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第15話 レシーバー


エイガ・ジャニエス様


拝啓


 ドラゴンの吹く炎に汗のにじむ時節になりましたが、領地での生活いかがおすごしでしょうか。


 さて、パーティを抜けてもらったあなたに今さらこんな手紙を送ることは、本来差し控えるべきだと思うのだけれど、これは他のメンバーとも相談した上で、あなたにも伝えておいた方がよいだろうという結論に至った上での手紙です。


 実は先日。モリエがいなくなってしまったの。あなたのことを慕ってのことだと思うわ。

 あの子にはあなたの領地を知らせてはいないけれど、もしあなたの居場所をつきとめてやって来ることがあれば、どうかパーティに帰るよう説得してください。


 極東の夏はすと聞いています。お体ご自愛下さい。          

                          かしこ



ティアナ・ファン・レール


*********************





 はぁ……。


 モリエが遠征から帰って俺の解雇を知ったら……って予想はしてたけど、やっぱりか。


 でもそこらへん、ティアナならなんとかすると思ってたけどな。


 なにせモリエのヤツが一番なついていたのはティアナだったんだから。


 一緒に風呂入ったりして仲良かったし。



 でも……そういえばモリエって今いくつなんだっけ?


 ええと、アイツがパーティに入って1年、2年、3年……


 ああ、もう15歳になるのか……


 子供子供と思ってたけど、気づかないうちに結構なお年頃になってんだな。


 こんな家出みたいなことして、変な男が寄ってこなきゃいいけど……。




 ◇




 ところで。


 最近、俺もだいぶ領民から『領主』として認知されたような気がする。


 いろんな村のおさが定期的にご機嫌うかがいにやってくるし、裕福な者は穀物や海産物を献上してくれるようにもなった。



 まあ。


 これはやっぱり【高札】と同時に【やかた】を建て始めたのがよかったんだろうな。


 デカイ建物を建ててると目立つし、『あ、領主が来たんだな』ってわかりやすい。


 そこらへんは五十嵐さんのアドバイスがよかったってワケだ。


「本当は小高い丘などのほうがよかったのですが……」


 と彼女は言うけど、そこは実用性を取ったって話だから仕方がないね。



 カンカンカンカン……



 ただ、さすがにまだやかたそのものは出来あがらない。


 ので、俺自身は『はなれ』の方を仮住かりずまいにして生活していた。



「五十嵐さん。実家のおジイさんは元気?」


「はい」


 と聞いたのは、別に世間話ではない。


「魔力に目覚めたり、してない?」


「……実家へは帰っていないのでわかりません」


「ちょっと様子をうかがいに行きたいのだけれど、ご実家へお邪魔させてもらっていいかな?」


「……」



 というのは、彼女の祖父、


『五十嵐イサオ(62)』


 は、長年この土地の土に合わせて、穀物の種の掛け合わせをやってきた方なのだ。


 種籾の管理や苗づくりのリーダーもこなすという。



 ようするに、この領地の【収穫高】を左右するかなめの人物なのである。


 職性も【生産者】であり、さすがに才能と現行の職業は一致している。



 そういう重要人物なので、俺はすでにこのイサオさんへ育成スキル【レシーバー】をマークしていたのだった。




 ◇




 育成スキル【レシーバー】は、勇者パーティでは、最初からあまり役に立たないスキルだった。



 これは一言で言うと『経験値転送スキル』だ。


 例えば、あるクエストで『俺』と『クロス』と『ティアナ』の3人でモンスターを倒したとする。


 しかし、『エマ』と『デリー』と『モリエ』の3人は、風邪をひいてクエストに参加できなかった。


 このとき通常、欠席した3人は経験値を獲得できない。



 しかし、この【レシーバー】をそれぞれ【マーク】してさえおけば、欠席した3人へも経験値が転送される……というスキルなのだ。




 このスキルがあまり活躍しなかったのは……つまり、みんなそんなに欠席なんてしなかったからである。


 欠席した時でも経験値を獲得できるというのは、ちょっとしたお得感ではあるけれど、そんなの誤差の範囲だった。


 単独遠征などがあれば有効に思われるかもしれないが、戦力を分散して戦うなんて余裕が出てきたのはつい最近のことで、そんな最近になるともうみんな『経験値』を重要視する段階はとっくに過ぎていたのである。




 しかし、これが『領地経営』となると話は別じゃねーだろうか……と俺は見ているワケだ。


 というのは、この【レシーバー】を戦闘には参加できない職業で、重要な役割を担う者へマークしておけばイイのである。


 たとえば、農家のイサオさんへ【レシーバー】をマークしておけば、彼自身は戦闘に加わらなくても経験値が蓄えられ、【生産者】としての能力があがっていくというワケだ。



 ただし、俺がこの【レシーバー】をマークできるのは3人まで。



 だって、冒険パーティを想定して身に付けたスキルだから、『そんなにたくさんマークできるように修行する意味もない』と思っていたのである。




「いやぁ。最近は腰が軽ぅてのう。よう眠れてよう眠れて」


 イサオさんは見事なハゲ頭でそう言った。


「どうですか?生産魔法が使えるようになったとか、そういうことはないですか?」


 彼が【生産魔法】を覚え、品種が改良され、将来の収穫高がより安定する……というストーリーを、俺は思い浮かべているワケである。


「んー……ん?これのことかのう」


 イサオさんは枯木のような腕をぷるぷるさせながら、指先にぼんやりと青く光る輪っかを創りだしてみせた。


「それです!それです!」


「これをなぁ。こうしていると……ほら領主様。ここを見なされ」


 と言うので見ると、なんと後頭部に産毛が生え始めていた。



 ……まあ、そのうち生産的なことにも使ってくれるようになるだろう。



 ◇



 とりあえず、【レシーバー】枠の3つのうち1つは、イサオさんにマークしておくことにする。


 もう1つはすでに吉岡将平にマークしてある。



 そして、最後の1つだけど……



 まず、ガルシアという手を考えたけど、商人が経験値で得られるスキルって『大声出して宿屋やお店を呼び寄せる』とかだし、微妙すぎる。


 五十嵐さんは有能な秘書だけど、経験値を送って【お嫁さん】のスキルを伸ばしてもなぁ。


 吉岡十蔵の力は、神社やってるから顔が広いってところだし。



 さしあたってガルシアにマークしてはいるけど、もう1つの【マーク枠】を割り振るべき職性を持ったヤツを見つけるのは課題だな。


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