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第41話 ダーク・クランプス


 次の日から。


 ボスが発生したというので、ル・モンドの森はこのあたりの初級、中級の冒険者たちから注目を集めた。


 ハーフェン・フェルトから森へ向かう道もいつもより混んでいる。



 ガヤガヤガヤ……



「おい。あれ、エイガ・ジャニエスじゃないか?」


「ああ、元・奇跡の5人の?」


「そうそう。領主になって村人を引き連れて冒険してるって聞いたけど……」



 俺が領民150名を引き連れて道を進んでいると、あたりからそんな声が聞こえてくる。



「しかし……あいつらがその領民か?」


「どいつもいっちょ前な『冒険者』ってツラだぜ……」


「とても村人とは思えん」



 そんなふうに噂されているのを聞いて、俺は耳がピクっとなる。


 そうか。


 俺はいっつも見てるから領民たちに対する印象ってあんま変わんねーんだけど、外から見るともうそんなふうに見えるんだな。



「わあ!すごい弓だな」


「それよりあのふんどしの、見ろよ」


「戦闘力5670だって?オレたちより強いじゃんか」



 それにしても。


 こうして領民たちが一目置かれることが、まるで自分のことのように嬉しいだなんて不思議なもんだな。



 ザッザッザ……



 さて、森の入口へ着くと、俺はひさしぶりに武装らしい武装を始めた。


 上着の下に鎖帷子くさりかたびら


 籠手こてすね当て、銅のつるぎ



 カチャ……カチャカチャ



 そして、黒王丸にまたがると、坂東義太郎へ言う。


「じゃあ坂東くん。ひとまず領民たちの指揮は頼むよ」


「かしこまってござる」


 坂東義太郎はサムライ大将の経験から大勢へ指示を通すのが上手いのだ。


「ボス戦に備えて、魔鉱石と矢じりは各グループに持たせて。でも、ここの通常モンスター相手には使わないよう徹底してくれ」



 ヒヒーン!


 そう伝えると、俺は黒王丸を走らせ真っ先に森の入口へ入って行った。



 パカラッ!パカラッ!パカラッ!



 森を駆け、ボスを探す俺。


 さっき見たとおり、今日は『ボス討伐』を目あてに、いつもより冒険者が集まって来ている。


 ボス討伐は基本的に早い者勝ちだから、俺も捜索に乗り出した方がイイと判断したのだ。


 こうして走っていると、【グリーン・オーク】【眠りキノコ】【化け大木】といった通常モンスターの群れが襲ってくるが……


 ヒヒーン!!……ボコッ、ボコッ!


 それらは俺が手を下すまでもなく、黒王丸が踏み潰してしまう。


 そう。


 黒王丸もすでに『戦闘力4690』あるのだ。


 ここまで戦闘力のある馬はなかなかない。


 少なくとも今日見た冒険者たちの中で邪悪な森を馬で駆けるヤツは他にないだろう。


 この広大な森で1匹のボスを探し当てるのに、馬のスピードがあるのとないのでは大きな違いがあるはずだ。


 さらに、A~Fの6グループがみんなでボスを捜索し、誰かが発見したら『狼煙のろし』を上げることになっていた。


 それとは別に、西園寺カナ子も単独で探している。


 そんな連携も合わせると、俺たちはずいぶん有利な条件を積んでいるはずだ。


 ……と思ったのだけど。


「見つかりませんわね」


 森中で急に上から降ってきた西園寺カナ子が言う。


 あの女忍者の捜索力でも見つからないのか。


「ボスは【ダーク・クランプス】というのでしたっけ?」


「ああ……」




【ダーク・クランプス】


 羊のツノと鉤爪かぎづめを持った悪魔で、『悪い子』を探しながら攻撃してくる。


 ただし、通常のクランプスが振るうのは人を良く導こうとする暴力であるのに対し、【ダーク・クランプス】のそれはただの悪意である。


 つまりコイツの場合は、悪い子の矯正きょうせいを方便にして暴力を振るうのが楽しいだけの悪魔なのであった。




 ざわ、ざわざわ……


 さて、そうこうしていると、この邪悪な森がざわめきだす。


「む、ヤバイ。もう陽が沈むんだ」


「あら」


「夜の森はマジでヤバイから。みんなに帰還しろと伝えてくれ」


「かしこまりましたわ」


 シュン……


 と消える女忍者。



 俺も黒王丸を返し、その日は帰還した。





 翌日も、その翌日も【ダーク・クランプス】を見つけることはできなかった。


 150人体制で捜索してんだからすぐ見つかると思ったけど、意外と苦戦するもんだな。


 勇者パーティにいた頃は、ティアナの索敵魔法でボス級すら簡単に見つけだしていたものだけど……


 まあ、俺たちは俺たちのやり方でやっていけば良いんだ。



 それに、ハーフェン・フェルトのギルドで『ボス発生』の告知が消えていない以上、他の冒険者も討伐できていないということだしね。




 ◇




「悪い子はいねーか?」


 さて、それはボス捜索から4日目のことである。


 暗い森の、ぬかるんだような泥の中にそれはいた。


 ダーク・クランプスである。


「……」


「悪い子はいねーか!悪い子はいねーか!」


 こ、恐え……


 コイツは戦闘力以上にルックスが恐いのだ。



 毛のない頭に、異様な羊型のツノ。


 青みがかった肌。


 血走って焦点の合わない目に、びたくさりと盾。



 ヒ……ヒヒーン!(汗)


「コラ、黒王丸!」


 ビビって逃げようとする馬。


 そこをすきありと攻撃してくるダーク・クランプス。


 ガキーン!!


 悪魔の鉤爪かぎづめと銅のつるぎが交差する。


「悪い子はいねーか!!」


「……うるせーよ」


 イラっとした俺は馬上を羽のごとく飛び降り、つるぎをもって敵のどうぐ。



 ……キーン!!



 しかし、それと同時に。


 ヤツの鉤爪かぎづめが、俺の左肩をグシュ……と刺したのだった。



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