魔王の条件
魔王となる条件は以下の五つ。
一、自らの心底の望みに忠実であること
一、望みを実現しうる強さを持つこと
一、闇の属性を持つこと
一、すべての魔王から承認を受けること
一、強き闇の眷族を副将として率いていること
勇者……
魔王の副将としてこれ以上ふさわしい存在はなかった。
あとは勇者の光の気質を、闇の属性へ転化させればよい。
強い光を持つ者であればあるほどまた強い闇を抱えているものだから。
「ユウリ、あれでよかったのか?」
九天魔上の廊下で全身鎧の騎士が尋ねた。
「十分だよ。自らのメンツのために強行動を選択できないような連中だ。じきに既定路線へ流されるさ」
ユウリは軽く頭にふれながら続ける。
「でも問題はエイガ・ジャニエスだ。デストラーデさんが侵攻に成功して下の世界が闇に包まれれば、四天王は八体目の魔王の存在を認めないだろう。癪に障るけどエイガ・ジャニエス、ヤツが勝つように工作するしかないかな」
「……エイガは勝つさ」
「えー? あんな男があの獣王デストラーデを倒せるとは思えないんだけど?」
ユウリは疑わし気に眉をひそめて尋ねる。
この男にはこの期に及んでまだ仲間や友への慕情が残っているのだろうか。
「決まっている。エイガを殺すのはこのオレだからな」
「ふーん」
「……剣を振ってくる」
仮面の騎士は石畳に金属音を響かせて廊下を去っていった。
カシャーン、カシャーン、カシャーン……
「まあ、いいか。どうせすぐに忘れる。仲間のことも、エイガ・ジャニエスのことも」
ユウリは去って行く騎士の背中から目を切り、九天魔上の奥へと踵を返した。
◇
「暴力の時間だ! 我が眷族どもよ!」
ガオオオオオー!!……
デストラーデの軍勢が鬨を上げた。
魔王の意志は区切れ目のない混ざり合った魔性の混沌を『一つ、一つ』へと裁断し、魔物として象づくる。
デストラーデの意志――心の底からの望みとは、破壊そのものだ。
彼の具象化させる万の軍勢もその意志にふさわしく、畜生道を究めし魔獣ども。
獣型、獣人型、鬼型……型はさまざまだが、遍く合致しているのは逞しい体躯に狂気を帯びた瞳である。
ちなみにこの軍勢は地獄から現世へ自然と滴り落ちて魔物化するC~A級の通常モンスターとは違い、『親』である魔王の命令に忠実だった。
だから、獰猛で知性が低くとも統率が取れるのだ。
「デストラーデ様。お久しゅうございまする」
しかし、その中で一匹だけ毛色の違う魔物があった。
「む、その声は……ゲロンか!」
魔王の前にひざまずいていたのは、シワだらけで弱弱しい魔人である。
他の巨大な魔物たちと違って、人よりも幾ばくか小さいくらいのサイズだ。
「ゲロンよ、ようやく復活したのだな!」
「はい、たった今のことでございまする。前回のグリコ戦では復活が間に合わず口惜しゅう思いをしてございました……」
「フフフ、もうよい、もうよい。それより存在力は安定しているのか?」
「問題ございませぬ。それもこれも魔王デストラーデ様のおひざ元に居させていただいておりますゆえに、こうして幾度も同じ個体として自我を維持できるのでございまするよ。もっとも、このたびは復活に150年の時がかかってしまいましたが……よよよよよ(涙)」
ゲノンは涙ぐみ、皺くちゃな頬を濡らした。
布を取り出してそれを拭くと、後頭部だけ異様に長い禿頭が光る。
その長い後頭部の中には人をはるかに超える脳がびっしりと詰まっているのだ。
「ところで、このたびはデストラーデ様が下界を支配下に入れる絶好の機と伺ってございまする」
「まさしくそのとおりだ」
「して、策はいかに?」
「策……?」
デストラーデが恐ろしい貌をしかめる。
「ふんッ。敵は弱小。とにかく一斉に前進して前からプレッシャーをかけていけばよい」
「お、お待ちくだされ。それでは敵の思うつぼでございまする」
「なにィ……?」
獣王の額に血管が浮かんだ。
「キサマ、このオレ様の膂力を疑うのか!!」
「め、めっそうもございません(汗)」
ゲノンは枯れ木のような腕で冷や汗をぬぐう。
「デストラーデ様の暴力は圧倒的。噴火の如くいかなるものも破壊する。しかし、すさまじいエネルギーを放出する噴火もその向かう先が散らばっていては敵を倒すことはできませぬ」
「む、むう……」
デストラーデがこのように唸るのは、この老人の言うことについてだけであった。
組織の鍵は副将が握る。
魔王の条件である『強き闇の眷族を副将として率いていること』というのはこの理念に基づいている。
そして、第七魔王デストラーデにとっての副将はこの老人、ゲロンなのであった。
「エイガ・ジャニエスはたしかに弱小。しかし、『エイガの領地』は難敵でございますぞ」
「ふんッ、なるほど。調べはついていおるのだな?」
「ヒッヒッヒ、もちろんでございます」
ただし、このゲロンに戦闘能力はほとんどない。
彼の副将たるゆえんは知略。
策謀の力。
いわば軍師である。
そう。
単体ではただの自然災害のような存在のデストラーデは、ゲロンという軍師とセットで魔王としての真の力を発揮するのだ。
「ならばゲロン、策はお前そのものだ。オレ様はただ破壊する。この破壊のエネルギーをどうにかエイガの心臓へ向けてみせよ」
「ありがたき幸せにございまする!」
ゲロンは主を拝み、ボロボロと涙を流す。
この爺は涙腺が弱いのだ。
「では皆の者! 参るぞ!!」
グオオー!
ガオオオ!!……
こうしてベストメンバーとなったデストラーデ軍は、地獄と現世の境界を渡っていくのだった。
つづく。
次回もおたのしみに。





