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第39話 矢じり(2)


 次の日。



 ル・モンドの森でモンスターを狩っていると、どこからともなく西園寺カナ子が現れてささやく。



「エイガどの。Eグループの支援系魔導士が索敵魔法『サーチ』を覚えましたわ」


「そうか。これでEグループの戦い方も変わるな」


「ええ。しかし、本人たちはわかっておりませんようですのよ」


「うん。そこらへんは教えてやらねーと」



 だんだんわかってきたことだけれど、


『各グループ自分たちで判断する』


 と言っても、ただ単に状況へ放り出すだけじゃ、そりゃ無理があるのだ。


 もちろん一から十まで教え過ぎると『あやつり人形のような指示待ち人間』になっちまうんだろうけど、ただ『ライオンの子のように崖へ突き落せばい上がってくる』というものでもない。


 つまり、教え過ぎず、教えなさ過ぎず……が、大事ってことだ。



「先生!今帰りました!!」


 そんなふうに考えながらEグループの帰還を待っていたのだけれど、先にCグループが帰ってきて俺は昨日リヴから受け取った【矢じり】のことを思い出した。


杏子きょうこ。疲れているところ悪いけど、回復したらちょっとついてきてくれ」


「はい。弓はいりますか?」


「うん、いる」


 そう言って、俺は杏子きょうこを連れて2人でル・モンドの森の入口へ入っていった。


 ザッザッザ……



 しばらく行くと、ル・モンドの森の密集した木々の中で、ふと、空の見える小さな野原のような空間が現れる。


 こんな邪悪な森の中でも、ごくたまに台風の目のようなスポットがあり、こうした場所には光が射してモンスターが寄ってこないのだ。


「このへんでイイかな」


 そう言って野原へ腰を下ろすと、杏子きょうこもその隣に座った。


「キラドン!……エクスプロジー!……フィヨルディ!……ソルテラ!……」


 俺はリヴからもらったケースを開き、魔鉱石の【矢じり】20個へ、それぞれ魔法を込めてゆく。


「ぜー、ぜー、ぜー」


 俺の使える中級レベル3の魔法までだけれど、どれもこの森のモンスターくらいなら倒せるレベルの魔法である。


「……?」


 そんな俺の姿を、隣の少女は黒目がちな目をぱちくりさせて見つめていた。



杏子きょうこ、ちょっとそこへ横になれ」


「えっ、先生。こんなところで?……」


「だいじょうぶ。誰も見てないって」


 そう言って俺は少女の肩をやさしく抱き、野原へ横たえる。


「……」


 と緑に囲まれた17のおさげの少女は、黙っていれば精霊のようだ。


 横たえる拍子ひょうしでふっと触れてしまった太ももには、本人の素朴な性格とは無関係に、10代の攻撃的でギラギラした肌と肉の弾力があった。


「もう少し力を抜くんだ」


「はい……」


 そう言って、そんな少女の健康的な肢体したいへ俺の魂を移していった。


 そう。


 杏子きょうこ身体からだへ【憑依ひょうい】したのである。



 ……


 …………



 さて。


 少女の肉体でパチリと目を開けると『世界はこんなに美しかったか』と思う。


 というのは、杏子きょうこはとても目がよいからだ。



 視力の極めて優れた海女あまの瞳で、俺はまず木々で区切られた青い空を見上げた。


 俺の眼球で見る空と、彼女の眼球で見る空はまるで別モノである。



 たとえば、古代人の視力は今に比較してよほど発達していたに違いないけれど、もしこれほど見えていたのなら、『あの空の向こうに神々が住んでいる』と考えたのもうなずけるというもの。



 続いて、森を見、まわりの野原を見、そして横で抜け殻になっている俺の身体からだを見る。


 近くのモノでも色彩は鮮明で、輪郭りんかくは克明で……まるで恋でもしているかのようにあらゆるものがきらめいていた。



「ん?」


 それはさておき、俺は杏子きょうこ身体からだで起き上がろうとしたのだけれど、どうにもスカートの中がスースーするのに気づく。


 立ち上がり、パンパンと草を払うと、プリーツ・スカートの中であどけないお尻がぷりん♡ぷりん♡いうのを感じる。


「おい、杏子きょうこ。お前パンツはどうした?この前買ってやったろ」


 と、俺は少女の声帯でたずねた。


「あ、はい。先生にもらったモノなので、ちゃんと大切に持っています」


 杏子きょうこも彼女自身の声帯でそう答えると、ポーチの中から布を一枚取り出した。


 俺が買ってあげたパンツだ。


 色は清楚な白で、女の子らしい赤いリボンがついた、縫い目のほつれのないちゃんとした新品である。



「武器やパンツは持っているだけじゃ意味がないぜ。装備そうびしないとな」


「ええ。でも、装備の仕方がわからないんです」


 マジか。


 そんなん教えんのキツいなぁ……。


「くっ……。いいか?このリボンがある方が前だ」


「ふむふむ」


「で、ここから一本づつ脚を入れて……」


 と、俺は少女のパンティを両手にまみ、左足から差し入れてゆく。


 可憐な布がふくらはぎを過ぎ、ふわふわと膝っ小僧をくすぐるところまで上ってくると、男の魂ですさまじい抵抗感が起こり反射的に太ももをギュっと閉じてしまうが、『これも領民の風紀のためだ』と意を決してパンティを引き上げて装着していった。


 パツンっ!


 こうしてサラサラした綿地が太ももをすべり、女の子のパンツは俺の……ではなくて杏子きょうこのお尻へピッタリ貼り付く。


 ふわ♡


 男性の下着とは構造の違う二重布の位置と、お尻まわりに触れるピッタリとした綿の感触。



「うん。動きずらいってことはねーよな」


 そう言って俺は片足ずつももをあげて回転運動させてみると、白のスカートのプリーツがすべすべした太ももをハラハラと雪崩れる。


「でも、なんだかソワソワします」


「……そうだな。でも、たぶんすぐれるよ」


 俺はスカートの中へ手を突っ込み、パンツのゴムがよじれて尻肉につっかかっているのをパチン!と直した。




 ◇




 杏子きょうこに憑依したまま、俺はル・モンドの森の邪悪な木々の中へ入って行く。


「先生。憑依ひょういしたまま戦闘地域へ入れるんですか?」


「できるように修行したんだ。でも、まだ不完全だから途中で引き戻されるかもしれない」


 そんなふうに(ひとりの口で)しゃべりながら杏子きょうこ身体からだで大弓をかついで森を進む。


 風のスカートを装備しているので、身のこなしが軽い。



 タッタッタッタ……



 少女の脚で木々の隙間を駆け、暗闇を見通す視力でモンスターを探す。


 すると、向こうの木の下に、一匹の【ポイズン・スライム】が、でろーん……と伸びているのを発見した。


「毒系のモンスターには土系魔法がよく効くぜ」


 そう言って、ケースから土系攻撃魔法【ソルテラ】を込めた矢じりを取りだす。


「いいか。【矢じり】を矢へ装着したら、安全装置を抜いてから弓にかけるんだ」


「はい」


 まず、杏子きょうこが弓を引き、矢を放つ。



 ひゅーん……



 外れた。


「ちょっとうわずるな。勢いが増すのかもしれない」


「はい」


「ちょっと俺が射るよ」


 と言っても杏子きょうこの肉体で放つのだけれど、次は俺の意思が弓矢をコントロールして射つのである。



 ひゅーん……



 俺も外す。


「たしかにうわずります」


「ソルテラを込めたのはあとひとつしかないから、もう一度俺が射つよ」


「はい」


 そう言って、杏子きょうこはまた俺に身体からだのコントロールを預ける。


 俺は魔鉱石の矢じりを矢へ装着すると安全装置を外し、矢をつがえた。


 ギリギリギリギリ……


 軌道のイメージを修正して、放つ!



 ピシュン!……カッ!!



 矢が当たった!


 そして、その瞬間。



 ボコボコ、ボコ!!



 矢から泥が湧きだして、ポイズン・スライムへ覆いかかる。


 土魔法【ソルテラ】の効力が発動したんだ!



 キーン!ピシューン☆☆



 やがて泥はガチーンと岩のように固まって、ポイズン・スライムは消滅。


 光の玉となって森の奥へと消えていった。


 やった!!成功だ!


 そう思った時。


「うっ……」


「先生!?」



 急に眩暈めまいがしたかと思えば、意識がコントロールできなくなるのを感じる。



 ふわ、ふわ、ふわ~


 あれ?浮かんでる?


 そう。


 杏子きょうこに【憑依ひょうい】していたはずの俺の魂が、彼女の肉体から離れてしまったのだ……。



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