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第52話 サーベル・タイガー(3)


 ガシュ、ガシュ……


 トクソドンを捕食するサーベル・タイガー。


「う……」


「……うう」


 後ずさる領民部隊。



 サーベル・タイガーがおそろしいのは、こうして他のモンスターを喰って自分自身の力にしてしまう【捕食】の能力があるところだ。


 すでに相当なモンスターを捕食したようで、戦闘力は初期値の52000から54000へと上昇していた。


 モンスターを喰ってくれるなら放っておけば良いように思われるかもしれないが、周辺のモンスターを喰いつくすとその強化されたキバを人里へ向けるので、そういうわけにもいかないのである。



「さくせんどおり!まず囲むんだ!」


 さて、俺がそう叫ぶと、敵のおそろしい姿に動揺していた領民たちも総員ハッとしたように駆けだした。


 うん。


 大猿の時のパニックと比べると、ショックからの立ち直りが早い。


 この遠征で成長したのは単純な戦闘力だけではないのだ。



 ゴルぅぅ……ゴル、ゴルルル!!



 対サーベル・タイガーの布陣。


 まずは前衛40名が敵を円形に囲み、全員で長いやりを向ける。


 カチャ、カチャカチャ……


「無理すんな!距離を保つんだ!」


 だが、これはあくまで敵の動きを制限するための包囲網である。


 前衛の囲みで敵の動きを制限して、背後から魔法による集中砲火を喰らわすのが最終的な狙いだ。


 一方で。


 射手と攻撃系魔法使いは4棟の【移動式矢倉】に登り、矢じりへ魔法を込め、上から照準を合わせている。


 上から角度を付ければ、山なりの『数打ちゃ当たる』的な矢ではなく、味方の背後からでも直線ライナーでピンポイントな射撃が可能なはずだ。


 しかし……


『まだだ。まだ撃つな。どうぞ』


 と、俺は通信魔法【トランシーバー】で命令を伝える。


 トランシーバーはこの魔法が使える者どおしだけが通信可能な、支援系の中級通信魔法だ。


 普通の冒険パーティでは支援系魔導士は複数いないので、ほぼ使い道のない魔法なのだが、俺たちは違う。


『……了解』


 ナオを筆頭に支援系魔導士たちを通信班として矢倉に配置させているので、これによってタイミングを合わせた一斉発射が可能になるというわけ。



 ゴル、ゴルルルルル……ふしゅー!ふしゅー!



 で、まだ撃つなと言ったのは、こうしてやりの壁で囲み、行動範囲を制限してもなお、サーベル・タイガーの動きは俊敏で狙いが定まらないと思ったからである。


 だから、ピンポイントな集中砲火のタイミングを作りだすために、動きを誘導しなければならない。



「うわー!」


「ひい……」


 囲まれたサーベル・タイガーはイラ立ってきたのか、やがて強行に包囲を突破しようと前衛へきばき始める。


 そこで俺はみずから馬で囲みの中へ入り、


「おら!こっちだ!!」


 と、挑発するようにヤツへ斬りかかった。


 ゴルルル……


 与えたダメージはわずかだったが、こちらへ意識を向けさせることには成功する。


 イラ立った大型魔獣の瞳がギロリとこちらを向いていた。


 おお、怖え。


 下では馬もビビってる。


 ヒ……ヒヒーン!!


 しかし、今日の黒王丸はむやみには逃げなかった。


「黒王丸……!よし、エライぞ」


 と馬を褒めながら手綱を引き、しばらく剣で敵のキバをいなす。


 キン、カキン、キーン……!


 だが、俺とて深追いすると危険だ。


 さくせんどおり、すぐに前衛へ合図サインを送った。



 ザザ、ザザザ……



 すると、これまで敵を囲んでいた前衛の包囲網にひとつだけスキが生じるのだ。



 つまり、Oの形の陣形からCの形になって包囲に隙間ができるというわけ。


 俺は馬を走らせ、その包囲の隙間から逃げだして行った。



 ゴルル……ル?……ゴルル♪



 するとサーベル・タイガーも俺の真似をして、包囲網のスキへ逃げ出して来るわけだ。


『今だ!』


 で、そのタイミングで合図。



 ひゅんひゅん!……ひゅんひゅんひゅん!!



 4つの移動式矢倉から一斉に音が立つ。



 ボ!ボボボボボ……ボボ!!……ボボン!



 無数の矢が包囲網のスキへ向かって飛び、そのことごとくがサーベル・タイガーの肢体へヒットした。



 そう。


 包囲にスキを作り、そこから抜け出そうとする時は、魔獣の動きを特定することができるというわけ。



 ギャー!……ニギャー!!



 よし、効いてる。


 この集中砲火にはサーベル・タイガーも相当のダメージを喰らうようだ。


 が、さすがタフで、まだまだ倒れそうな様子はない。



「さくせんは当たった!もう一度だ!」


 成功した戦法は、通用しなくなるまで容赦なく繰り返すべきだ。


 もちろん、挑発やフェイント、誘導の仕方を少しずつ変えてだけどね。



 ……それで2回目、3回目と魔獣の方はこれに対応できず、繰り返し集中砲火は成功したのだが、


『よし。このまま行けば倒せるぞ!』


 しかし陽も暮れかかり4回目の包囲をかける頃、


『でも、領主さま。そろそろ【矢じり】がなくなってしまいます』


 と、ナオからそんな情報が入る。


『マジで!?』


『はい。坂東大将は一時撤退を進言しています』


 確かに、夜になってしまうとモンスターは強くなるし、矢じりが弾切れでは決定打がなくなる。


『でも……まだ一回ぶんくらいは矢も残ってるだろ?』


『はい』


『じゃあ最後にあと一回だけやってみようぜ。ダメ元だけど……試してみたいことがあるんだ』


『……わかりました』


 こうして最後の攻撃。


 再び前衛の包囲網にスキを作り、敵を誘い込む。



 グル……ゴルルル!



 そしてその時すぐ、俺は馬で上空へ駆けていったのだった。


 そう。


 試してみたいことというのは、さっきレッド・オーク相手には失敗した飛行魔法ウォラートゥスでスピードを乗せた斬撃のことである。


 集中放火を浴びてダメージを喰らっている時、敵は空からの攻撃をよける余裕はないはずと思ったからだ。


 つまり、集中砲火とウォラートゥス斬撃のコンボ。


 それを狙っての最終攻撃であったが……



 キーーーン……!!



 剣を振り下ろして行く最中の視界。


 敵が包囲のスキへ飛び出す『フリ』をして直前で急停止するハラなのが、その微妙な筋骨の動きから読みとれた。


 なるほど。


 魔獣と言えども、4回目ともなるとさすがに学んだのであろう。


「くっ……黒王丸」


 そこで俺は咄嗟とっさにに手綱をわずかに引き、飛行の軌道を修正する。


 ひゅん、ひゅんひゅん……


 案の条、敵は直前で身をひるがえし、今回の集中放火の矢はすべて外れた。


 してやったりと得意気なサーベル・タイガーであったが、しかし、頭の上から俺が迫ってきていることにはちっとも気づいていない。


 ガラ空きだ!


「おおおおおおおお!!」


 俺は地面が迫ってくる恐怖と打撃の気合いをごっちゃにしたような叫びをあげつつ、銅の剣+3をめいいっぱい振るった!


「でっ……ぎいいっっ!!」


 それはものすごい手ごたえだった。


 ギギギ……!!ギリリリ!……


 これが戦闘力50000を超えるレベルのモンスターへ有効打を与えうる打撃の衝撃。



 ギャフ!!……ル……ゴルルぅ



 その直撃を受け、サーベル・タイガーはのたうった。



「はぁはぁはぁ……」


 見下ろせば、たび重なる集中砲火と最後の斬撃に、敵はもう瀕死状態である。


「もうだいじょうぶだ。行ける」


 俺が手で合図すると、とどめには前衛部隊が一斉にかかった。



 ゴルル……ぐふ



 やがてサーベル・タイガーは苦しみ終わり、いくつもの光の玉になって飛んでゆく。



 光がひとつではないのは、彼の喰らったモンスターたちのものであろう。


 暮れかかった赤紫色の空に飛び散る光の美は、サーベル・タイガーの本能の美しさそのものに似ていて、やけに心を物悲しくさせた。


「……」


 気づくと、領民たちはみんな両手の皺と皺を合わせてうつむいている。


 ああするのが極東文化圏のとむらいの作法なのだそうだ。


 あのダーク・クランプスを倒した時のような無邪気な残虐性はもう見えない。



 俺も領民たちの真似をして、静かに合掌してみせた。


今日、19時頃もうひとつ更新します。

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