第14話 祝福の奏
ガルシアの調査によって、ティアナのファイルよりも詳しく7つの村の概要をつかむことができた。
人口と主な産業を並べるとこうだ。
1『中村』 1200人(穀物)
2『磯村』 700人(海産)
3『谷村』 300人(野菜)
4『木村』 120人(材木)
5『島村』 80人(海産)
6『外村』 50人(商業)
7『山村』 32人(?)
最も大きい『中村』は今、田植え前の繁忙期である。
まだまだ大規模に人員を招集することができそうにない。
次の『磯村』も漁期によっては忙しい人も多い時期なのだそうだ。
よって、さしあたっては将来の幹部候補となりうる職性を持った者や、特に有用なスキルを身に付ける可能性のある者だけを少数……25名選抜した。
これは約2500名の領民の1%強に相当する。
シーズンを問わずにクエストへ参加する者は人口の2%を超えない範囲、つまり25名~50名に留めるべきであるというのが、俺とガルシアで話し合った末での方針だった。
また、人口の多い村、少ない村というのがある点にも注意が必要だ。
たとえば、人口は少ないけれども商業で後々ポイントになってきそうな『外村』や、下手したら消滅の可能性がありそうな『山村』からは、今回招集はしていない。
山村についてはまだなにやってるかもよくわかってねーしな。
で、その選抜25名の内訳はこう。
・攻撃系魔法使い 10名
・前衛剣士 7名
・支援系魔導士 3名
・回復系魔導士 2名
・射手 2名
・武闘家 1名
攻撃系の魔法使いを多く取ったのは、先々のことを考えてのことだ。
というのも、領民の中からの『選抜』とは言え、みんなそれほどの才能を持っているワケではない。
だから、将来的に【融合魔法】で魔力を合わせて、全体として高い攻撃力を得られるようにしたいってワケ。
まあ、それはあくまで将来的な話で、すぐにそこそこの戦力になるのは7名の剣士だろう。
ただ、剣士も抜きん出た才能の持ち主がいるワケではないから『支援系魔法』を掛け合わせていけなければ未来はない。
そういう意味では、支援系の職性を持つヤツをもう少し多く集めてもよかったかもしれないな。
一方。回復班が少ないように思われるかもしれないけど、回復はアイテム物資で補うことができる。
将来を見越して、【全体回復魔法】を覚える可能性のある2名だけを選抜した。
あと、射手と武闘家について。
射手は、さっき言った【融合魔法】が可能になったら、最終的にモンスターへ攻撃を命中させる役割を担うはずだ。
今のうちから弓やマスケット銃で腕を磨いて欲しいと思って呼んだ。
今回選んだひとりは、じっさいに山で鹿狩りをしていたおっさん。
もうひとりは、『島村』で海女をしていた少女である。
武闘家は『木村』のふんどし娘だけど、彼女については戦闘能力以上に期待している役回りがあった。
それは【輸送能力】である。
今は少人数を領地の西へ連れて行けばイイだけだけど、今後は100名を超える部隊を引き連れてクエストをこなしていこうと考えている。
その際、大量の『回復アイテム』や『食料』、『装備の予備』などと共に移動しなければならない。
だから、彼女の材木を運んでいた経験はすげー重宝すべきものなのだ。
ただ、武闘家娘にクエストで活躍してもらうということは、『領内の材木流通』に影響を及ぼしてしまう可能性がある。
すると、領主としての【内政】って観点からいけば、まずは『流通』のためのインフラ整備ってことになりそうだけど……
今のところ物量不足だ。
◇
「ヨルド!!」
俺は氷系の攻撃魔法(レベル1)を唱えた。
キーン……
氷柱のような氷の刃が、火系のカエル【タバスコ・ガマ】へ襲いかかる!
「おー!!」
「スゲー」
「さすが領主さまだ!」
モンスターが倒れると、その場の男女が歓声をあげた。
で、【祝福の奏】により2倍の経験値がこの25名へ降り注ぐ。
「いいか!モンスターを見つけても戦うなよ!俺に知らせるんだ」
そう口を酸っぱくして命じるのだが、
「えー」
「なんでですかぁ……」
「オラらも剣とか魔法でモンスターを倒してみてぇだ」
と、不満げな領民たち。
うーん。そろそろ戦わせてやってもいいかなぁ……
そう思って俺は【ステータス見】の能力で選抜隊を眺めてみる。
「……」
まあ、もっとも。
俺の『ステータス見』の能力は中級の域を出ないし、そもそもステータスというのは鵜呑みにしてはならないものである。
というのは、『戦闘能力の項目を数値化する』というのは、けっこうムリヤリなところも多いものだからだ。
ステータスの分野には、『どの切り口で、どの前提で、どの基準で数値を計るのか……』という対立がたくさんあり、現にいろいろな説やモデルがあって、世の学会ではゲンナリするような思想的、宗教的な対立が起こっていたりもする。
ただ、そーゆー点をふまえて、あくまで『目安』として使うのであれば、『ステータス見』も有用なものである。
それで俺がいつも初級、中級レベルの冒険者に対して使っているのは【戦闘力】というステータスだ。
これはポピュラーで一般性があるし、最初からザックリしているので『目安』として見るにはピッタリなのだ。
しかし……
俺は『剣士』として採用した『谷村』のおじさんを見てみる。
戦闘力……たったの5か……。
みんなの熱意は買うけど、まだ戦わせるワケにはいかないな。
武闘家だけは戦闘力32あるけれど、あの娘はあらかじめ【憑依】によって訓練を積んでいたからで、他の面々はおじさんと似たり寄ったりである。
俺はまだみんなに戦闘を禁じ、自分で『角付き兎獣』『グッド・ビー』『マーガリン・ドッグ』などを立て続けに倒していった。
そー言えば戦闘は久しぶりだな。
相手は初級モンスターだけど、やっぱり楽しい。
そう思って振り返ると、みんなだいぶ戦闘力も上がってきていた。
17、23、14、11、32……
うん。
俺は人の【レベル】を見てやることはできないけど、どうやら経験値2倍の恩恵でみんなレベルも上がったようだな。
これくらいだったらもう重傷を負うこともないだろう。
みんな俺がマリンレーベルで買っておいた中級の装備も身に着けているしね。
「よし!もう戦っていいぞ!!」
おおー!!
領民たちは待ってましたという感じで飛び上がり、モンスターを探しに散っていった。
「おい!!あんまり離れすぎるなよ!」
「あっ、すんません」
若いヤツはのめり込み過ぎて遠くへ行きがちだから止めに入らなければならないな。
やれやれ。
他にもそーゆうヤツが出てこないか……と見渡したとき、
「よっしゃー!倒したぞ!!」
ざわ……
領民によるモンスター討伐第一号が出たようだ。
やっぱり剣士か。
相手は『グリーン・バッド』だった。
「おー、すげー」
「いいなー」
と、周りの声。
「よくやったな!みんなももう、これくらいできるはずだぜ!!」
しゃー!……と言って、みんなまた気合いが入る。
こういうものは、最初に誰か『できたヤツ』が出てくると、その場のみんなもできてくるものである。
『あ、できることなんだ』
って、思うんだろーな。
それぞれが一匹以上はモンスターを倒し、勝利の喜びを知ったようだ。
それから俺は、『どっちが倒したか』でケンカするヤツらを止めたり、またひとりで遠くへ行きそうなヤツを呼び止めたり、熱心にも質問してくるヤツに答えたりして、自分で戦うことはしなくなった。
別に俺がモンスターを倒さなくても、この場の誰かが倒せば【祝福の奏】はみんなに恩恵を与えるのである。
だったら、戦い方を実戦で身に付けていってもらった方が実質的な強さはあがっていくだろうしね。
カぁー、カぁー……
気づくと、空は茜。
「おーい!そろそろ帰るぞー!!」
「えー、もうちょっとやりましょうよー」
「んだんだ」
と言うが、夜はモンスターの魔性が強くなる刻なので、それはできない。
まだみんな、そこまでは強くなっていないからな。
でも、【戦闘力】を見ると、明らかにみんな上達しているのは確かだった。
71、65、49、81……
個人差はあるが、見違えるようだ。
ふんどしでお尻を出しているからであろうか。
モンスター討伐数の一等賞は武闘家の娘であった。
「みんな、初日なのによくやったって。また明日な」
「はーい」
そう言って俺たちは、ゾロゾロと南側へ引き返していった。
今日の戦いを振り返り、興奮気味に話すヤツが多い。
わっはっはっはっは……
あの微笑み合いに混じって仲よくすれば楽しそうだけど、俺は領主だから、西の空に浮かぶ三日月からの視点で彼らを見守りつつ帰った。





