えて身体を丸めている。


 って、モリエがスカート?


「ち、違うの!これはティアナおねえちゃんが穿けって」


「モリエ……」


「見ないで!……変なのわかってるから!!」


「変じゃねーよ」


「……え?」


「スゲー可愛いよ。似合ってるって」


 そう言ってそよそよと頭をでてやると、ちょっとニコニコしちゃうのを我慢するようにぷるぷるうつむく様も、また比べようもなく少女めいて可憐であった。


 トントントン……


 で、そんな時にノック。


「旦那、どーしたんス?だいじょうぶッスか?」


 ドアの向こうからガルシアの声が聞こえる。


 ヤベ……。この状況を見られたらきっとロリコンだって思われる。


「別に、なんでもねえよ(汗)」


 俺はドアを押さえながら答えた。


「猫の声が聞こえたんスけど」


「あ、ああ。猫な」


「ニャーん♪」


 後ろで猫の声を出すモリエ。


「あ、間違えた。泥棒猫の声が聞こえたんスけど」


「そ、そんなのはいねーって。心配すんな」


「そうっスか?最近は物騒な世の中なんで、念のために見張りを付けておくッスね」


「おお。悪いな」


 ガルシアはそれでドアの向こうを去ったようだが……見張り?


 それではモリエを帰すことができないぞ。


「お師匠、ボクもう眠い」


 モリエは目を擦りながらそう言う。


「はぁ……。しょうがねーな。今日だけだぞ」


「わーい♪」


 そういうわけで、ただでさえ狭い船室のベッドにモリエと二人で寝るハメになった。



「やれやれ」


「ふふふん」


 もう少し小さな頃はこうして一緒に寝るとすぐにギュっと抱きついてきたものだけれど、今はさすがにそんなふうにはしてこない。


 それでも枕へ頭を乗せるとこちらへ向かってぴと♡っと寄り添い、小さな胸が呼吸に合わせて腕へくっついたり離れたりしていた。


「ねえ、師匠……」


「ん?」


「パーティに戻ってきてよ」


「……無茶言うなって」


 それは領地まで追いかけてきてくれた時にちゃんと説明したはずだけれど。


「じゃあ逆に、師匠が領地をうんと強くして、それでボクたちを領民として呼んでくれてもいいんだよ」


「は?」


「領地がすごく発展したら、その方がボクたちの力を発揮できるってことはありえるでしょ?」


 その発想はなかった……。


 けど、それは……それこそ夢物語だ。


 世の中、そんなに何もかもうまくいくわけはない。


「ボクね……」


 俺が黙っていると、モリエは俺の服の襟元へ唇をつけて続けた。


「……6人そろって冒険してた頃が、一番楽しかったんだ」


 そう寂しそうに言うので思わずやさしく抱きしめてみせたが、少女はもう寝息を立てて眠っていた。


※次回で7章が終わりの予定です。またみてね。

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モリエはけなげだな
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