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【18章挿話】 育成者エイガ・ジャニエス


「来たか……」


 俺は戦いの前のストレッチをしながらつぶやいた。


「副将のゲロンはどうした?」


「処理させましたわ」


 と、女忍者。


 そもそも。


 俺たちが今回の魔王デストラーデ戦で“一番の脅威”と考えていたのは副将ゲロンの頭脳だった。


 魔獣軍団の破壊力はすさまじい。


 だが、その力をひとつの目的に集中させる戦略を持っているのは一匹の老魔人のみ。


 西園寺華那子の一味が敵に通じてくれたおかげでそこらへんの情報は筒抜けだったんだよなぁ。


 だから、こうして獣王をおびきだし、孤立したゲロンを倒すのが先決だったのである。


 一方、森のあちらこちらでは戦いの音が響いていた。


 領民たちが敵の精鋭と戦ってくれているのだ。


「あとは俺がしっかりすりゃいいだけだな」


 と、つぶやいた時。


 すさまじい魔の気配を感じたかと思えば、なにか巨大なものが地に降り立ったような揺れと轟音が響く。


「命運尽きたな! 見つけたぞ、エイガ・ジャニエスめ!!」


 第七魔王、獣王デストラーデがあらわれた。


 俺はストレッチから起き上がり、答える。


「おっ、遅かったな。待ってたぞ」


「待っていた……だとぉ?」


 俺の返答に、真っ赤な瞳をギラつかせる獣王。


 体のサイズが想像していたものよりずっとデカく、威圧的だ。


「ふんッ、強がりはよせ! 今お前の領民たちはオレ様の家来と戦っている。つまり、裸一騎だ。領民がなければ勇者パーティを解雇されるようなお前に勝ち目はなかろう! ガッハハハハハ!」


「確かにな……」


 俺は『どうの剣(+71)を抜きながら続ける。


「俺は育成者だから、育成対象がなけりゃなんにもできない。でも、お前のようなザコを倒すくらいならワケないんだぜ?」


「ッ!?……」


 俺の挑発に、ヤツは声を失ったように何も言わない。


 でも、こりゃ嵐の前の静けさってやつだろう。


「くくくッ、コッカカカカカッ……」


 獣王はただ静かに笑いながらも毛並という毛並みを逆立てていた。


「…………もう一度言ってみろ」


 こ、怖え……


 でもビビっちゃいけない。


 気圧されたら負けだ。


「き、聞こえなかったのか? お前のようなザコを倒すくらいなら……」


「黙れぇい!」


 ふいに音波のような恫喝どうかつ


 獣王の肢体に暴力的な肉量が波打つ。


「無礼者が!! 死んであがなえ!」


 刹那、巨岩のような獣王の拳がこちらへ向かって振り下ろされた。


 力強く、猛スピードである。


 どおおおん……!


「ふんッ、なんという愚かな人間だ。わざわざ死に来るなど」


 デストラーデはそうつぶやいて拳の下をのぞき込んでくる。


 だが……


 俺は死んでなどいない。


 左腕一本で拳を受け止めていて、少し微笑すると言った。


「これが自慢のパワーか?」


「なッ……なにィィ!!」


 タネあかしをすると、これは一度きり通じる奇襲のようなものだった。


 例えば。


 攻撃においても、タイミングよく攻撃するとクリティカル・ヒットと呼ばれる強いダメージを与えることができる。


 それが防御においても存在し、タイミングよくガードを繰り出すとクリティカル・ガード(パリィ)と呼ばれる状態になるのだ。


 勇者パーティ時代からクロスたちには教えていた防御テクだが、これがなかなか難しくて安定しないんだけどな。


 今の俺だってチヨへの憑依によってやっと成功率50%まであがったところだった。


 さらに今のは相手をじゅうぶん挑発して攻撃を読みやすくしていたので、ジャストのタイミングを取ることができたのである。


「お前が一撃放ったのだからな。次はオレの番ターンだ」


「ひッ……」


 このクリティカル・ガードが成功すると攻撃によるダメージは0になる。


 そして……敵にはしばらく無防備な硬直時間が生じるのだ。


 俺は右手に持った『銅の剣(+71)』で思いっきりの打撃を繰り出した。


「おらああああ……!」


「ぐおおお!!」


 渾身の一撃がデストラーデのボディへヒットした。


 調子よくクリティカル・ヒットでもある。


 生まれてこの方のベストショット。


「??……今、何かしたか?」


 が、その攻撃は魔王へはほとんどダメージを与えなかったらしい。


 俺はとっさにつるぎを引き、敵と距離を取った。


「クククク、ふはははは……! おどかしおって。しょせんお前は魔王級の戦いにはついて来れられない凡人よ。どんなに努力したところで、領民がおらねば何もできぬのだ!」


「……別に、わかってるさ」


 俺はそう答えると、五十嵐さんが紐をつけてくれた【古王の勾玉】へ祈りをささげた。


「でも、居るから。領民は」


「ああん?」


 すると、胸元の石が青く光り、エネルギーが集まってくるのを感じる。


 はるか遠くの大地と領民たちの活力である。


 そんな膨大な力をまとい、俺は再び銅の剣を構えた。


「ふんッ、まだ無駄だとわからんのか。キサマのヤワな斬撃では何万回来ようとオレ様の体に傷ひとつつけることはできぬわ!」


「別に、もう一撃でいいし」


「ふんッ、下っ歯がゆいことばかりほざきおって! もう飽きたわ。死ね!」


 ……スローだ。


 魔王の動きがスゲーゆっくりに見える。


 そしてこのあお(みず)(みず)しいエネルギーに包まれながら、俺は獣王の首へつるぎを差し入れた。


 不思議な感覚だ。


 ほとんど手ごたえはないのに、大木のような首はまるでバターのように滑っていく。


「ッ!……」


「お前がいかに強かろうとしょせんは個の力。国全体の膨大なエネルギーにかなうワケはねーのさ」


 そんなセリフは第七魔王には届いていなかっただろう。


 すでにヤツは事切れ、光の玉となって地獄へと還っていったのだから。




18章終わり。

19章へ続く。


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