仮面の騎士
トントントン……
ノックの後、議場の扉が開かれて餓鬼があらわれた。
「失礼しますでゲス」
「むっ、なんざんすか。会議中ざんすよ」
アニムスの触角にギロリと睨まれた餓鬼は震え上がりながらも答える。
「いえ、その……議題をお連れしたのでゲス」
「お連れした、だと?」
デストラーデは扉の方を見やった。
すると、そこには見慣れぬ二人の男が立っているではないか。
一人は大きな鎌をかついだ銀髪の少年。
もう一人は全身鎧で顔まで装甲に覆われた騎士……
「なんだキサマらは? 人間じゃないか」
「あれー、聞いてないのかなあ」
銀髪の少年が首をかしげる。
「ゼノスさんからは、筆頭の人に話は通ってるって聞いたけど?」
「あ、忘れてた……」
四天王筆頭、第四魔王ナルシスは素(?)のような声で隻眼を見開くが、すぐにクククッと口許を押さえる。
「……が、変わらぬこと。すべてはラグナロクへの布石にすぎない」
「うふふふ、確かにキミの言う通りだね」
ナルシスのワケのわからない言葉が通じているだと?
デストラーデたちに衝撃が走った。
「話が通ってないならしょうがないや。あらためて四天王のみなさん、こんにちは」
少年は鎌を抱えてペコリとお辞儀する。
「自己紹介するね。僕は死神のユウリ。ユウリ・フォンタニエだよ。今日は魔王になりたくて来ちゃいました。テヘッ♪」
「な……なんだと!?」
場はにわかに色めき立つ。
「キサマぁ!」
「人間ごときが何をいうケー!」
「控えろざんす!」
これにはデストラーデのみならず他の魔王たちも声を荒げた。
「まあまあ、落ち着きなよ」
常人ならとっくに失神してしまうだろう魔王たちの怒気に、少年は飄々として答える。
「これは規定路線なのさ。魔の周期が高まる時、八体目の魔王があらわれる……すると何が起こるか、すごく長生きししてきたみなさんはご存じでしょ?」
「次元軸移動……ざんすか」
アニムスが触覚の先の目玉をギョロっとさせる。
――次元軸移動。
次元の軸がズレ、上の世界と下の世界との境界が曖昧になる現象のことである。
通常期には魔王は一体ずつしか下の世界へ顕現できないが、次元軸移動が起きると次元の障壁を超えやすくなり、すべての魔王が自由に降り立つことができるのだ。
はるか古代に起こった次元軸移動ではさまざまな古王が滅ぼされたという。
「次元軸移動を起こすには八体目の魔王が立つ必要がある。そして僕は魔王となる条件をそろえて来た。後はみなさんが僕を魔王として認めるだけでいい」
「バカを言うな! 人間であるキサマに魔王が務まるものか!」
「……まあ、待つざんす」
これに興味を示したのはアニムスである。
「ミーは考えてやってもいいざんす」
「何を言う!?」
「ホーホホ、通常期は下の世界へ顕現できる魔王は一度に一体。次元軸移動を起こせば全ての魔王が一気に降臨できるざんす。侵攻もたやすいものになるざんしょ」
「ふんッ。そのようなものに頼るまでもない!」
当然、デストラーデは反発する。
「ちょうど次の顕現はこのオレ様。見ておれ、このデストラーデ様のパワーで下の世界などすぐに滅ぼしてみせるわ!」
またアニムスのため息が聞かれるかと思われたが、話はそう単純ではなかった。
「相変わらずの脳筋、と言いたいところざんすが……たしか予言庁のエル、つまり我らのスパイの情報によると、次の侵攻の敵はエイガ・ジャニエスとかいう三下だったざんすね」
「ケケー! 勇者は強かったケー! でもその勇者パーティを解雇されたヤツなんかにデストラーデが負けるとは思えないんだケー! ケケケッ!」
そう。
みな次元軸移動を起こすのが強行動だとはわかってはいるが、四天王からすると魔王が増えるなどということは喜ばしい話ではない。
魔王という称号の稀少性が薄まるからだ。
せっかく次回に相手が立てた冒険者が弱いという情報があるのだから、まずは単独の魔王で攻めてみればいい。
「魔王戦に勇者パーティの二軍のような冒険者で応じようなど……敵も油断しているようざんす。次元軸移動になど頼らず次のデストラーデの侵攻で事が成ればそれが一番。八体目の魔王を立てるかどうかはその後に決めても遅くはないざんす。ナルシス。そういう方針でどうざんしょ?」
「……クククッ、どうやらそれがアビスの運命らしい」
四天王筆頭のナルシスがワケのわからない言葉で返したので、F4の結論は決定したということを意味する。
「ふんッ! グリコや勇者ならばまだしも、エイガなどというザコでは楽しみ甲斐がないな」
「デストラーデ、遊びじゃないざんすよ」
たしなめるアニムス。
デストラーデは獣の鼻頭へシワを寄せて答える。
「案ずるな。獣王はウサギを狩るのにも全力を尽くす。オレ様の望みはただ純粋に破壊と暴力! ザコが相手でも手を抜く気など毛頭ないわッ! ガハハハハハハ!!」
「やめておけ」
その時だ。
唐突に聞き覚えのない声が議場に響いたのは。
デストラーデは四天王を見渡すが、やはり誰のものでもない。
少年の声とも違う。
魔王へ向かって誰がそのような無礼な口を?
「やめておけと言ったんだ。時間のムダだ」
二度目の声でわかった。
どうやら少年の横について来た全身鎧の騎士の声らしい。
騎士はカシャンカシャンと装甲の金属音を響かせながら一歩、二歩、三歩と進み出ると、フルフェイス兜の刃のような仮面を燦然とさせて言った。
「今すぐ新魔王を承認しろ。待っていてもどうせ何も変わらない」
「あぁん? どういう意味だ?」
「お前のようなザコにエイガが負けるはずがないからな」
「ッ!?……」
デストラーデは瞬間声を失う。
嵐の前の静けさ。
獣王は静かに笑いながらも毛並という毛並みを逆立てていた。
「くくくッ、コッカカカカカッ……もう一度言ってみろ」
「聞こえなかったのか? お前のようなザコにエイガが負けるはず……」
「黙れぇい!」
音波のような恫喝!
獣王の肢体にあの暴力的な肉量が波打つ。
「無礼者が!! 死んで贖え!」
そして獣王の拳が、戦車を潰すのと同じように騎士へ向かって振り下ろされた。
どおおおん……!
「ふんッ、なんという愚かな人間だ。わざわざ死に来るなど」
デストラーデはそうつぶやいて拳の下をのぞき込む。
だが……
「これが自慢のパワーか?」
なんということだろう。
そこには左腕一本で獣王の拳槌を受け止める騎士の姿があった。
「なッ……なにィィ!!」
「お前が一撃放ったのだからな。次はオレの番だ」
仮面の騎士はそう言うと、余った右手で剣の束へ手をかけた。
「クロスさん!」
そこで少年が叫ぶ。
「もういい。これで十分さ」
「ユウリ……」
刹那の静寂の後、騎士の剣はカチンッと鞘へ収まった。
「と言うワケで四天王のみなさん。くれぐれもよく考えておいてね」
銀髪の少年は可愛らしくニコッとほほ笑むと、全身鎧の騎士と共に議場を去って行くのだった……
つづく。
次回もおたのしみに!
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