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第18話 戦果



 ヒヒーン!



 俺はつるぎで【大猿】をけん制しつつ、まずは黒王丸こくおうまるを逃がしとこうと思った。


 この馬はまだ戦闘力794だしね。



 グオオオオ……



 しかし、大猿はむしろ馬の方を追おうとする。


 なんでだよ!


 そう苛立いらだって、俺は敵の進路をふさごうと飛び出していった。


「黒王丸!!」


 だが、その時。



 カッ!!


 大猿の大口が光ったかと思えば、そこから唐突に魔力エネルギーの塊が放出される。



 け……っ……ダメだ。けたら黒王丸に当たる。



 ぼクぅぅぅっ!!……



 そうこう考えていると、大猿の魔法エネルギー砲が、俺の左肩に着弾した。


「うっ!!……」


 肩肉に、鉛を残したような痛みが走る。



 くそ……。


 俺は弱えなぁ。


 と、少し気が滅入った。



 クロスなら絶対にもっとうまくやる。


 いや。


 今さら大猿相手にダメージを喰うヤツなんて、あの勇者パーティにひとりもいねーよな。



「……キラドン」


 俺はため息をついて、初級モンスター相手に中級攻撃魔法を唱えた。


 大猿は今まで中級攻撃魔法なんて見たことがなかったのだろう。


 その火力に、赤い瞳を恐れおののかせ、直撃を喰らってしまう。



 グオオオオ……


 炎に悶え苦しむ大猿。


 ただ、初級とは言えボスなのでタフだ。


 まだ立っていやがった。



 俺はとどめに、ヤツの弱点――眉間へ向かってつるぎを一閃する。



 ピシュ!!……



「すまねーな」


 そうつぶやくと【大猿】は光輝く魔力のかたまりとなって、山の空へと霧散していった。




 ◇




 俺が大猿を倒す頃には、中猿たちの討伐もあらかたすんでいた。



 ボス討伐の『ボーナス』は俺に降り注いでしまうのだけど(そして、俺自身には【祝福の奏】の効力は無いのだけれど)、通常の経験値は75名みんなに降り注ぐ。


 また、中猿の経験値も『領地の西側』のモンスターより経験値が高いし【祝福の奏】で2倍化されているのでバカにならない。


 武闘家娘のチヨは戦闘力1568に達していたし、選抜25名を中心に続々と戦闘力1000を超え始めていた。



 みんなが新たに覚えてくれた『魔法』について。


 まず、まだひとつも魔法を覚えていなかった攻撃系の魔法使いも、この闘いで【キラ】や【ヨルド】を覚えた者も多い。


 また、支援系魔導士の1人が、全体攻撃支援魔法【チアー】を覚えてくれた。



 それから、実戦的なところを見ると『射手しゃしゅ』の可能性が見て取れた闘いでもあった。


 射手しゃしゅは、山で実際に狩りをしていたおじさんと、海女あまをしていた少女のコンビである。


 ふたりとも今回は『弓』と、おじさんの方は時にマスケット銃のような一発籠めの銃を使用していた。


 射手しゃしゅの攻撃力そのものは決して高くはないけれど、その『的確な援護射撃』が前衛剣士たちの闘いをずいぶんと楽にしていたように見える。



 そして、弓や銃は、今のところ他の魔法攻撃よりも【射程距離】が長いのだ。




「船のことなんスけど」


 と帰り道でガルシアからの説明を受ける。


「50人乗りの船3隻を用意してくれることになったッス。最初は乗組員も合わせて派遣してくれるらしいっスよ」


「いいじゃん!よくやった」


「でも……今すぐってワケにはいかないみたいっスね。早くても数ヵ月は無理みたいッス」


「向こうも注文があるだろうからな……。まあ、ちょうどいいさ。夏が終われば収穫の準備だし、どっちみちしばらく遠征なんて無理だ。闘いだけじゃなくて【領地】にはやることはたくさんあるしな」


「そっスねー」


 そう。


 やることはたくさんあった。



 この時、俺が思っていた以上に……。




 ◇




 領地に帰ってくると、変化が2つあった。


 ひとつは、とうとう俺のやかたが完成したということだ!


「おー!すげーイイじゃん!!」


「へへへ、ありがとうごぜえます」


 褒めてやると、大工の棟梁とうりょうが頭をかく。



 それにしてもやかたの本館にはいろいろと注文を付けてしまったものだ。



 というのは、そもそも極東の建築様式は、基本的に靴を脱ぐようにできている。


 それはそれで、帝都の宮殿や、奥賀おうがの城のようにすばらしいものはあるのだけれど、普段自分が暮らすところがそれだとちょっと気疲れがすると思ったのだった。


 まあ、それはしょうがないというか当たり前のことである。


 れてない生活様式なんだからな。


 だから、俺のやかたの本館は、靴であがり、絨毯を敷き、テーブルと椅子を置いて、寝室にはベッドを置く……という子供の時かられた様式にしたかった。


 で、そこらへん事細かに説明し、そのようにお願いしておいたのだ。



 そんな困難な注文に大工の棟梁は見事に応えてくれた。


 天井は高く、2階建てで、玄関には吹き抜けのスペースがある。


 まだ家具などが足りないけれど、これでシャンデリアをかけ、テーブルをしつらえ、ベッドを置けば、ずいぶん『領主様』らしいやかたになるだろう。


 さしあたって、マリンレーベルで買っておいたティー・セットや食器、香料などがようやく役に立つというもの。



 さらには、川の水から配管し【風呂】や【シャワー】まで作ってもらったので、南の海を眼前に、湯に浸かりながらオーシャン・ヴューを楽しむことすらできた。



 ただ……


「ちょっと広すぎたかな」


「そのようなことはありません」


 と五十嵐さんは言うけれど、このガラガラ感。


 こんなに広いのに、やかたに住んでいるのは『俺』と『ガルシア』と『五十嵐さん』だけなのだから、部屋があまって仕方なく、新築なのにオバケでもでるんじゃないかとすら思われる。


 うん。


 もうちょっと人を増やしたいね。




 そしてもうひとつの変化は、五十嵐さんのご実家の様子だ。


 ふさぁ……


 なんとイサオさんの髪がフサフサしているのである!


(まあ、さすがに後頭部を中心にではあるけれど)


 これは育成スキル【レシーバー】の効力によって、大猿戦で獲得した経験値がちゃんとイサオさんへ転送された証拠だ。



「領主様。最近気づいたのですがのう……」


 そして、フサってきた後頭部に心の余裕ができたからであろうか。


「この力……作物の種をかけ合わせるのにも使えるかもしれんですの」


 と、ようやくそこに気づいてくれたのだった。


 やれやれ。


 


 ◇




 育成スキル【レシーバー】をマークしていたのは、イサオさんと一応のガルシア、そして吉岡将平だった。


 俺はその将平を連れて『領地の西側』の北側『母山』へ行く。


 と言うのは、先日ナツメのばあさんと行った【穴】が気になっていたからだ。



 吉岡将平の『地鎮じちん』の能力を持ってすれば、あの穴についても何かわかるのではないかと思ったのである。


 しかし……


「この穴を調べることはできない」


 と彼は言う。



「工事してもダメか?」


「工事によって崩れるリスクがある。崩すことを前提に工事することもできるが、もしこの穴の目的が遺跡や化石の発掘などだったらおジャンですね」


 というワケで、【穴】についてはやはり判然しないようだった。



 だが、大猿討伐の経験値転送によって、吉岡将平の能力があがっているらしいことは確かめられた。


「し、しかし領主様……今日のところはここを早く出ましょう」


 と言うのも、彼の潜在職性は【霊能力者】なのである。


「もしかして……いっ……いるのか?」


「……はい」


 真っ青な顔。


 俺はそーゆーの全然わからないのだが、将平の顔色でなんだか怖くなってきて、あわてて黒王丸にまたがり帰ったのだった。




 パカラッ!パカラッ!パカラッ!……



 さて、将平と別れ、やかたに帰ると、玄関口に五十嵐さんが待ち構えていた。


「どーしたの?」


「……お客様です」


「領地の人?」


「よその方です」


 彼女がそう言うので、俺は急いでやかたに入る。



 ドタドタドタ……



 客間へ行くと、すぐに金髪ブロンドボブ・ヘアーの後ろ姿が目に入った。


 極東の人間じゃあないのか……。


「すみません。お待たせしました」


 怪訝に思いながらも、そう後ろから声をかける俺。


「えっ……わぁ!!」


 すると、客は薄いスカートを翻して、勢いよくこちらへ駆け寄ってくるのでビビった。


「エイガ・ジャニエスさん?本物?」


 夏だからだろうか。


 なんだかすげー熱量のある感じの女性だ。


 碧の瞳がキラキラ溌剌はつらつとして、ジっと熱い視線を送ってくる。


「い……以前どこかでお会いしましたか?」


 と狼狽うろたえる俺だが、見覚えがない。


「いいえ!初めてお会いします!」


「ですよねー」


「でも、アタシの方ではずっと以前から存じあげております!元・【奇跡の5人】の幻の六人目シックスマン、エイガ・ジャニエスさんですよね!」


「そ、そうですケド」


「このたび、ここの【領主】におなりになった」


「ええ」


「ふふふっ。そして、今は領民を鍛えてモンスターを倒し始めているという。それでとうとう【大猿】まで倒しちゃったんですよね?」


「それはまったくその通りなんだけど……貴女あなた、なんで俺にそんな詳しいんだ?」


「あっ!……」


 女性は今までマシンガンのように喋っていたかと思えば、急に口に手をあてて一時停止してしまった。


 なんかあわただしいヤツだな。


「ごめんなさい。申し遅れました。私こういうものです」


 で、彼女は金髪を耳にかけながら1枚名刺を差し出すのである。


 俺は受けとり、それへ目を落とすとこうあった。



隔月誌【冒険王】編集部 アクア・クリスティア




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[一言] 鉛を残したような痛み と書かれていますが、ググっても鉛中毒ばかり出てくるので、どんな痛みか想像できません。 鈍痛か鋭痛か、貫くような痛みか広がる様な痛みか、表面を焼くような痛みか、内部に浸透…
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