敵情報告
「して、これからどうしたものか……よい案のある者はあるか?」
森に陣を敷いたデストラーデは軍議に入る。
王はそのように仰せであるが、獣魔の軍に智の巡る家臣は多くない。
魔物たちは大きな頭に『?』を浮かべながら、もてあました猛々しい肩を突き合わせて背を丸めている。
ただ一匹を除いては……
「デストラーデ様。あわてる必要はございませぬぞ」
そこで案の定、ゲロンが異様に長い後頭部を光らせながら言う。
「皆の衆。そもそもあの艦の強さとはどのようなモノかお分かりですか?」
「なにィ?」
「決まっている!」
「あの主砲ペンタグラムの威力じゃないか!」
魔獣どもが口々に答える。
「左様。しかしペンタグラムのような融合魔法を成すには膨大な魔動装置と砲台が必要でございましょう? あの艦はそんな重量級システムを搭載しているにしては極めて小規模の船なのでございまする」
ざわ、ざわ……
場にどよめきが起こる。
「小規模の船、だと?」
「あの巨船が?」
「そう……。あの艦は大きいからスゴイのではなく、融合魔法の重量級魔法システムを積んでいるにしては小さいから脅威なのでございまする。その結果、『攻撃力』と『機動力』を併せ持った艦に仕上がっている。距離を取って主砲のタメを作ることもできるし、ラムを用いた接近戦も強力ですじゃ。これではこちらから攻めていってはまず勝ち目はありますまい」
ゲロンの敵情収集は念入りだった。
敵を知り、己を知ることの大切さを心得ているのだ。
だが、獣王や家来の獣魔たちは、そのような敵の強さを知って対応する頭というのがなかった。
「ゲノンよ。すると我らはヤツらに敵わないということになるのか?」
「いいえ、デストラーデ様。以上のことから敵の融合魔法の弱点というものが見えてくるのでございまする」
「弱点だと?」
「そう。ヤツらが融合魔法をフルパワーで使うには、艦に乗っていなければならない。つまり、艦の射程から離れた内陸へ逃れればペンタグラムは届かないのでございまする」
実際には主砲ペンタグラムの射程は大陸の山奥までも到達する。
しかし、敵影が視認できなければ狙いをつけることはできない。
すると無差別放射ということになるが、ペンタグラムの威力はあまりに大きい。
範囲を絞らず無差別に打てば周辺環境を死滅させてしまいかねないので、事実上、海上から沿岸部の敵にしか放つことができないというわけだった。
「うむ。それはわかった。だからこそ森の中に陣を敷けと申したのであろう。しかし、それではこちらからも攻撃することができぬぞ?」
「その点もご心配にはおよびませぬ。敵はこの戦いを“クエスト”として行っているのですからな」
ゲノンはいつものヒッヒッヒ……という不気味な笑いをはさんで続ける。
「敵の使命は我らを滅ぼし地獄へ還すこと。されば、我らが森へ向かうならば森へ、山へ向かえば山へと追い立てなければならぬ。艦を降りて、ですじゃ」
おお……!
魔獣兵たちの間に希望の声が漏れる。
「すると、こうして林中に陣を敷いていれば、ヤツらから攻めて来てくれるというワケか」
「左様でございまする。そして、森の中の接近戦であれば、我らに敵は……」
「……我らに敵はない!」
言葉の締めくくりを獣王が継いだことで、場はドっと盛り上がった。
「そうだッ!」
「そうだッ!」
「人間などに侮られたままでいられるか!!」
「皆殺しにしてやるぞ!」
オオオオオオ……!!!
こうして消沈していた家来たちの士気もみごと回復したのである。
◇
ゲノンは敵情把握能力に優れている。
それは敵側の情報提供者――つまり裏切り者を誘うのが上手いということだった。
「……あらわれたのう」
軍議の後。
ゲノンは森の木々の暗闇に向かってそうつぶやいた。
シュン……シュン……
するとどうだろう。
何もないように見えるその陰に、同じ顔をした二人の男の姿が浮かんでくるではないか。
「あの大砲にやられたようだな」
「まだ戦えるのか?」
「……右京、左京」
ゲノンは同じ顔をした二人の男、極東で忍者と呼ばれる一族の者どもへ向かって答える。
「想定のうちじゃ。キサマらの提供した敵情が正確ならば、のう」
「……ならばいい」
「いずれにせよお前たちには勝ってもらわなければ困るぞ。我らが支援している以上な」
どちらが右京でどちらが左京かは判然しないが、そのように詰めてくる。
そもそも。
エイガ・ジャニエスは極東文化圏のひとつの領地を治めている。
その極東文化圏の有力な忍者一族がエイガの後ろ盾となろうとしているらしい。
だが、どのような集団も一枚岩ということは少ない。
もしやこの忍者一族にはエイガの後ろ盾になることに反対意見を持ち合わせている者もいるのではないか?
そうアタリをつけてみれば、まさしくその通りだったというワケだ。
「ヒッヒッヒ、心配ないわ。キサマらがいれば敵の動きは筒抜けじゃからのう」
「……ヤツらは艦を降りて上陸したぞ」
「じきに森へ攻めてくるだろう」
右京と左京はそう残すとまた暗闇へと消えて行ってしまう。
(ふん、不気味な連中じゃのう……)
ゲノンは心中そうぼやきながらもこの戦いの勝利を確信していた。
拮抗した戦いを決するのは、いつだって情報戦なのだから。
続く。
次回もお楽しみに。
※明日も更新予定。





