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第150話 繚乱(りょうらん)


 ざばーん……!!!!


 艦の船底が水面から揚がる音。


 大きな波にさらわれたかのような浮遊感だが、そこからバランスは崩さない。


 そう。


 水上を進んで来た艦が、『飛行モード』に入ったのだ。


「わースゲー!」


「あたしたち、飛んでる……!?」


 デッキの領民部隊のみんなは口々に騒ぎ、テンションは爆上がりだ。


 飛び跳ねたり、踊ったりしているものさえいる。


「やれやれ、はしゃいでる場合じゃねえのに……」


 俺は艦橋の指令室からデッキの様子を窺いながら、頭をポリポリかいた。


 だけど、無理もねえな。


 この指令室から見える景色もすさまじい。


 海が下へ消え、遠い陸も下へ消え、舳先の先にもまだ空が広がった異様な景観。


 こんな巨大な艦が空に浮かんでいるという現実は、その神秘性により現実感を失っている。


 ……が、感激している場合じゃねーんだワ。


「ナオ。わかっていると思うが、艦のグレードアップはまだ完成じゃない」


 俺がそう言うと、立体舵の水晶を操作しているナオはうなずく。


「ゆえに制限時間は30分だ。それまでに魔王城レベル2の背後へ回り込む必要がある」


「……攻撃は?」


「悪いがお前に作戦を説明しているヒマはない。何も聞かず出発してくれ」


「了解しました……」


 ナオはゴーグルを嵌め直した。


 その瞳には信頼の重さが映っている。


「任せたぜ」


 俺はそう残すと、指令室を後にした。


 後ろ手にドアを閉めると、同時に艦が唸りを上げ、青空が後ろへと流れていき始める。


 艦が空を進み始めたのだ。


 ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴ……!!


 さて、艦橋を降りる頃。


 艦の飛行は安定軌道に乗り、音も比較的静かになっていた。


「みんな、集まってくれ!!」


 そう言うと、さすが訓練を積んだ領民部隊。


 各々はしゃいでいたものを、一斉に俺の周囲に集まってきた。


「これから艦はアラビラ半島上空へ向かう」


「デスデザートを飛んで越えるんですね!」


 杏子が立ち上がり、風のスカートがひらりと舞う。


「そうだ。敵の大砲は海側へ向いているから、陸側から攻めれば弾は飛んでこない」


「じゃあ、こっちから主砲で打ち込んでクリアですか?」


「……それが、そうはいかないんだよね」


 そう。


 確かに敵の弾は飛んでこない。


 安定した飛行であるから計25の魔法を融合させることもできる。


 しかし、覚醒したリヴによる艦のアップデートは途中であるため、飛行中の主砲発射がまだ不可能なのである。


「それに飛行時間は30分。それまでになんとかデスデザートを越え、海に帰ってこなきゃいけない」


「そんな!」


「主砲なしで?」


「魔王城は何度も復活するんだべ??」


 場に戸惑いが走る。


 俺は拳で自分の手のひらをバシっと鳴らし続けた。


「だから作戦は一つ。艦から降りて全員で突撃だ」


 ざわ……


 一瞬のざわめきの後、静まり返った。


 緊張感が走る。


 いっちょげきでも入れるか。


「みんな、艦の上で退屈してたろ? 存分に暴れてくれよ!」


 そう挑発すると、150人が一斉に勝鬨かちどきを上げた。



 ◇



 さて、空飛ぶ艦は海を越え、アラビラ半島上空へと差しかかった。


 なつかしのモスクワードの街が見える。


 だが、艦はスピードを上げ、すぐにはるか後方へと小さくなっていった。


 そしてデスデザートだ。


 死の砂漠と呼ばれるだけあって一面の砂漠が果てしなく続くかと思われる光景。


 が、そんなおそろしい砂漠も上空を飛んでいけばあっという間に過ぎてしまう。


 まっさらな砂漠の白に巨大な艦の影がひとつ映るのがあまりに美しかった。


≪領主様、見えてきました。魔王城レベル2です≫


 通信魔法【トランシーバー】でナオが直接頭に報告してくる。


 確かに。


 砂漠の遠く向こうに、魔王城の威容が見えた。


「よし、そろそろだ。飛び降り、準備!」


「「「やー!」」」


 まず、150人のうち、40名は軍馬に跨った。


 俺たちの一人一人の才能は並なので、グリコが使うような飛行魔法など使える者はいないが……


 馬の方はすべて飛行魔法を覚えているからな。


 よって、彼らは馬で着陸してもらう。


 問題は空飛ぶ艦の操縦をしているナオを除いた残り109名。


 彼らはズラリと並んでデッキの縁に足をかけ、命令を待っていた。


 体ひとつにリュックのみ背負っている。


≪ナオ。聞こえるか? どうぞ≫


≪……はい。どうぞ≫


≪スピードは緩めるな。魔王城の近くを通り過ぎればいい≫


≪でも……≫


≪その後、あと15分以内で艦を海へ着地させておくんだ。間違ってもアカバン湾には着地するな。大砲で撃たれるからな≫


≪……了解≫


 艦は命令通りスピードを緩めず、魔王城へ近づいていく。


 やがて、魔王城の横腹をかすめるようなコースで曲がるその時。


「今だ! 飛び降りるぞ!」


 俺はそう号令した。


 まず、馬の40名が飛び立つ。


 続いて、残りの109名がそれぞれ身一つでデッキから飛び降りた。


「わー! 死ぬ―!!」


「きゃー!!」


「ぎょええええ……!」


 みんな思い思いの悲鳴を上げていた。


 まあ、無理もない。


 俺は109名が全員飛び降りたのを確認した後、愛馬で地上へと向かった。


 ヒヒーン……!


 すると物理落下のスピードよりも黒王丸の飛行スピードの方が速いので、先に着地して109名が落ちてくるのを見上げる恰好となる。


 見上げていると……やがて真っ青な空に一つ、二つと白い花が咲き始めた。


 そう。


 落下傘パラシュートである。


 空から攻めるオペレーションのために考えた秘密兵器だ。


 やがて、上空の傘は一斉に開花を始め……


 青空のキャンパスは百を超える白花で咲き乱れるのであった。



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