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第37話 1000万


 次の日。


 領民たちは昨日の二日酔いから回復し、顔色に精気を戻してくれていた。


 ガルシアのおかげで、さしあたって必要なアイテムは補充できている。


 そういうわけで、俺は領民150名と、それから奥賀四人衆を引き連れて、再びル・モンドの森へ向かうのだった。



 ぞろぞろ……



 ところで、その奥賀四人衆の中にあの西園寺カナ子がフツーにいて、なんだか昨日のことは夢だったのではないかとすら思われたが、


「オホホ……。お見事ですわ、エイガどの」


 と、すれ違いざまにささやき、覆面の目元がキレーな三日月に笑むので、まあ、現実のことではあったのだろう。



 ザッザッザ……



「よし、今日からが本番だぜ!」


 ル・モンドの森に着くと、俺はみんなへそんなふうに呼びかける。


一昨日おとといは俺が一緒についていったから、ひとグループずつの潜入だったけどな。今日はA~Fグループで時間差をつけながらいっぺんに潜入していく。それぞれのグループが自分で判断してモンスターと戦うんだ」



「えー」


「やっぱり領主さま抜きかぁ……」



 そう言うと、前にもアナウンスしたことではあったけれど、やはりみんな不安そうであった。



「だいじょうぶだって。この前の調子で行けばなにも問題ないんだから」



 と、まずはAグループの25名を森の【入口】へ送り出す。



 カチャカチャカチャ……



 折れた剣はえ、矢と回復薬は充分に持たせてある。


 健康も戻っているのだから無理な冒険ではないはずだ。


 そう思いながら、彼らの背中を見送っていった。



 その後。


 10分ほどしてBグループの25名が突入。


 そのまた10分後にCグループの25名が突入する。



 で、その頃。



 ピシューん!……キラキラキラ☆



 ちょうど最初のAグループが帰還魔法で帰って来た。


 やけに帰りが早いな。


「どうしたんだ?」


 俺はAグループの攻撃系魔法使いのジイさんにたずねる。


「へえ。【眠りキノコ】がおったんですが、思ったより強くて……」


 たしかに、ダメージを受けている者も多く、支援系のエースであるナオを始めとしてみんな魔力も切れてしまっているようだった。


「倒したのは眠りキノコだけか?」


「へえ、2匹おりまして」


 うーん。


 その一戦だけでこのありさまなのか。


「獲得アイテムは?」


「ありませんですじゃ」


「……そうか。ダメージを受けた者は回復薬を使って、みんなの魔力が『自然回復』するまでしばらく休息してろ」


「へ、へえ……」


 Aグループの者たちは疲れ果てたように地べたへヘタリこんだ。


 バタバタバタ……



 ところで。


 魔力の回復方法には、主に下の2種類がある。


◆1 魔鉱石の『第1用法』での回復


◆2 人間の『自然回復』による回復



 魔鉱石の第1用法とは、魔鉱石に含まれている魔力を人間が取り込んでしまう方法だ。


 これは魔力を一瞬で回復することができるけれども、しかし、使用した魔鉱石は消滅してしまう。


 そして、遠征に持って来た魔鉱石には限りがあるのだ。


 ので、緊急でない時は『自然回復』で魔力の回復をはかってもらうことになるが……


 一度切れた魔力が自然回復で全快するのには、おおよそ1時間がかかるのだった。


 つまり、Aグループが再出発できるのは、1時間後ということになる。



「領主さま、オラたちは?」


「ん?」


 そうこうしているとDグループが出発する時間だ。


「よし。頼むぜ」


 と、彼らの肩を叩いて森へ突入させようとするが、その時。



 ピシューん!……キラキラキラ☆



 Bグループが帰ってくる。


「りょ、領主さま……」


 このBグループは【大猿】と戦い、倒すことができないまま離脱魔法で逃げてきたとのこと。


 つまり、一匹もモンスターを倒せなかったってワケだ。


「ごめんなさいねえ。領主さま」


 と、いそ村の未亡人エリコさんが申し訳なさそうにしていた。




 そんな調子が続き、E、Fグループが潜入する頃に、C、Dグループが帰ってくるという具合であった。


 Cグループは【森のシャドー】にやられて一匹も倒せず、Dグループは【バター・ドッグ】を一匹倒したがアイテムはドロップしなかったらしい。


 しばらくするとE、Fグループも帰って来て、Fグループだけがアイテム【銅の鏡】を獲得してきた。



 ガヤガヤガヤ……



 こうして、全員いっぺんに潜入するはずが、みんなで森の前で休息状態になってしまう。


 そう。


 1戦だけで帰って来てしまうと、森へ入っている時間より、魔力回復の休息時間の方がずっと長いことになってしまうのだ。


 魔力が回復すればまた各グループ森へ潜入して行ったが、また1戦だけで帰ってくる。


 それすらも勝ったり負けたりだったのでなかなか効率があがらない。



 けっきょく。


 この1日目に倒せたモンスターは全体で6勝18匹。


 獲得アイテムは4つ。



 で、それを『ランティスの鍛冶屋』のリヴのところへ持っていくと……


「これなら……7万ボンドで引き取るよ。いいかい?」


 という具合だった。


 まあ、それくらいだろうな。


「今日はこの間よりずいぶん少ないんだねえ」


「……まあな」


 一昨日おとといは22万ボンドぶんのアイテムを獲得したのだから、今日ももう少し行くと思ったのだけれど……実際は7万ボンド。


 やっぱりこれまで村人だった者たちにとって、


『自分たちで判断して戦う』


 というのは難しいことなのか?



 船へ帰ると、


「今日使った回復薬などのアイテム費用はだいたい32万ボンドくらいだったッス」


 と、ガルシアからそう報告を受ける。



 うん。


 ようするに、『使ったアイテム』が-32万で、獲得アイテムが+7万だから、今日1日だと完全な赤字だ。



「……1日で35万ボンドの獲得アイテムがあれば採算が取れる?」


 と、五十嵐さんがひとりつぶやいたのがキッカケで、俺たちはまず『採算ライン=35万ボンド』を目標に置くことになった。




 ◇




 2日目。


 またル・モンドの森へA~F部隊が潜入して行く。


 この日もみんな1戦だけで満身創痍になってしまうのは変わらないのだけれど、『勝率』の方はよくなった。


 つまり、戦闘の回数はあまり増やすことはできなかったのだけれど、『けっきょく1匹も倒せないで逃げてくる』ということがなくなってきたのである。


 全体で1日通すと、22勝、60匹のモンスターを倒したので、13個のアイテムを獲得することになった。


 みんな少し『場所』にれてくれたのかな?


 この2日目のアイテム獲得は、昨日の≪7万ボンド≫から急増して≪24万ボンド≫になった。




 続いて。


 3日目の獲得アイテムは≪28万ボンド≫。


 4日目の獲得アイテムは≪30万ボンド≫。


 このままジワジワ伸びていけば、採算ラインの1日35万ボンドまですぐだと思われたが……


 5日目は≪26万ボンド≫と減ってしまったので、俺たちはにわかに先行きの不透明感にみまわれた。



「旦那。わかっているとは思うんスけど……。採算ラインの35万ボンドというのはあくまで1日単位の目安なんスからね」


「あ?」


「いいスか?1000万ボンドを1カ月後に支払ってもらわなければ、遠征を続けていくことはできないんスよ?つまり、『1カ月後にやっと1日単位の採算が取れるようになっている』では遅いってことッス」


「……わかってるよ」



 そんなふうに船室でガルシアから小言を言われている時、



 トントントン……


 と戸が叩かれるので開くと、坂東義太郎と部下3人の奥賀おうが組がそろってやってきていた。


「エイガ殿。お願いの儀があってござる」


「どうした?遠慮なく言ってよ」


「はっ。おそれながら申し上げます。その……実は。そろそろ我々も悶星モンスター退治に参加させてもらいたいのでござる」


「ああ、そっか……」


 奥賀おうがの領主も『自分たちでモンスターを倒せるようになりたい』ということで、彼らを預けてきたのだったしね。


 まあ。


 坂東義太郎は現状『戦闘力:679』まであるから、もう少し伸びたら戦闘に参加させてみてもイイかもしれない。


 しかし、山本ゴン吉さんは『戦闘力:34』、田中一太郎くんは『戦闘力:41』で、戦闘に加えられる見込みはないんだよなぁ。


 参考までに、ガルシアの戦闘力は現在76だから、彼らはケンカしたらガルシアにも負けるのだ。


 そして、西園寺カナ子は『戦闘力:?』ってなってるし。


 主要なステータスにプロテクトをかけているのだろう。


 妙なところで秘密主義な女である。


 顔も見せてくれないしね。


「……」


 そんなふうに俺が黙って考えていると、坂東義太郎は少し察したように論調を変えてきた。


「……まだ戦闘に加えていただけないとしても、我々もエイガ殿のお役に立ちたいのでござる。例えば、この西園寺は『敵情視察』が得意でござるよ」


「敵情視察?」


「つまりスパイでござる」



 瞬間ドキ!っとしたが、坂東義太郎は別に西園寺カナ子を『奥賀おうがに対するスパイ』というふうに見抜いているワケではなさそうだ。


 ここで言う『つまりスパイでござる』というのは、あくまで『奥賀おうがのためにスパイとしてつかえている』という意味なのだろう。


 つまり、西園寺カナ子は『奥賀おうがに対するスパイのために、奥賀おうがのためにスパイとしてつかえていることを演じている』のである。


 ややこしいな。



「すなわち。うちの西園寺は直接モンスターと戦うことはできなくとも、森での戦況を視察し、エイガ殿へ報告つかまつることはできるということでござる」


「なるほど……」


「西園寺。明日からそのようにエイガ殿のお役に立つでござるよ」


「かしこまりましたわ。坂東さま」


 西園寺カナ子は片膝をついてうやうやしく頭を下げた。




 ◇




 次の日。


 坂東義太郎の期待の目もあったので、彼の進言の通り西園寺カナ子に『森での戦況視察』をさせてみることにした。


 とは言え、俺は彼女が『奥賀おうがに対するスパイ』であることも知っていたので、あまり信用はしていなかったのだけれど……




「では。これにて、行ってまいりますわ」



 ドロン……



 って……え? 消えた?


 風呂での件もそうだけど、こーゆうイリュージョンな感じには底知れないものがあるな。



 で、領民たちを森へ送り出してしばらくした時。


「エイガどの」


「わ!ビックリした!!いつの間に!?」


「さっきからずっと後ろにおりましたわ。お気づきになりませんでしたの?オホホ」


 この女。


 なんかこの場に坂東義太郎がいないとちょっと挑発的になるよな。


 もう、この人スパイですって言いつけちゃおうかなぁ。



「で、森の戦況ってどれくらいわかるものなの?」


「ええ。Aグループは攻撃的魔法使いの攻撃タイミングが早すぎるようですわ。Bグループは矢や攻撃魔法がむしろエリコさんの槍の邪魔になっているようですの……」


 というように、『戦況報告』の方は意外と真面目だった。



 そして、内容的にまとを射てもいるようだ。


 各グループに西園寺カナ子の『戦況報告』に基づいた『修正ポイント』を指導すると、それまで一潜入につき一戦闘しかできなかったものが、次第に二回戦闘をこなして帰ってくるグループも出てきたのである。



 戦闘の回数が増えれば、倒せるモンスターが増える。


 倒すモンスターが増えれば、獲得アイテム数も増える。



 この6日目の獲得アイテムは≪31万ボンド≫になり、これまでの最高記録を更新した。



 で、次の日からも西園寺カナ子の報告を受け、辛抱強く『戦い方』を修正指導してゆく。



 すると、7日目の獲得アイテムは≪34万ボンド≫。


 そして、8日目の獲得アイテムは≪39万ボンド≫と、またジワジワ増え始めた。



「採算ラインを超えた!!」


 とりあえずの目標値を達成した8日目は、さすがにみんなで手をあげて喜んだ。


 貧乏が骨身に染みていた最近の暗い雰囲気に、明るい光が射しこむようである。



「この調子でいってもらえると自分も安心できるんスけどね……」


「まあ、ここで気を抜かないことだよな」


 しかし、コトは『この調子』だなんてワケにはいかなかった。



 9日目の獲得アイテムは≪57万ボンド≫


 10日目の獲得アイテムは≪91万ボンド≫



「ど、どうしちゃったんスか?」


「……うん」



 ここで俺は、たしかに『軌道に乗った』のを実感した。


 軌道に乗ったというのは、


(1)モンスターを倒す

(2)アイテムが手に入り、戦闘力が上がる

(3)より多くのモンスターを倒せるようになる

(4)より多くのアイテムが手に入り、また戦闘力が上がる

(5)もっとより多くのモンスターを倒せるようになる


 という上昇サイクルのことである。



 つまり、モンスターを倒すことは『アイテムの入手機会』になるとと共に、当然2倍の経験値獲得による『戦闘力の上昇』も引き起こしている。


 実際。


 10日目の時点で武闘家チヨの戦闘力は『5570』に達していたし、あの一番戦闘力が低かった漁師の少年でさえも『2768』にまで来ていた。


 こうして、ある程度のスピードを超えてモンスターを倒せるようになり、戦闘力の上昇とモンスター討伐数の上昇が軌道に乗りさえすれば、獲得アイテム数もかけ算式に伸びていく……。


 さらに、我々はそのサイクルを150人でやっているのだ。



 11日目の獲得アイテムは≪232万ボンド≫


 12日目の獲得アイテムは≪567万ボンド≫



「……けっきょく、コトは領民たち次第なんですね」


 と、五十嵐さんがつぶやいたが、まあ、そのとおりである。




 ただ、13日目の獲得アイテムがまた急激に伸びて


≪1437万ボンド≫


 に達したのには、さすがにもうひとつ大きな理由があった。


 それは、


【魔鉱石製の矢じり】


 の導入による新戦法である。





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