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【5章挿話A】 攻撃的ウィザード モリエ・ラクストレーム




 ええと、今日の『さくせん』だと……


 準・魔王級クエスト【亜竜トラリケプトス】への初撃は、ボクが担当なはずだ。



「モリエ、お願い」


 ティアナおねえちゃんがそう合図するので、ボクはうなづき、魔力エネルギーを爆発系へと変換し始める。



 チュイイイイイン…………バチバチ!バチバチ!



 かかげた手に最高レベル5の爆発魔法。



「えい!!……ファイナル・エクスプロジオン!!!!」



 こうしてせいいっぱいの気持ちを込めて叫ぶと、ボクの両手から魔法の大玉がすごい音を立てて飛んでゆく。


 ちゅどーん!!


「やった♪」


 トラリケプトスを中心に、ソテツの木にひそむ亜竜たちへ爆発魔法が大炸裂した。


 の、だけど……



 ギラリ☆


 ふいに、その爆発で起こった土埃つちぼこりの中からおどろおどろしいやいばが光る。


 中ボスの小型亜竜【アルバイトザウルス】だ。



 うそ? もうこんなに接近している個体がいるなんて!



 ヒュン! ヒュン!……



 小さいけれどすばしっこくて前足に鋭い鉤爪カギヅメがある。


 数も多い。



「きゃっ……!」


「下がって」


 ティアナねえちゃんはそう言ってボクの腕を引きながら、もう片方の手で守備的ディフェンス魔法を展開する。



 パああああああぁぁぁぁぁぁ……キラキラキラ☆☆☆



 グリーンの光で具現化された巨大な盾。


 鉤爪かぎづめの小型亜竜たちは守備的魔法ディフェンスに跳ね返されてのたうった。


 さすがティアナおねえちゃん!



「デリー、行くぞ」


 そのタイミングで、前衛組のクロスにいちゃんとデリー君が、飛行魔法ウォラートゥスで飛んで行く。



 ビシューン!


 ビシューン!!……



「おおおおおおおっ!!」


 クロスにいちゃんは勇者だから、雷を宿したつるぎで必殺技を繰り出した。


「っ!っ!っ!っ!……」


 デリー君はとっても力が強いので、大きな剣でひたすら亜竜の胴体をバシバシぶつ。



 グルルル……ぎゃオオオオオン!!!!!



 でも、亜竜トラリケプトスはおそろしいおたけびをあげて、その三本ツノで反撃してくるんだ。


 そう。


 凖・魔王級は一撃、ニ撃で倒せる相手じゃないから、ボクたちもダメージを受ける。


 とくに、いちばん近くで戦うデリー君はすぐにお腹をえぐられたり腕を折られたりして血だらけだから、エマが必死になってずーっと回復魔法をかけ続けていなきゃならない。



 ぎゃオ……ぎゃおおおん……



 こうして戦闘は続いたけれどやがて亜竜トラリケプトスは倒れ、キレーな光の玉になって飛び去っていったよ。




 ◇




 亜竜を倒すと、ボクたちはザハルベルトの宿屋さんへ帰った。



「じゃあ先輩、お疲れでーすw」


「っす……」


「……お疲れさま」


「ああ、お疲れ……」



 ロビーで解散すると、みんな疲れた顔でそれぞれの部屋へ散ってゆく。



「……お疲れ様、かぁ」


 なんだか、仕事みたいだなぁ……。


 しばらくみんなの背中を見つめてから、ボクも自分の部屋へ向かった。



 ガチャリ……


 ドアを開けると、ぽいっとキーを放る。


 ガラスのホルダーが大理石の机の盤面で硬そうな音を立てると、あとに残された静寂がまるで氷のようだ。



 ……いつからだろう。


 クエストが終わってからみんなバラバラに部屋へ帰っちゃうようになったのは。


 1年くらい前までは必ず『反省会』やってたのに。


 お師匠の部屋へクロスにいちゃんがいっぱいお菓子を持って行ってさ。


 反省会だからってティアナおねえちゃんが本当に真面目に『今日の反省点』なんかあげて笑ったりしたよなぁ。


 それでエマが憎まれ口を叩いて師匠に怒られたり、デリー君はあんまりしゃべらない人だけどみんなが笑っているのを見てニッコリ微笑んでいるんだ。


 ……でも、それが『楽しいコト』だって、その時は全然意識してなかったのは不思議なことだよね。



 まあ、一回抜け出して戻ってきたボクは、文句の言える立場じゃあないんだけどさ。



「はぁ……」


 そんなふうにため息をついた時だった。



 フっと、人の気配……


 誰かいる!?


 ハっと振り返ると、ボクのベッドがこんもり盛り上がっているのに気づく。


「誰だ!?」


 と、声をあげても返事がない。


「出てこい!! えいっ!」


 それで、バッとお布団ふとんをめくってみると……


 ベッドの中には、銀髪の美しい女性ひとが長いまつげを閉じて寝ていた。


「くぅ、くぅ……zzzz」


 世界1位の女、銀髪の魔法剣士グリコ・フォンタニエだ。



 どうやって入ったんだろう?


 この部屋、オートロックなのに。



 ガシ!……


 そんなふうに考えているとふいに手首をつかまれ、ボクはものすごい力でベッドへ引きずり込まれてしまった。



「きゃ!!」


 チュッ♡チュッ♡チュッ♡


「ヤっ!……ヤメてっ!!」


「もフー!もフー!……おとなしくしろ!んー♡♡♡」


 オオカミのように襲いかかってくるビキニ・アーマー。


「むー♡むー♡……ぷへぇ……はぁはぁ……。もう!キスはイイけど唇はヤメてって言ってるでしょ!」


「はっ!!」


「まったく……」


「すまない、寝ぼけていたんだ。嫌いにならないで(汗)」


 ボクが叱ると、シュンとするグリコ・フォンタニエ。


 ちょっと可哀想になったので、ボクはグリコのおでこへおでこをコツンとぶつけると、ほっぺへチュっチュっと2つキスをしてあげた。


「……少年♡」


 グリコはボクのことをいまだにそう呼ぶ。


 そんなふうに呼ばれると自分が本当に男の子になっちゃったような気がして、ちょっと胸がドキドキするけど……


 でも、こう見えてボクはノーマルな15歳の女の子なんだよ?


 恋愛的にはフツーに男の人が好きだし、ましてや『女の人と結婚しよう』なんて全然思わない。



 けれど、やっぱり女の人でも醜いより美しい女性ひとの方がずっと好きなのは確かだ。


 とくに髪がきれいで、イイ匂いがして、いっぱい愛してくれる女性ひとに甘えるのは大好きだった。



 ゴソゴソゴソ……


 ボクはお布団にもぐって、グリコ・フォンタニエの身体からだへギュっと抱き着く。


 ビキニ・アーマで露出した太もも、腕、肩、腹筋……


 筋肉でパンパンに張っていて、肌がすべすべして気持ちがイイ。


「♪」


 グリコは嬉しそうにして、ボクの髪をなでた。


 肌と肌の触れるのが嬉しくて、お布団ふとんに移った体温がぬくい。


 ふと、窓から都会のネオンがし込むのが目に入ると、このベッドだけが世界から擁護された最後の巣のように思われて、なんだか胸がキュン……っと悲しくなってくる。



「どうした?少年」


「ん……んーん」


 涙がグリコの腹筋へしたって、泣いているのがバレちゃった。


「パーティの冒険がうまく行かないのか?」


「それは順調だよ。今日は準・魔王級を倒してきたんだ」


「魔法が上達しないとか?」


「最近また新しい呪文をおぼえた」


「じゃあ一体どうしたんだ?」


「なんでもない……。なんとなく、そーゆう気分なの」


「……そうか」



 ボクはただ、なにか美しいことや楽しいことがあっても、時間がたてばぜんぶ消えてなくなっちゃうってコトが切なくてたまらなかったのだけど……大人にそんなことを言ってもきっと笑われるだけだと思って、ただ黙って泣いてしまうことにした。


 別にイイだろ?


 だってボク、女の子だもん。



 涙は目の前の鼻梁を斜めにつたい、美しい女性ひとの腹筋へ熱くしたった。




 ◇



 一週間後。


 ティアナおねえちゃんが、


「モリエ、あなた……いいかげん白のブリーフ・パンツだけはヤメるべきだと思うの」


 とうるさいので、その日はザハルベルトで一番のデパートへお買物へ行くことになっていた。




「だからごめんね、グリコ。ボクもう行かないと」


 一度部屋へ戻り、あれからずっとボクの部屋に泊まっていたグリコにそう告げる。


「し、白のブリーフ……??」


「なに?」


「いや、なんでもない。わかった」


「うん。またね」


 そう言って部屋を出ていこうと振り返った時だ。


 ズル……!!


「え?」


 急にお尻のあたりがスっと涼しくなったので下を見ると、半ズボンが膝まで下げられて、ボクの白いブリーフが丸見えになっていた。


 グリコがボクのズボンを勝手に下ろしたんだ!


「きゃ!」


 ボクはあわててブラウスのすそをキュウ!っと太ももの間に抑えてパンツを隠す。


「グリコのエッチ!!なにするの!」


「ほ、ほんとうに白ブリーフ……」


「なんだよ!別にイイだろ」


「いや、それはさすがにマズイんじゃあないか?女の子なのに……」


 うう……。


 小さいころお兄ちゃんのお下がり穿かされてたからパンツってこういうものだと思ってたけど、やっぱおかしいのかな……。


「……もう!グリコなんて知らない!」


「あ、おい……」


 バタン……!!


 ボクは半ズボンのボタンをいそいそと閉じながら部屋を飛び出る。


「まったく……」


 ぷんすか怒りながら廊下を行くボク。


 ほんとグリコってデリカシーがないから困っちゃうよ!!



 ツカツカツカ……



 さて。


 ロビーへ降りるとティアナおねえちゃんがソファで本を読みながらボクを待っていた。


 今日はレエスのたっぷりついた水色のワンピース。


 その読書する背中を、三つ編が華やかな黄金ブロンドで彩っている。



 うん。やっぱり甘えるならこういう清楚な女性ひとがいいよね♪


 そう思って駆け出そうとした時……



「ティアナ。ちょっといいか?」


 ちょうどクロスにいちゃんが現れて、ティアナおねえちゃんへ声をかけるところだった。


 いけない……。


 ボクは思わず足を止めて、ロビーの大柱へサッと身を隠す。



「クロス。どうしたの?」


「うん。もしよかったらコレ、一緒に行けたらと思って」


 そう言って、クロスにいちゃんは細長いぴらぴらした紙を2枚差し出した。


「もしかして……活動写真えいがのチケット?」


「ああ」


 活動写真えいがって、前にお師匠が話してくれたやつだ。


 たしか、絵や写真が動くとかなんとか。


 まだ世界でザハルベルトでしかやれない魔法技術なんだ、って……。


「ティアナ。活動えいが行きたいって言ってただろ?」


「え、ええ……」


「モリエも戻ってきてくれたし、準・魔王級のクエストが成功したんだ。少しくらい羽を伸ばしてもいいんじゃないか?」


「でも……」


「今日はギルドへの用事もないし」


「そうね……。でも、そうじゃないの」


「そうじゃ、ない?」


「あ、あのね……クロス。あなたがずっと言ってくれてることだけど……」


「オレがずっと言ってること?」


「ええ」


 そこでティアナおねえちゃんは、膝に開いていた本をパタリと閉じた。


 そして、青い瞳を真剣にクロスにいちゃんへ向ける。


「このさいだから、はっきり答えておくべきだと思うの。あのね……」



 うん。


 そうだね、ティアナおねえちゃん。


 それは言いづらくても、いつか言わなきゃいけないことだ。


 クロスにいちゃんの気持ちを大切に思うなら、むしろちゃんと回答してあげなきゃいけないこと。



「クロス。私……あなたとは付き合えない」


「!……」



 その時。


 ロビーではピアノ弾きが演奏を始める。


 三拍子の、子犬のはしゃぎ回るような楽しげなワルツだった。



「……他に好きなヤツがいるのか?」


 しばらくしてクロスにいちゃんがたずねる。


「そ……」


 ティアナおねえちゃんは息を詰まらせるようにしてから、


「そうじゃないの」


 と答えた。


「私、もう誰とも付き合うつもりはないのよ」


「それはこの前も聞いたよ。今はクエストのことを第一にって」


「違うの。そうじゃなくて……」


「まあ聞けって。ティアナ、お前は責任感が強いからさ。今はザハルベルトに来たばかりで思い詰めてるだけなんだよ。でも、時間がたてばきっとそんな孤立的な考えはどっか行っちまうに決まってるんだ。だって……人は愛なしで生きては行けないんだからな」


 クロスにいちゃんはそーゆう恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言うところがあった。


「でも……」


「でもじゃない!」


「っ……」


 そこでティアナおねえちゃんはとうとうくじけたように自分の肩へほほを乗せて、


「ええ、そうね……」


 とだけ呟いた。



 ピアノだけはあいかわらず楽しげだったけれど、ちょうどその音が止む時。


「おーい。やっぱり私も買物、連れていってくれ」


 グリコ・フォンタニエが走ってきて、柱に隠れていたボクへ声をかけた。


 ロビーの男女の視線がこちらへ向くのを感じる。


「……グリコ。何か欲しいものでもあるの?」


「春物の新作ビキニ・アーマーを見たいと思っていたんだ」


 あいかわらずだなあ。


「いいけど。ボクとティアナの邪魔しないでよね」


 そんなふうにしゃべっているとクロスにいちゃんがため息をついて言った。


「なんだ。モリエと買物へいく予定だったのか。それじゃあ仕方ないな」


「……ええ。ごめんなさい」


 ティアナおねえちゃんはもどかしげに席をたつと、ボクたち女性陣の方へ歩いてくる。


「さ、いきましょう」


 その、金髪ブロンドを耳へかけて微笑む顔があんまり綺麗で、なんだか消えちゃいそうだとボクは思った。







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