第22話 帰国後の領地
「よし、行こうぜ」
俺は館を出ると、黒王丸を引きつつガルシアに言った。
「旦那ぁ。自分も黒王丸に乗せてくださいっス」
ヒヒーン!!……
「うーん……。俺も乗せてやりたいのは山々なんだがな。コイツ、俺以外には女性にしか背中を許さねえんだよ」
「そんなー」
なさけない声をあげるガルシア。
しかし、さすがに人の脚で馬について来いというのは可哀想だ。
中村の長者のところで一頭馬を借りられないかお願いしてみよう。
トコトコトコ……
こうして久しぶりに『中村』へやって来ると、田んぼは9割方の区域で刈り取りが済み、黄土色の土肌を晒していた。
一方、まだ刈り取りの済んでいない一部区域でだけ稲穂のずっしり栄えている様子が、かえって秋めいてきた空に寂しげである。
「どうぞどうぞ。こちらでよろしければ」
長者は、こころよくガルシアに白い馬を貸してくれた。
「すみませんねえ」
「いえいえ。今日だけとは言わず、いつでも借りに来てください」
「え?いいんスか?」
と調子に乗るガルシア。
この長者には世話になってるから、またなにかでお返しを考えておかないとな。
「さ、行きましょうっス」
「ちょい待ち。ここまで来たんだから、ついでに神社へ行っておこう」
長く留守にしていたのだから、吉岡家にも「今帰った」旨伝えておこうと思ったのである。
「ああ、よかった。秋祭に間に合うよう帰ってきていただいて」
十蔵はホッと胸をなでおろすように、俺の帰りを喜んでくれた。
「まあ、一応俺もここの領主だからな」
「明日最後の刈り取りをしますので、祭は明後日になりますで」
そう考えると、けっこうギリギリだったんだな。
「ところで、将平は?」
「また『領地の西側』へ行っとりますわ」
どうやら頼んでおいた件、取り組んでくれているらしい。
「じゃあ俺たちも行ってみるか」
「そっスねー」
パカラッ!パカラッ!パカラッ!……
俺たちは馬を2頭ならべて『領地の西側』へ向かう。
と言っても、今は領民によるモンスター退治はおやすみ中だ。
これから用があるのは、母山の岩場にあいていた『穴』についてである。
「旦那。本当に『領地の西側』に【魔鉱石】が埋まってんスかぁ?」
「可能性はあると思うんだよ」
「でも、『山村』の魔鉱石は枯れちゃってたんスよね?」
「うん。ただ、ナツメのばあさんの話だと、ばあさんが子供の頃にはもう西側のモンスターたちはあそこに跋扈していたらしいんだ。ってことは、西側の魔鉱石採掘はモンスターの出現によって断念されて、それで『山村』の方で採掘が集中した……って歴史ストーリーが想像できるワケじゃん」
「それ、領地の西側で魔鉱石が枯れちゃったから山村での採掘が始まって、そのあとにモンスターが出現した……って可能性もあるっスけどね」
「まぁな。だけど、どっちかはわからないんだから、コストを費やす価値はあるだろ?」
「そりゃまちがいないっス」
そんなふうに馬上で話していると、例の『穴』へとたどり着いた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
昼なのに夜よりも黒く、ぽっかり空いた穴。
その前に、対モンスター用の護衛が3人と、吉岡将平が立っている。
将平は、白い紙を折って棒につけた聖っぽい道具を振り、なにやら低い唸り声をあげていた。
「やあ。調子はどうだ?」
「領主……。アキラはあっちですよ」
将平が顎で方向を指すと、そちらにはまた別の穴があった。
「どういうこと?」
「アイツに言わせるとこの穴は坑道が雑で危険なんだそうです。だから別の穴を掘って、横穴から調査するって」
なるほど。
さすがアキラだ。
「でも、その『坑道が雑』って話って……この穴に『いる』のと関係あるんじゃ」
「うっ!……そりゃあ、そうでしょうね」
と言って、また将平は顔を青ざめる。
「ま、まあ。アキラにそういう意味での危険が及ばないよう頼むよ」
「ああ……」
そう答えると、将平はまた白紙のついた棒をはらはら振り、低い唸り声を上げ始めた。
俺は将平の『地鎮』と『霊能力』の才能を信頼することにして、アキラが掘っているという方の穴をのぞきこんだ。
カンカンカン!……カーン!!
ハンマーで『くさび』を打ち込む金属音が、岩壁に跳ね返って響いてくる。
「おーい!アキラ!!」
「あ!!……」
穴の奥から声がして、しばらくすると暗がりからランタンに照らされた笑顔が現れる。
「ご苦労さん。差し入れだぜ」
「でへ……でへへへ」
肩を叩きながら労をねぎらうと、アキラはうまく言葉を見つけることができない様子ながらも、嬉しそうに笑っていた。
そう言えば、前に一応ガルシアへマークしていた育成スキル【レシーバー】は、すでにアキラへと移してある。
「自分も、計算とか早くなった気がしてたんスけどねー」
とガルシアは言うけれど、まあ、コイツに期待しているのは別にスキルとかじゃねーから、さしあたって経験値が転送されなくても問題ないだろう。
つまり整理すると。
今のところ経験値転送スキル【レシーバー】をマークしている3枠は、
1 【生産者】のイサオさん
2 【霊能力者】の吉岡将平
3 【掘削者】のアキラ
ということになる。
現状、非・戦闘員であっても、彼らにだけは戦闘で得た経験値が転送されて行くというワケだ。
「ほら。酒と缶詰だぜ」
と言いつつ、俺は酒瓶とオイル・サーディンをアキラへ差し出した。
ねぎらう意味もあるけれど、アキラは酒が入ると少し喋れるようになるから、それを期待しての差し入れでもある。
ぐびっ、ぐびび……
「石は……ま、まだ、見つからねえ」
顔が赤らむと、アキラはポツリとそう言った。
「で、でも!必ず見つけるから、つ、続けさしてくれ」
「まあ、そんな気負うなって。ひょっとしたら、もう無いのかもしれないしな」
「お、おで、おで……今、楽しいんだ。やってること、お、同じなのに。だから」
「……そうか」
俺も見つけてもらいたいし、見つけさせてやりたいものでもある。
「まあ、まだ調査は始まったばかりだ。引き続きがんばってくれよ」
「おっ……お、おおっ」
それに、アキラへ【レシーバー】をマークしてからはまだあまりモンスターを倒していない。
転送されている経験値が増えて行くにしたがって、【掘削者】としての新たなスキルを身に付けていってくれることも、期待できるんじゃないかな。
◇
暑さもだいぶ引いてきた時節ではあるけれども、ひさしぶりに極東の湿気にあてられてひどく汗をかいた。
館に帰ってくる頃にはまた着替えが必要な感じだったから、せっかくなので風呂に入ろうと思う。
「ふー。やれやれ……」
上着を脱ごうとジャケットの襟を掴むと、すぐに後ろから五十嵐さんがサポートしてくれた。
「あっ。ありがとう♪」
さすがに優秀な秘書。
上品な手つきでするりと上着を脱がしてくれる五十嵐さん。
「……」
「……なぁに?」
そこで五十嵐さんは珍しく黒曜石のような黒の瞳を少し上方へ悩ませてから、すぐに例の鋭い目つきに戻り俺をギロっと睨んで言った。
「私にしますか?……」
一択かよ。
「お……お風呂にしておくよ」
お嫁さんのスキルにしても半分しかマスターされていないぞ。
「タリラリラーン♪」
俺は五十嵐さんのセクハラを華麗に躱すと、てってと浴場へ向かった。
ちゃぷん……
「ふぅ。やれやれ」
館の風呂は海側のテラスにあり、眼前にはオーシャン・ヴューが広がっている。
こいつはマジで最高だぜ。
風呂は適度に熱く、景色は爽快で、長旅後にすぐ領地を駆けまわった疲れがフっ飛ぶようだ。
「うぃー……」
さて、そんなふうにわざとジジむさく唸ってみたときのこと。
ふいに、あの海の向こうの空に何かがポツンと飛んでいるのが目に入った。
次第に大きくなってくる。
こちらに向かってきているようだ。
「なんだアレ?」
最初は鳥かなと思った。
でも、近寄ってくるにつれて色の派手さが見て取れてきたので、もしかしたらドラゴンか?……などと警戒したのだけど、それも違う。
キイイイイーン!!……
なんと!それは『人』だった!
そして、世界広しと言えど、そんな登場の仕方が可能な『人』はそれほど多くはない。
あれはパーティを組まずにクエストをこなすからこそ、世界中を飛行魔法【ウォラートゥス】でひとり飛び回ることのできる最強の女……。
ブオオオン!!……ぱしゃぱしゃぱしゃっ
ふいの突風。
波紋を描く風呂の水面。
俺は反射的に目を閉じる。
「やあ!エイガ・ジャニエス!遊びにきてやったぞ!!」
溌剌とした声がして目を開けば、胸を張って浴槽のふちに立つビキニアーマーの女がひとり……。
そう。
世界1位の女。魔法剣士グリコ・フォンタニエである。





