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育成スキルはもういらないと勇者パーティを解雇されたので、退職金がわりにもらった【領地】を強くしてみる   作者: 黒おーじ
《第19章》 破竹の勢い

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第153話 夢世界


 夢の中で『これは夢だ』とわかる夢ってあるだろ?


 その日みた夢はまさにソレだった。


「……気づいたようじゃの?」


 誰かが俺をのぞき込んでいる。


 ツノの生えた、幼い童女だ。


 俺自身は円形の台に大の字に横たわっていて、両手足を鉄のかせで拘束されていた。


 ロリロリした声が反響して聞こえてくる。


「ようこそなのじゃ、エイガ・ジャニエス。わらわ――マッドDr.ナーヴァスの手術室に」


 ナーヴァス?……まさか、第三魔王の?


 なぜ俺の夢に?


わらわが求める人間は、勇者を倒すべき因縁を持った男。おぬしは選ばれた栄光の青年なのじゃ」


 ……バカな! 俺はそんなことをするつもりはないぞ!


「遅いのじゃ。おぬしの意志にかかわらず、おぬしはすでにわらわの研究員の一員にほぼなってしまっているのじゃ」


 どういうことだ?


「むっふふ。おぬしのノンレム睡眠の間に、すでに脳改造を施し始めていたのじゃよ」


 脳改造だと?……ははっ、信じるものか!


 夢の中でそんなことをして、何が変わるというんだ?


「その証拠に、おぬしの記憶は少しずつ喪失していているはずじゃ。自分の名前すら……のう」


 バカ言うなって。


 自分の名前なんて忘れるワケ……


 ……あれ?


「ククク……あとはこのメスで脳を切り裂き、チップを埋め込めば、おぬしはわらわの言うがままじゃ。わらわの研究員となればはるかにパワーアップする。そうなれば勇者を倒すことも可能になるじゃろう」


 よ、よせ……!


「だいじょうぶ。これは夢なのじゃ。痛くないのじゃ♪」


 やめろ!


 うわあああ!!


 ――ブツン……


 メスが俺の額に触れる直前のことだった。


 急に照明が消え、あたりが暗くなってしまう。


「む、手術室の魔力が落ちたようじゃ。やれやれ、まだ試作中じゃからのう。修理をしてくるから少し待っておれ」


 試作中というおそろしい言葉を残してナーヴァスは手術室を出ていった。


 くそ……モルモットにされてたまるかよ。


 そうは思うが、手かせ足かせが外れず逃げることができない。


 どうしよう……


 そうあせっていると、また扉がひらいた。


 しかし、そこに立っていたのはナーヴァスではない。


 銀の全身鎧の男だった。


 ……誰?


 そう思うが、覚えていないだけなのかも。


 俺はしだいに自分の記憶に自信が持てなくなっていた。


「……」


 全身鎧の男は黙って何も言わない。


 黙ったまま剣を抜く。


 そして、俺の寝転がる台座へ向けてソレを振り下ろした。


 えっ? ちょ、まッ……わッ……!


 すさまじい金属音が響く。


 が、剣が()ったのは、四つの手かせ、足かせであった。


「ふふふ、間に合ったみたいだね」


 と言ったのは全身鎧の男ではなく、その後ろに立っていた銀髪の少年だ。


「ナーヴァスの本体は地獄にある。彼女の夢を伝って、キミの夢にやって来たというワケさ」


 少年の方も知らない。


 あるいは覚えていない。


 でも、状況をみると助けてくれてるから、味方なのか?


「あはは、味方なワケないだろ。ボクはキミが嫌いだし」


 そ、そーか(泣)


「それでもナーヴァスの配下になられたら厄介だからね。ここはキミに逃げてもらわなきゃ困る。天井をぶち破って、もっと深い眠りへ逃れるといい」


 天井を?


 そんなことできるだろうか。


「……できなければヤツの下僕に成り下がるだけだ」


 始めて全身鎧の男が口を開いた。


 口調はきびしいが、声にぬくもりがある。


「じゃあ、行こう。クロスさん」


「ああ……」


 二人は去った。


 しかし、なんとか両手足は自由になったぞ。


 モタモタしているとナーヴァスが戻ってきてしまうし……


 やるだけやってみるか。


 俺は勢いをつけ、思いっきり台座を飛び上がった。


 拳を突き立て天井をぶち破る。


 そして、その勢いのまま手術室から逃れた。


 やればできるもんだな。


 それからどれくらい走っただろうか。


 俺は眠りの中でまた眠るような、そんな深い眠りへとまどろんでいく。


――じゃあ、行こう。クロスさん――


 クロス……


 その名前だけ妙に頭につっかかっていた。



 ◇



 目を覚ますと、俺はベッドの中だった。


 ずいぶん長く眠ったような気がする。


 ほおに触れる白いシーツ。


 レエス越しに窓から陽が射し、部屋はほの明るい。


 しかし……


 どこだ、ここは?


 身を起こすと、ベッドのそばの椅子に知らない女性ひとが座っているのに気づく。


 誰?


 ……まあ、敵意がないことだけはわかる。


 彼女はベッドへ突っ伏し、高く結われたポニーテールの黒髪をかすかに揺らしながら眠っていたのだから。


「あの……すみません」


 俺はおそるおそる声をかける。


 だが起きない。


 困ったな。


 レディスーツの肩を少しだけ揺らし、もう一度言う。


「すみません。ここはどこですか?」


「ん、んん。……!」


 女性はベッドから顔を起こし、目を丸くして俺の顔を見つめる。


 驚いた……


 なんて綺麗な女性ひとだろう。


 彼女はキリッした鋭い目つきに、ふと、少しだけほほ笑みを込めて言った。


「よかった。目を覚ましたのですね、エイガさま……」


 刹那、胸の奥で熱いモノがはじける。


 全身へビリビリと駆け抜ける余波……


「ぁ……」


 恋の衝撃で動けずにいる俺の手を、彼女はやさしく握ってくれた。



次回更新4月9日、20時10分

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