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第137話 祝勝会


「うーん、むにゃむにゃ……」


「エイガさま。起きてください」


 目を覚ますと、俺のほおにはタイトスカートの太ももの感触が弾んでいた。


 ムチムチ♡


「……ええと、どうして?」


ひつじの刻には祝勝会があります。そろそろ支度をしなければ……」


「そうじゃなくて。なぜ俺は秘書の膝枕で寝ているんだ?」


「枕が見当らなかったので、私の膝で代用しました」


「なるほど……」


 寝ぼけていてそう答えちゃったけど、2秒考えたら何も『なるほど』じゃねーワと思いつつ、彼女の太ももからそっと顔を起こした。


 どうやらソファで寝てしまっていたようだ。


 俺の頭がどくと、五十嵐さんはソファの肘掛けへ避難させていたらしい洗濯物を手に取り、席を立って行った。


 彼女のレディスーツの背中をぼんやり眺めながら、俺は煙草へ火をつける。


「って、祝勝会……?」


 そうだ、俺たちは魔王デストラーデとの戦いに勝利したんだった。


 破滅的膂力(りょりょく)の魔王に、おそろしき重量級モンスターの大軍団。


 でも、一番厄介なのは副将のゲロンの知力だった。


 アイツさえいなければ沿岸におびき寄せて、艦上から主砲ペンタグラムを軸に戦うことができたんだよ。


 パワー任せなところもあって四天王最弱とも揶揄されるデストラーデではあるが、副将ゲロンの存在で『デストラーデ魔王軍』としての強さは何倍にも跳ね上がる。


 逆に言えば、副将ゲロンの攻略こそが今回のデストラーデ討伐そのものの最大ポイント。


 最初からその一点に集中して西園寺華那子を走らせておいたのが勝因だった。


「つーか、魔王級クエスト攻略か……夢じゃなかったんだ」


 火の付いた煙草一本がようよう灰になりゆく頃、やっと頭がハッキリしてくる。


 そこでちょうど女秘書が戻り、今度は洗濯物の代わりに俺の着替えを持ってポニーテールを揺らした。


「祝勝会かぁ。デストラーデを倒したあとうたげは艦上で何回もやったんだけどな」


「そりゃねーッスよお」


 と、観葉植物の葉陰からガルシアがあらわれた。


「領地で待機してた自分らはまだ騒げてねーんスよ」


 確かに、それには一理ある。


 艦上のうたげは必然的に前線の150人だけのものだったからな。


 ガルシアや五十嵐さんも、今回の魔王戦へは連れていかなかったワケだし。


「つーか、ガルシアお前。いつからそこにいたの?」


「え? そりゃ旦那と五十嵐さんがイチャイチャしてたんで、邪魔にならねーよう隠れて見てたんス」


「茶化すなよ。自らの身で枕になってまであるじつかえる……五十嵐さんはこれでも真面目なんだぞ!」


「やれやれ、相変わらずッスね」


 俺が叱ってもこの調子だ。


 こいつは不真面目なヤローだな。


「エイガさま、そろそろ……」


「あ、ああ」


 ひつじの刻が近づくと、何やら外が騒がしくなってくる。


 やかたの前に領民たちが集まってきたらしい。


 スイカ、イコカ、マナカのメイドたちも、酒やら食べ物やらの”大盤振る舞い”の準備にせわしなく働いている。


 時間だ。


 俺は五十嵐さんの手を借りて着替え、二階へ上り、テラスへ出る。


 晴れた日の光とともにさわやかな歓声が飛び込んで来た。


 ……ばんざーい! ばんざーい!


 なんか、思ったより集まってきているみたいだ。


 やかた前の空き地に密集する人々の一人一人の白い歯やきらめく眼が、まるで夜空に広がる星のように見える。


 ウチの領地は村ごとに姿恰好がけっこう違うので、各村からやって来ているのが分かった。


 五十嵐家のある中村、温泉を掘った磯村、畑が盛んな谷村、チヨたちがふんどしで木材を扱う木村、人魚のような海女たちの住む島村、アキラが一人前になった山村、そして……一度、新港を作って関係が悪くなった外村の者の姿もあった。


 こうして各村から人がやってきてくれているのを確認すると少しホッとするな。


「わー、すごい人ッス~!」


「魔王級クエストのクリアは極東では初の快挙ですから。みんなとても喜んでいます」


「そっか……」


 こうなるとなんだか改めて喜びがこみあげてくる。


 俺は両手を広げてみんなへ向かって「おーい! おーい!」と大きく手を振った。


「領主さまー!」


「魔王を倒したなんてステキー!!」


「スゴいっぺ!」


「夢をありがとー!」


 夢をありがとう……か。


 そりゃまったくこっちのセリフだ。


 勇者パーティを解雇になった時には夢のまた夢と思われた魔王級クエストを踏破できたのは、別に俺の力じゃない。


 全部この遠雲の土地と人々の力なんだから。


「でも、エイガさまはその力を育ててくれています」


「そっか……そうだな」


 確かに、育成はした。


 俺の持てる限りの育成スキルを駆使して。


 これからも。


 それだけは間違いのないことだった。


「じゃあ……」


 振り返ると、女秘書は鋭い目で睨むように俺を見た。


「俺自身もこの遠雲の活力エネルギーの一部だって……そう思ってもいいのかな?」


「……はい」


 彼女はそう答えて、ちょっぴり微笑ほほえみをくれた。





いつも誤字脱字訂正、感想などありがとうございます!(黒おーじ)

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