第141話 ガルシア?
魔法鉄道の工事現場を去った後。
近くなので採掘現場の様子も見ておこうと思った。
アキラにもレシーバーを付けていたから、送った経験値による成長具合も気になるしな。
「黒王丸、ちょっと待ってろよ」
魔鉱山の入口で馬からトロッコへ乗りかえた。
ガタン、ゴトン……と坑道を下ると、地下の巨大トンネル状の空間に到着する。
この巨大トンネル空間が魔鉱石の採掘場で、そこから脇にそれた所にある階段でさらに下の階層へ行くとヒヒイロカネの採掘場と古代遺跡があるのだった。
どちらの採掘現場でもアキラの弟子たちがせっせと岩窟を砕いていたが、アキラ本人の姿が見当たらない。
「アキラさんなら東の山ですよ」
と、アキラの弟子。
「えー、なんで?」
「魔法鉄道ですよ。谷村とか外山とか、山の中の村とも通じるトンネルを掘るとかで」
ああ、そう言えばそうだった。
そもそも魔法鉄道っていうのは通った地域にものすごい影響を与えるものだ。
だから敷設する地域に偏りがあると、その発展にも偏りがでて一極集中になりかねない。
一極集中ってのは一見発展しているように見えて産業の種類が単一化していってしまうから、貿易依存度の高い『弱い国』になってしまう。
よって、なるべく同時並行的にすべての村と村が網の目のように通じるようレールを敷いていこう……って話をしていたのである。
もちろん本当に同時開設っていうのは無理だし、今回も『魔鉱山』から『新港』までの路線から建設しているワケだから優先度順に着手してはいるのだけれど、なるべく時間差をあけないようにしたいってコト。
そのために、敷設が遅くなりそうな山向こうの村などへ向けてはトンネルを掘るところから始めていってしまおうというのが俺たち館組の方針なのだった。
でも、この方針を決めたのはちょうどデストラーデ戦の直前のことだったから、もうそのトンネルに着手しているとは驚きである。
「じゃあ東のトンネルへも行ってみるワ。ご苦労さんね」
「へえ、お疲れさまです」
ガタン、ゴトン……ガタン、ゴトン……
トロッコを使って外へ出ると、あたりはもう暗くなっていた。
月の輪郭はまざまざとし、山の方から狼系モンスターが遠吠えしているのが、そいつの戦闘力の大小にかかわらず夜の闇をすさまじいものにしている。
「帰るか、黒王丸」
……ヒヒーン!
帰還後の領地で様子を見たいところはまだまだあったんだけど、デストラーデ戦の疲れもあるし、今日のところは館へ帰った。
次の日。
やはり気になるのはリヴのことで、また鍛冶工房に寄ってみる。
「よし、これで大丈夫だよ。ぴー助」
≪ピー、ピー、ガー……アリガトー♪≫
しかし、リヴの弟子たちはまだ外にたむろしていて、魔造人形のピー助に油を差したりしていた。
まあ昨日の今日だしな。
次に気になるのはアキラの様子だけど、東の山のトンネル現場は遠い。
近場から東側を時計回りに回って帰ってこようかな……なんて考えながら馬に乗った。
まずは新港を見ておこう。
館から南へ行くとすぐ新港があらわれる。
もともと艦のために作った新港だったが、港の水深が深くなったことで極東内外から貿易船がやってくるようになり領内の産業構造が破壊されるリスクも考えなければならなくなった。
そこで外国船には、村人たちとの直接の取引は禁止する代わりに、港の近くに取引をする区域を作ることにしたのだった。
新港に着くと、艦の納まるドックの反対側の沿岸で盛んに足場が建っているのが見える。
足場の周辺には立ち入りを禁じる幕が張られ、あちこちで魔力の放出音や木槌、金槌の音が鳴り響いていた。
カーン、カーン!……チュイーン、キュルルルルル……
それでも工事が行われている場所は一部で、整地だけはされた土地は大競技場のように広大である。
まだ手の付けられていない土地には細いロープで整然と区画されており、その端には仮設住宅のようなものがいくつか建っていて、大工の『組』の旗が3本はためいていた。
この区域に建物が建ち並べば、ひとつの村……いや町に匹敵するように思われる。
「おーい!」
足場の上で作業しているオッサンを見つけて声をかけた。
「ちょっと聞きたいんだけど!」
「うるせえな!」
……え?
「今手が離せねえんだ! おとといきやがれ!」
「そ……そうか。ごめんなー」
たしかに高所で作業しているヤツの邪魔しちゃいけないか。
俺は頭をポリポリかきながら反省していると、後ろから「おおい、領主さま!」と声をかけられる。
振り返ると、最初期から大工だったねじりハチマキの棟梁だった。
「すまねえな、領主さま。アイツは腕は立つが高所恐怖症でな。気が立ってやがんだ」
「そ、そりゃ大変だなあ」
「心配ない。今日限り、アイツは領主さまへの不敬罪でクビにするからよ」
「おい、よせって」
とマジでたしなめると、棟梁は「冗談だ」と言ってガハハハと笑った。
「それはそうと、今はコレ何作ってんの?」
「こいつはこの港町の門でっさぁ。入国管理もここでするんで」
外国人の商人たちはこの港町内で商取引をしてもらうが、もし商売以外の理由でもっと領内へ入って行く事情ができたならば、ここでビザを発行してもらい門を通過することもできるってワケだ。
「あっちの、もう完成している施設は?」
そう聞くと、棟梁は案内してくれた。
完成している施設は以下である。
・大倉庫(A-1)
・大倉庫(B-1)
・宿泊施設1棟
・取引会館1棟
大倉庫のAと銘打たれた方は、外から入ってくる品物の保管がされる倉庫。
対して、大倉庫Bと銘打たれた方は、外へ売るためにストックされた領内の生産物が保管されている。
ナンバリングされた倉庫が並ぶとこれだけで埠頭感が出るよな。
宿泊施設は外の商人らが船から降りて泊まることのできる所だが、ホテルというよりは冒険者が泊まる宿みたいな感じである。
取引会館は貸しオフィスや会議室があって、内外の商人が取引する場所らしい。
こちらは結構立派なしつらえである。
軒先は石畳が敷かれ、扉などはガラスが使われていた。
で、ちょうどそこに外国人らしき金の懐中時計を首から下げた壮年の男が、ガルシアと一緒に取引会館に向かってくるのが見えた。
ガルシアは珍しくスーツを着て、髪をきっちりと7対3に分け、なんだかキリッとした顔をしている。
よその人だからって緊張してんのか?
しょうがねーなぁ。
カンチョーでもして気分を和ませてやろう。
そう思って後ろからそーっと近づいていくと、やがて会話が聞こえてくる。
「それにしても、ガルシアくんとお会いするのはいつぶりのことかな?」
「そうですね。私が旅人であった時分のことですからニ、三年は前でしょう」
!?
……誰?
「そんなに前のことかね」
「ええ。時がたつのは早いものです。それではトッティ様。魔法IC部品の件はこちらの取引会館でお話致しましょう」
そんなガルシアの言葉で取引会館の扉が閉まる。
俺はあまりのことにカンチョーの構えのまま固まっていたのだった。
ご覧いただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!
(黒おーじ)





