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【6章挿話】 魔法剣士グリコ・フォンタニエ(2)



 ザハルベルトの老舗しにせデパートで。


「モリエ。このビキニ・アーマーはどうだ?」


 私は先輩冒険者として、モリエ・ラクストレームへ合いそうな装備を勧める。


 もちろんジュニア用の『ビキニ・アーマー』だがな。



「ボクは嫌だよ。そんな恥ずかしい格好……」


「むっ、恥ずかしいとはなんだ」


「だって恥ずかしいじゃない」


「私のことはどうでもいい……。しかし、ビキニ・アーマーのことを悪く言うのは許さん!」


「別に……。グリコはそーゆーの似合うんだからイイでしょ」


 興味なさげにぷいっと横を向くモリエ。


 うっ……いかん。


 機嫌を損ねてしまったか?


「まあ待て。キサマだって絶対に似合うんだから」


 私はそう言って、モリエの白ブラウスの膨らみへ『プニ♡』っとビキニ・アーマーを当てがってみる。


「グリコの趣味ってだけだろ」


「そんなことはない。これさえ着れば、きっとエイガ・ジャニエスだってキサマの魅力に気づくに違いないぞ!」


「ちょっ……声大きいよ!」


「?」


「ティアナねえちゃんがいるんだから……」


 少し離れたところで服を選ぶティアナ・ファン・レールの姿を横目に見て、ひどくあわてた様子のモリエ。


 ひょっとして。


 同じパーティにいるのに、エイガ・ジャニエスを好いていることを隠しているのか?



「ねえ、モリエ。これなんてどうかしら?」


 一方。


 ティアナは、スカートを一着持って来てモリエへ勧める。


 紺地に白のレエスでひらひらした女の子らしいヤツだ。


「だ、だから……!ティアナはボクにスカート穿かせようとしないで……っ」


「どうして?」


 宝石のような青い目をぱちくりさせて首を傾げるティアナ・ファン・レール。


 赤いメガネのふちを細い指先で軽く支えている。


「だって、そんなの似合わないって。ボクなんか……」


「そんなことないわ。モリエ、こんなに可愛いんだもの」


 そう言ってティアナに髪をなでられると、モリエは白いほほを真っ赤にしてうつむいた。



 ……ぐぬぬ。


 くやしいが、これはビキニ・アーマーの時とは少し反応が違うな。


 きっとスカートの方は、本当は興味あるのだろう。



「どーしたの?グリコ」


「いや……」



 モリエ。キサマ、本当はもっと女の子らしい格好をしてみたいんじゃないのか?


 そんなことを、私は思った。




 で、下着などの買い物が済んだ後。


 ティアナ・ファン・レールは、さきほどのスカートをモリエに内緒でこっそり買っていたのだった。


 白のブリーフ・パンツも今日で卒業のようだし、モリエもこれから少しずつ女の子らしくなってしまうのだろうな……。



 ◇



 さて、あれからすぐモリエたちはクエストへ出てしまった。


 一方で、私もクエストをこなす日々が続く。


 私だって遊んでいるばかりじゃない……というか、日常の大部分は冒険にいそしんでいるのである。



 しかし、こうして長いこと少年成分に欠くと、禁断症状で元来の露出癖が先鋭化し、ビキニ・アーマーすらすべて脱ぎ捨ててしまいそうになってくるな……。


 いくらなんでもそれはマズいと思ったので、1ヶ月ほどたったある日。


 最寄りのギルドで、モリエ・ラクストレームのパーティが今どこにいるのかたずねてみる。


「はぁ。奇跡の5人ですか?彼らなら【第6魔王アニムス】討伐のクエストが割り振られたという話なので……ケルムト文化圏のゲーテブルク城へ向かっているんじゃないでしょうか」


「なんだと?」


 彼らはまだ魔王級のクエストを割り振られたことがなかったはずだ。


 さぞ喜んでいることだろうな。


「ケルムト文化圏の冒険者ギルド出先機関はどこにあるのだったか?」


「ええと。商業都市ハーフェン・フェルトという街ですね」


 職員は親切な男で、地図を差し出し場所を教えてくれた。




 で、その後。


 私は飛行魔法ウォラートゥスで【商業都市ハーフェン・フェルト】まで、ひとっ飛びに飛んで行く。



 キーン!!……



 ところが、


「奇跡の5人はまだ到着されていません」


 そこの冒険者ギルド出先機関でたずねてみると、そんなふうに返されたのだった。


 せっかく遊びにきたのに……。


「彼ら、いつごろハーフェン・フェルトに来るだろうか」


「わかりません。ただ、アニムス出現の予言が1カ月先ですから、遅くても1、2週間のうちにはいらっしゃるのではないでしょうか?」


 けっこう間があるかもしれないのだな。


「……仕方ないか」


 私はあきらめて、ギルドの伝言板へ書置きだけしてここを去ろうと思ったのだけれど……


 その伝言板のすぐ横の『お知らせコーナー』にある大きな張り紙を見て、私は目を見開いたのだった。



≪本日!【ル・モンドの森】のボスを【エイガの領地】がみごと撃破!!≫



 ◇



 私はハーフェン・フェルトのギルド職員からエイガ・ジャニエスの居場所を聞き、港へ行く。


 埠頭ふとうの管理者に教わると、ヤツの船はあの3隻だそうだ。


 そのうちの1つがあきらかににぎやかで、あかりなども盛んに付いていたから、私はすぐに船の甲板デッキへとひらり飛び移ってみた。


 甲板デッキには、遠雲とくもにいたような村人たちが酒を飲んで踊っている。


 うん。この船で間違いないようだな。


 しかし、肝心なエイガ・ジャニエスがいないぞ?



「おい、あんた誰だ?」


 その時。


 甲板デッキの村人の1人が私に向かって不審な目を向ける。


「いや、すまない。決してあやしいものではない」


「その格好であやしいものではないと言われても納得できねーだ」


 そう責め立てられていると、


「ちょっと待ちなよ。この女性ひとなら、領主さまのお友達だよ」


 と、ふんどしにお尻をプリっとさせた娘が助けに入ってくれた。


 おお。


 この娘はファッションに親近感を覚えていたから私にも記憶があるぞ。



「なにかようがあるんだろ?」


「なあに。ちょっと寄ったので遊びにきたのだ。エイガ・ジャニエスはどこだ?」


「領主さまならあっちへ行ったよ」


「すまないな」


 私はふんどし娘に礼を言うと、その操舵室の裏へ足を進めた。



 が……


 その直前に、見知った商人が壁に隠れるようにしているのを見つける。


 たしか、ガルシアとか言ったかな。


「おい。キサマ、何をしている?」


「あ?……あ、グリコさん。どうしてこんなところにいるんス?」


「遊びに来たのだ。こっちにエイガ・ジャニエスがいるのだろう?」


「ああ!ダメっスよ!」


 そう言って、私の行く道をはばむガルシア商人。


「む、なぜだ?」


「今、イイところなんスから。ほら」


「?」


 そう言うので、私もガルシア商人のように壁ごしにあちらのスペースを覗いてみる。




「やるじゃん。五十嵐さん、よくお酒飲むの?」


「いいえ、初めてです」




 む?あれは!?


 エイガ・ジャニエスと……遠雲とくもで浴衣の着付けをしてくれた不愛想な女。



「ほら。イイ雰囲気っスよね」


 確かに。


 エイガ・ジャニエスは、あのタイトスカートの女の横顔を見惚れるように見つめている。


「お……おい。あの二人はなんかなのか?(汗)」


「まだ微妙なとこッスけど、自分はそうなって欲しいってひそかに思っているんス」


「!?なんだと」


「あ!グリコさん。見るッス」



 チュっ♡


「好き」



「あー!!」


「グリコさん!うるさいッス。見つかっちまうッス」


「だって!キスしてるじゃないか!ダメじゃないか!」


 挨拶みたいなキスだけど、唇と唇だ。


 好きって言ってるし。


「なにがダメなんスか。ふたりお似合いじゃないッスか」


「ダメだ!ヤツにはモリエ・ラクストレームという未来の嫁がいるのだからな!!」


「っ!!……」


 そう言うとガルシア商人はいつものニヤけづらを真顔にして、


「なるほど。我々は敵どおしってことッスね」


 とにらんだ。


「どうやらそのようだな」


 ガルシア商人は一瞬目から火花を散らしたかと思えば、途端に弁舌を振るいだす。


「たしかにモリエちゃんは可愛いッスけど、五十嵐さんだって美人だし、なによりも出向してからずっとそばで旦那のこと支えてるんスよ」


「それを言うならモリエは解雇されたアイツをわざわざ遠雲まで追いかけていったのだぞ。付き合いの長さだってこちらの方が上だ」


「ぐっ……。で、でも、モリエちゃんはまだ15歳でしょ。旦那はもう28歳になったんスよ。それじゃロリコンっス。キモイっス。きっと社会的な非難を浴びるっス。旦那の硬派なイメージがだいなしッス」


「はっはっは!なにが硬派なイメージだ。そんなものはなっからカケラもないから安心しろ」


「それは……そっスね」


 などと言い争っていた時だ。



 バタバタバタ……



 なんと、あちらでは五十嵐がエイガ・ジャニエスを押し倒して甲板デッキに転がっているではないか。


 状況は差し迫っていた。


「いかん……いかんぞー!」


 そう言って、私はあわてて駆けだす。


「待ってくださいッス!こういうことは本人たちの意志が大事なものッス。『人の恋路を邪魔するヤツは豆腐の角に頭をぶつけて死んじまえ』ッス」


「何が本人たちの意志だ。あの女、あきらかに酔っぱらっているじゃないか」


「エイガの旦那の方は酔ってないんスからセーフっスよ」


「ええい!うるさい!」


「あ……!!」



 私はガルシア商人を振りほどきヤツらところへ駆けた。



 もぞもぞ……



 むっちりしたタイトスカートの女の脚とスラックスの男の脚が絡みあっている。


「ちょっと五十嵐さん!一回起きて!」


 お?なんだ。エイガ・ジャニエスの方は困っているじゃあないか。


 これはまだまだ巻き返しようがあるぞ!


 そう思い、私はヤツへ手を差し伸べて言った。


「大変そうだな。手伝おうか?」




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