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第152話 超必ペテルギウス・ネオ・ノヴァブラスト



 ゆらめく篝火かがりび


「遥かなる祭壇に迷い込みし子羊たちよ、我が贄となり永劫の輪廻を彷徨え……」


 魔王ナルシスはなんかよくわからないことをつぶやきつつ、ゆっくり玉座から立ち上がった。


 マントを脱ぎ捨てると、革パンに袖の無いシャツ、そして両手に革の指ぬきグローブといった戦闘スタイルが露わになった。


「しめた! ヤツはケガをしているぞ……」


 背中で部隊の誰かがそうつぶやいた。


 たしかに。


 よく見るとナルシスは左手と右足、さらには頭の一部に包帯を巻いていて、右目には眼帯すら当てている。


 こりゃラッキー。


「……一気にかたをつけてやる」


 俺は号令をかけて、まずは剣士60名を突撃させた。


 剣や槍をかかげる精鋭たち。


 ――オオオオオ……!


 数の上では圧倒的有利な60対1の肉弾戦。


 とは言え、相手は魔王級である。


 さすがにキビシイかと思ったが……


「けっこうやれてるな」


 確かにこちらの60名一人一人は並の戦士ではあるが、すべてヒヒイロカネ装備で固めているし、なんと言っても俺の領民だけあって統率が取れている。


 そこからさらに、魔道人形(ロボット)のぴゅう太を投入。


 また、魔法班と射手にも魔法銃や魔砲マギ・ランチャーでの援護を命じる。


≪王ノ命ニヨリ……殲滅ス……ピーガー……≫


 こうして領民部隊150名で魔王に挑むのは初めてだ。


 前回は魔王軍を部隊のみんなに任せ、俺とデストラーデとの一対一だったからな。


 どうやら部隊のみんなでかかっても魔王級と互角にやり合えるようになってるようだ。


 育成者としては、そこらへん先の戦いよりもむしろ嬉しいんだよねー。


 ――ちゅどーん……!!


 さて、前衛と後衛の連携により、渾身のマギ・ランチャーが炸裂した。


「よっしゃー!!」


「やったか……?」


 視界を遮っていた爆発系魔法の煙が晴れていく。


 全員でそこに敵の倒れた姿を期待したが……しかし、竜人ナルシスは変わらぬ姿でそこに立っていた。


「どうやら……オレの本当の姿を見せる時がきたようだな」


 なに……!?


 俺がビビッていると、ヤツは左手に巻いていた包帯をするするとほどいていく。


「どうなっても知らんぞ。巻き方を忘れてしまったからな」


 巻き方を忘れて困るのはオマエじゃねーの?……と思ったが、さらには右目の眼帯を取ると、左目とは明らかに違う緋色の瞳が露わになった。


 あの瞳になにか秘密があるのか?


 と思ったが、そういうワケでもなさそうだ。


 よく見ると、ヤツはこちらの攻撃を避けるでも、防御するでもなく、ほぼすべてを喰らっていた。


 それでボコボコに喰らいながらも、かまわずめちゃくちゃに殴り返してくるのだ。


 竜人が本来の姿を見せるとか言うからマジの竜にでも変身するんかと思ったが……


 よくわかんねーな。


 第四魔王ナルシスの傾向と対策が見えてこない。


「おい、ヤツの戦いはどうだった?」


 そこで俺は、回復班の治癒を受けているダメージを受けた剣士に声をかける。


「へ、へえ。なにせ硬いったらありゃしねえんで」


 彼は磯村いそむら与吉よきちという男。


 元イワシ漁師で、たしか今年35歳の独身である。


「剣でぶっ叩くと手がジーンっと痺れやがる。刃がちっとも通じないんでさぁ」


 なるほど。


 敵は細身の見た目に反してすげータフなようだ。


 だからあれだけ集中攻撃を喰らっても反撃し続けられるってワケか。


 そんなことを考えていると、次第に回復に回ってくる戦士の数が増えてきた。


 マズイな。


 ナルシスのめちゃめちゃな戦いに押されているのだ。


「デッテユー……!」


 さらにマズイことに、先ほど逃げて行った副将のデッテユーが戻って来た。


 ヤバイ……!


 魔王たちは副将と力を合わせることで真の力を発揮する系のヤツが多い。


 先のデストラーデが老軍師ゲロンによって難敵になったように……


「デッテユー!!」


 翼の生えた緑竜デッテユーは、戦闘の衝撃で吹き飛んだ屋根の向こうから主である魔王の下へ着陸する。


「ふッ、長かった最終聖戦もこれで終わりのようだな」


 ナルシスは長い前髪を払うと、指ぬきグローブの手で空中に魔法陣を描いた。


「キサマらの悲鳴を鎮魂歌レクイエムとしよう。最期に、本当に……真の姿をみせてやる」


 魔法陣から虹色の玉が飛び出してくる。


 よく見ると、それは虹色の亀竜カメーラだった。


「デッテユー♪」


 なんとデッテユーが虹色のカメーラを丸呑みした。


 すると、デッテユーはレインボーに変色し、翼もキラキラと輝きを帯びる。


「クックック……これがデッテユーの真の姿だ」


「オマエのじゃねーのかよ!」


 そんなツッコミを入れている場合ではなかった。


 どうやらこのレインボー・デッテユーは、すべての甲羅の色のカメーラを呑み込んだのと同等の状態らしい。


 ナルシスはデッテユーにまたがり、剣や槍の届かない高度へ逃れ、吐き出す甲羅や火炎でもって攻撃を仕掛けてくる。


 ――ちゅどーん……!!


 マギ・ランチャーで地対空砲撃を試みるが、竜上のナルシスが左腕一本で強引に受け止め、有効打にならない。


 いや、しかし待てよ……


 さっきまでヤツはあらゆる攻撃に対してまったく防御もせず喰らいながら戦っていた。


 じゃあなぜ、今は砲撃を腕で防いでいるんだ?


「そうか、デッテユーだ……!」


 そう。


 あの無尽蔵なタフさは、あくまでナルシス単体での話。


 一方でデッテユーはどうだ?


 乗ってる緑竜の方はそれほど防御力が高くないから、ナルシスは攻撃を防ぐようになったんじゃねえの?


杏子きょうこ……」


「はい!」


 俺は杏子きょうこに耳打ちをして、うなづいたのを見ると、黒王丸にまたがった。


 ――ヒヒーン……!


 空飛ぶ馬に乗って、空飛ぶ竜に乗った魔王ナルシスへと向かっていく。


 ちなみに、【古王の勾玉】は使っていない。


 治めている領地全体の活力を集め、俺の戦闘力へと変換する【古王の勾玉】の効力は、それほど長く発動していられない。


 さっき艦上で砲弾を防ぐのにだいぶ使ってしまったので、あと少ししか使えないだろう。


 決定打が見えた時まで取っておかなきゃいけない。


「オらぁぁー!」


 俺は空中の馬上からどうつるぎ(+121)を振るった。


「ふん、それが攻撃のつもりか?」


「うっ……」


 ナルシスは俺の剣を左手の指二本で受け止めてしまった。


 しょせん生身の俺の攻撃では、魔王級に傷一つ付けることはできないのである。


 だが……


 指二本とは言えどやはりヤツは防御をしている。


 狙いは間違っていない。


「今だ! 杏子きょうこ!」


「先生! 離れて!」


「かまうな! 撃て! 撃て!」


 そう叫びながら俺は再び剣を振るう。


 もちろん緑竜の方へ。


 それはナルシスに片手で防がれるが、その時。


 ちゅどーん……!!


 魔砲マギ・ランチャーが火を噴き、デッテユーに直撃。


「ピュー……(汗)」


「なッ……デッテユー!」


 これに驚いたデッテユーは主人を振り落とし、また空の彼方へ逃げていってしまった。


 すぐに逃げるな、アイツ。


 さらに、その勢いと爆風により、ナルシスは城外へと放りだされる。


 俺たちも爆風によりダメージを受け、空中で落馬したが……


 ――ヒヒーン!


 黒王丸はひらりと身をひるがえし、俺の身を背中ですくいあげた。


 エラすぎる。


 黒王丸も最初は逃げてたのに、成長したもんだよな。


 ……などと感慨にふけっている場合ではない。


「行け、黒王丸!」


 そう命じ、城外へ落下していくナルシスへ向かって飛行する。


 勾玉モードではない俺が最もダメージを出せる攻撃。


 黒王丸と共に急降下で突っ込む超強引な必殺技――特別攻撃である。


 風を切り、海の香りが頬を打つ。


 物理的落下スピードより、黒王丸の飛行スピードは上回る。


 ヤツが地面へ到達する前。


 俺と黒王丸は超スピード飛行の勢いそのまま、魔王ナルシスへ激突した。


 ――ドゴオオオオーン……!!!!


「痛ててッ……大丈夫か、黒王丸?」


 特別攻撃は当然ながら諸刃の剣で、自分たちも大ダメージを喰らう。


 さすがの黒王丸も目を回していた。


 しかし、それと引き換えに与ダメージはめちゃ高いはず……


「……やったか?」


 そう目を凝らした時。


 無情にも瓦礫がガタゴトと動く。


 ナルシスだ。


 立ちやがった。


「そ、そんな……」


「やるではないか。さすがのオレも今のは死ぬかと思ったぞ……ゴハッ!」


 余裕ぶってるが、めっちゃ血を吐いている。


 口元の血を指ぬきグローブの甲でぬぐう姿は、敵ながらちょっとカッコイイ。


 でも、弱っているのは確かだ。


 今しかない!


 俺は【古王の勾玉】を掲げ、遠き領地『遠雲』全体の活力を一点に集めた。


 ――チュイイイン……!!


 はるかなる国力のすべてがこの身に宿る。


「これで最後だぁ!」


 ナルシスは刃での攻撃に耐性がある。


 俺はフック気味に右拳を振り、ヤツの左頬を思いっきりぶっ叩いた。


「ごあッ……」


 白目を剥くナルシス。


「ッ!……ライトニング・エクスキャノン!!」


「なに……!?」


 確かに勾玉モードのパンチが直撃したというのに、ナルシスは喰らいながら左拳をまっすぐ突き出してきた。


「ぐあッ!」


 距離が近すぎて避けれない。


 ヤツのストレートが俺の顎に直撃し、一瞬意識が遠のく。


 勾玉モードじゃなかったらこの一発で確実に死んでいただろう。


「最終奥義! 邪眼炎陣龍魔殺法じゃがんえんじんりゅうまさっぽう!」


 さらに追い打ちの左フックが来る。


 だが、もたもたしていたら勾玉モードが終わってしまう。


 こうなりゃ相打ち覚悟だ。


 俺も負けじと右ストレートを繰り出す。


 ――バキいいッ!!


 痛てえ(泣)


 頼む、倒れてくれ!


「ぐっ……ファ、ファントム・シャドー・クラッシャー!」


 マジか……


 しかし、ヤツが何と言おうと、ただ無茶苦茶に物理で殴ってくるだけなのはわかっている。


 ケガをしていない腕に包帯を巻いたり、変身や妙な必殺技名を叫ぶのは、おそらく自分の武器が圧倒的なフィジカルであるということを敵に隠すための巧妙な戦略なんだろう。


 案の定、ファントム・シャドー・クラッシャーという名の頭突きが来るので、俺もヤツの頭をかち割る気で頭突きを繰り出す。


 ッ!……眼球の奥に火花が散る。


 頭蓋骨に漬物石が埋め込まれた心地がするが、敵はまだ倒れない。


 ……正直しんどい。


 しかし、そんな相打ちがもう二、三回繰り返されて、もう勾玉モードが終わりかかりだった時。


「インフィニティ・ナイトメア! 天翔神雷てんしょうじんらい……ええと、龍魔一閃りゅうまいっせん! 超必……ペ、ペテルギウス……ネオ……ノヴァブラス……ト」


 超必ペテルギウス・ネオ・ノヴァブラストは来なかった。


 ヤツは俺の胸へ頭をもたれ、ゆっくりと膝を着いたのである。


 か……勝った。


 殴り勝ったのである。


 これまでの戦いにはなかったようなさわやかで熱い衝動が込み上げる。


「どうだッ……!」


 俺はえた。


 理性を持たぬ森の野獣か、慟哭どうこくむせ寡婦かふのように。


 ――ビシューン……!!


 第四魔王・竜人ナルシスが美しい光の玉になって飛んでいく。


 崩れ去る魔王城の音。


 背後に駆け寄る領民部隊のみんなの声が、遠い意識の彼方に聞こえた。



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