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第29話 C級ライセンス

 ガサ、ゴソ……



 冒険者ギルド総本部から送られてきた封筒。


 こいつをさぐると、


【冒険パーティC級ライセンス】


 が入っていた。



 ライセンスは手のひら大のカードで、次のように記載されている。



≪≪≪≪≪


◇◆冒険パーティC級ライセンス◇◆


パーティ名: 遠雲とくも


通称: エイガの領地


リーダー: エイガ・ジャニエス


ランク: C級


ID: *******


≫≫≫≫≫



 パーティ名は俺自身がギルドへ申請した通りだ。


 通称は……エイガの領地?


 へえ、もうこんな呼ばれ方をしているんだな。



 そして、ランクC級というのは、言わば『初級』ということ。


 B級が中級、A級が上級、そしてS級が『対・魔王級』のランクだ。


 S級になると、ザハルベルトの【冒険者ギルド総本部】で、魔王級を含めてクエストを割り振ってもらえるというワケ。


 だが……まあ、今のところそんな上の話をしていても仕方ない。



 さしあたって。


 俺がこの【C級ライセンス】を保持していると何がイイのか?


 その特権は2つ。


特権1 冒険者ギルドから、依頼者クライアントありのクエストを割り振ってもらえる


特権2 世界各地の【C級クエスト区域】への立ち入りを許可される


 である。



 特権2の【クエスト区域】というのは、たとえば特定の『森』や『ダンジョン』『塔』『遺跡』など、


≪特にモンスターが頻出する区域≫


 とギルドが指定した場所のことである。



 まあ、そーゆう場所ではあまり人間社会も発達しないから、依頼者クライアントも生じないことも多い。


 依頼者クライアントがいなければ褒賞は得られないけれど、モンスターを倒して戦闘能力を上げたり、トレジャー・ハントでアイテムを獲得したりするのには、この【クエスト区域】を探索するのが最適だったりするワケ。


 ちょうど、遠雲とくもの『領地の西側』に近い存在だな。


 でも、とりあえずはもう少し強いモンスターが出て、アイテムなんかも獲得できる【C級クエスト区域】へ領民150人部隊を連れていきたいな……


 と、そんなふうに俺は考えているのだった。



 ◇



 一週間後。



 奥賀おうがから船が来た。


 大猿討伐のお礼としてリースしてくれることになっていた遠征用の船である。


 木造の帆船はんせんだが、それがまた海の青に映えて綺麗だ。



「やあ。エイガ殿。あっぱれあっぱれ」


 で、船のついでと言ってはなんだが、奥賀の領主も直々にいらっしゃった。


「このたびは海外へ進出なさるそうで、激励にあがらねばなるまいと思いましてな」


 あいかわらずへんなヘアー・スタイルだったが、やはり友好的で感じのイイ人である。


「ありがとうございます。この3隻の船は遠慮なく使わせていただきますよ」


「ほっほっほ。しかし、エイガ殿は船の操舵などに通じておられぬでしょうから、しばらくの家臣をお使いください。ほれ、義太郎」


 そう奥賀の領主が声をかけると、後ろに控えていた男が一歩前に出て、


「エイガどの。その節は大変おせわになってござる」


 と中腰で頭を下げた。



 ああ。最初に遠雲を訪ねて来て、奥賀まで案内してくれた若者だ。


 あいかわらず洗練された動きをしている。


「このサムライ大将の坂東義太郎と、こやつの部下3名をエイガ殿へお預け申す。みな船や水夫たちの扱いは一通り学んでおりますのできっとお役に立ちましょう」


「本当にいいんですか?」


「ほっほっほ。実は今度のことで我々奥賀も『ぜひ自分たちで悶星モンスターを倒せるようになりたい』という声が高まりましてな。エイガ殿に守ってもらってばかりでは、サムライとしてあまりに情けない。そこで、彼らをあっぱれ育成してもらえたら……という目論もくろみもあるのです」


 なるほど。


 やっぱり、この人は帝都の大臣と似た考えをするな。


「そういうことであれば、ありがたくお預かりいたします」


 と、俺は頭を下げた。




 さて。


 領民たちには出発は明日と言ってあるので、その日は奥賀の領主をやかたへ招いて泊まってもらうことにする。


「ささっ、こちらへ」


「かたじけない。ん?……これは!」


 そこで奥賀の領主は、机の上に積んであった魔鉱石を見て感嘆するのだった。


 うん。狙い通りだ。


「ああコレ、ウチの領地で採れたんですよ」


「おお!!なんともあっぱれなことですな!」


「まだハッキリとは申し上げられないのですが、採掘量によっては奥賀へ魔鉱石を回すこともできるかもしれませんね」


「ほ、本当ですかな?」


「ええ。ですから……貴領もこれからは【汽船】を造ってみませんか?あれだけのドックがあるのですから、きっとうまく行きます」


「ううむ……」


 ところが、奥賀の領主はそのまま黙ってしまった。


「?……魔鉱石があれば汽船を動かせるでしょう」


「しかし、まだ技術的な問題もありますでな」


「造ってみなければ技術は育たないのでは?」


「それに汽船を造るには金属が足りないという問題も……」



 喜んでくれると思ったのだが、意外にも汽船造りには慎重な奥賀の領主。


 まあ、あんまり急にゴリ押ししても気分を害されると思い、今日のところはここまでで止めておいた。




 ◇




 翌日、早朝。



 外はまだ暗く、奥賀の領主とお供の者たちはまだ起きて来ない。


 しかし、俺とガルシアと五十嵐さんはもう居間で遠征について話し合っていた。


 いよいよ今日出発ということで、みんな早く起きちゃったみたいである。



「とにかく今回の遠征は領民の育成が第一の目的だけど、経済的な意味もあるな」


「汽船の話っスね!」


 昨日の話を聞いていたガルシアはその点ピンと来たようだ。


 たしかに。奥賀に汽船を造ってもらえるように、できれば技術や金属の入手経路も確保したいところではある。


「うん。それに……そろそろ冒険で『採算』を取っていきたいんだ」


「採算っスか?」


「五十嵐さん、俺の財産ってあとどれだけになってる?」


「……267万3820ボンドと27万両です」


 そう。


 これでは黄鶴楼一晩分もままならない。


 今回の遠征準備でまたカネが減ってしまって、もう外貨がなくなってしまいそうなのだ。


「遠征そのものでもまたカネは減るだろうから、そうなりゃ、いよいよガルシアの言うとおり魔鉱石を売ってカネにするしかねーけどさ……」


 さて、そんなふうにボヤいていたとき。


 チリリン♪チリン♪


 こんな陽も昇らぬ早朝に、玄関の呼鈴よびりんが鳴る。


「はーい!」


 自ら玄関へ出向くと、


「領主さま!!おはよ!」


 と元気な挨拶が聞かれた。



 チヨが『木村』の面々を率いてやかたにやってきたのだ。


 からの荷車は新調したようで真新しい。



「おお。早かったな」


「うん!ウチ、なんだかワクワクしちゃって、眠れなくってさ」


 そう言って切なくなるほど健康的に笑うチヨ。


「じゃあガルシア、五十嵐さん。奥賀の領主が起きたら港まで案内して差し上げて。俺たちも港で合流しよう」


「……はい」


「はいっス」


 そう言って、俺の方は物置へ回り、今回の遠征の『もちもの』を荷車へと積んでゆく。


 みんなの装備、飲み水、酒、穀物、鍋、魔鉱石、アイテム諸々……。


 もちものはかなりの量になるから、荷車で船へ運んでおかなければならないのだ。



 どすん……ガチャン!……どすどす



「これでイイかい?」


「はぁ、はぁ、はぁ……ああ、頼むよ」


 そう息を切らせつつ、俺は俺で黒王丸を引いていく。


 ヒヒーン!……



 目の前の荷車は、まだ薄暗い朝をまるで引っ越しでもするように進んで行った。


 季節はもう晩秋で、陽はまだ昇りきらない。


 気温は少し肌寒いくらいだ。


 ようやくほのめきだした東雲しののめの幻想的なが、チヨのふんどしの尻をおごそかな紫に染め始める。



 ガラガラガラ……



 こうして港へ着き、船へ荷を積み入れてからチヨとメシを炊き、朝飯を食べていると、ポツリポツリと領民が集まってくる。


 遠征へ向かう150人部隊と、激励に駆けつけた人々だ。


 各村の長、各家々の者たちは自分のところの若者を期待の眼差まなざしで見つめ、女子は部隊に選抜されたよその村の男たちについて論評しあっている。



 ざわざわ……ざわ、ざわざわ



 次第に人は増え、ようやくガルシアと五十嵐さんが奥賀の領主を連れてやってくる頃には、いつも閑散としているあの港に数百人の人々が集まっていた。


 まるで祭でも始まるかのようである。



「よし!それじゃあ行こうぜ!!」


 と俺が号令すると、150人はめいめい船へと乗り込む。


 俺とガルシアと五十嵐さんは、坂東義太郎の操舵する船へ乗り込んだ。


 残りの2隻はその部下が操舵する。


 また、それぞれの船には数人の奥賀の水夫が着いていて、彼らによって帆はいっせいに開らかれた。


 帆は白く、青空に花が咲いたみたいだ。



 ワーワー!ワーワー!



 船が港から離れる。


 振り向けば、送る者たちの振る無数の旗がまるで波のように見えた。



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