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第143話 黒曜石


「なるほど、そんなものが見つかりましたか……」


 黒曜石のゲートの話をすると、神社の吉岡十蔵はヒゲをなでながら眉を下げた。


 彼は「ちょっとお待ちくだされ」と断ると一度退出し、しばらくすると数冊の古文書を持って障子しょうじを開けた。


「ええと、たしかこのあたりに……ああ! ありましたぞ、領主さま!」


 十蔵はそう言って古文書の一文を指さすが、それは俺の知る極東の文字とも違う文字でちんぷんかんぷんである。


「はるか古代の極東では、黒曜石は特別な石だったと書かれております」


「特別な石?」


「ええ。現在の分類では石というよりは火山活動によって溶岩が急激に固まってできたガラスのような物質らしいのですがね。ツヤのある黒……もしくは濃い緑色をしていて、破断面が鋭く、古代人たちは叩いたり、こすったりして鋭利な道具を作っていたそうですぞ」


「それってどれくらい昔のことなんだ?」


「1万年以上前には作られていて、海運によって広く流通してさえいたようですな」


 いちまん……


 ちょっと気が遠くなりそうだ。


「まあ、それは歴史ではなく考古学の話。古文書には黒曜石のもつ別の意味が記されているのですぞ」


 十蔵はまた古文書をめくり、今度は別の箇所を指さす。


「古文書からは、古代人たちが黒曜石に神秘的な意味を感じるようになっていったことが読み取れます。単に鋭利な道具を作るのに便利な素材というだけではなく、その夜の闇より深い色あい、光沢の美しさ、鋭い破断面……そこに神が宿ると考え、祀るようになったのです。ほら、それがこの絵図ですぞ」


 それはこの文字の読めない俺にもわかった。


 古文書には、


 ■■

■  ■

■  ■

■  ■

 ■■


 というような図柄が記されていたのである。


「この門は黄泉比良坂よもつひらさかに通じていると言われていたそうな」


「なんだそれ?」


「地獄、でございますよ」


「うそだろ……」


「信じる信じないはあなた次第です」


 うるせえよ!


「ああ、信じた信じた。だから他にわかることはないのか?」


「なんだか投げやりですな……」


 ちょっとスネる十蔵。


 どうやら俺にもっと怖がって欲しかったらしい。


「ええと、黒曜石で組み立てられたこの門が地獄へ通じるには、ひとつ起動条件があると書かれておりますな」


「起動条件?」


 なるほど。


 空洞にあった地獄門は、地獄へ通じる紫いろの亜空間が生じていなかったものな。


「で、その起動条件とは?」


「わかりませぬ」


「は……?」


「起動条件があるとは書いてありますが、起動条件が何かは書いておりませぬゆえ」


 なんじゃそら。


 急にうさんくさくなってきたな。


「じゃあなんの意味もねーじゃん」


「いや、そうとも言えませんぞ。起動条件は書かれておりませぬが、誰がそれを知っているかは書かれております」


 十蔵は指を横へズラして続けた。


「門の起動条件を知る者は古代王のみである、と」


「古代王か……」


 俺は腰に帯びた『どうのつるぎ(+103)』をチラりと見た。


 確か、コイツのもともとの持ち主だったよな。


 古代王は滅び去ったが、その後、極東の皇室がこのつるぎを保有し、さらに俺が遠雲の領主に任命されるときに授かったという経緯だった。


「でも、古代王ってはるか昔に死んじゃった人だよな。どっちにしろわかんないじゃん」


「もっともですがね。しかし、手がかりになる可能性はありますぞ」


 俺は首をかしげ、十蔵が続ける。


「古代王の宝、『古王の勾玉まがたま』と『八百ヤーの鏡』が眠っていた地下遺跡がございましたでしょう。その宝箱にはさらに多くの文字が刻まれていたと聞いておりますが」


 たしかに、そんなことあったな。


 古代王のみが門の起動のさせ方を知っていたなら、剣を持つ古代王のみが開けられる宝箱にそれが記されている可能性はゼロじゃない。


 ただし。


 宝箱に記されていた記録は十蔵でもわからないあの超古代文字で書かれていたから内容はわかっていなかった。


 五十嵐さんが写しを取って、ザハルベルト留学組の大学機関で解析をしていもらっていたはずである。


「とにかく悦ちゃんに聞いてみることですな」


 言われなくてもそうするつもりだ。


 俺は吉岡神社を去ると、やかたへの帰路へ着いた。


 まあ、地獄門の起動のさせ方なんか知っても、どーせ地獄へ行くことなんてないんだけどさ。


 起動のさせ方を知っておけば起動しないようにすることもできるはず。


 どう考えても危ねーもんなのに、貴重な古代遺跡であるがゆえに壊すこともできないからな。


「ただいまー」


「お、おかえりッス~……」


 館へ帰ると、なんかガルシアが溶けてた。


 服が脱ぎかけで、ソファに斜めに倒れ、白目がちによだれが垂れかかっている。


「おまえ、大丈夫かよ!?」


「ダメッス~……」


 どうやら大丈夫なようだ。


「五十嵐さんは?」


「中村ッスよ~。半刻前くらいに出かけて行ったッス~」


 うーん、入れ違いだったか。


 まあ急ぐ話じゃないし待っていようかな……とも思ったが、俺も中村は見に行きたい。


 すぐに館を出ようと身をひるがえすが、ふと、足を止めてたずねた。


「ガルシア。おまえいつもそーゆう感じってワケじゃねえのな」


「へ?」


 ぴんと来ていなかったようなので、俺は新港で見たことを話した。


「ひぇー! 見られてたんスかー!」


「ああ。お前も本業の商売の時はあーゆう感じなんだな」


 正直言って俺は感心していたんだけど、ガルシアはケタケタと笑ってこう返した。


「そんなワケねーじゃないッスか。相手がトッティさんだったからキンチョーしてたんスよ~」


「あの人、そんなにエラい人だったのか?」


「トッティさんはすげーエラい人っスけど、キンチョーの理由は別ッス」


「なんだそれ?」


「あの人、ベルルちゃんのお父さんなんスよね……」


 ガルシアは微妙な苦笑いでそう言った。



ご覧いただきありがとうございます!

次回もお楽しみに!

(黒おーじ)

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