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四天王


「ケー! ケケー!!」


 地獄の空に響き渡る怪鳥の声。


 第五魔王パニコスは巨大な翼をバサバサとはためかせながら叫んだ。


「ケケー。見えてきたケー! 九天魔城だケー!」


「むう」


 パニコスの触手へぶらさがる獣王デストラーデはそう答えて彼方を見やる。


「……いつ見てもすさまじい城だ」


 九天魔城。


 第一魔王ゼノスの居城であるこの城は七(むね)からなる超高層ビルの集合体だ。


 中でも『ツインタワー』とも呼ばれる二(むね)の摩天楼は、双方ともに110階!


 まさに九天を穿うがつがごとき虚無なる威容である。


「着陸するケー!」


 やがてパニコスは高度を下げ、城の中庭へ着陸した。


 ずどーん……!


「デストラーデ様、ご到着でゲスー!」


「パニコス様、ご到着でゲスー!」


 城の召使めしつかい餓鬼がきどもがワラワラと湧き、二柱の魔王を迎え入れる。


 ちなみに着陸の拍子で数匹の餓鬼がぺしゃんこに押しつぶされていたが、誰もそんなことを気にする者はなかった。


 なんと言っても今日はF4(Fear4)。


 場所はこの九天魔城の総会会議場である。


「ホーホホホ、ようやく来やがったざんす」


 さて、デストラーデたちが議場へ着くと癇に障る高笑いが響いた。


 ナメクジのような軟体に触角の先へ目の飛び出た怪人。


 第六魔王アニムスである。


「それにしても相変わらず知性のカケラもないツラざんすねえ」


「なにぃ! アニムスめ!」


 デストラーデは獣の口をガオオッと開ける。


 彼とアニムスは、魔王たちの中でもとりわけ仲が悪いのだ。


「キサマにだけは言われたくないわ! この雌雄同体が!」


「マー、なんという偏見ざんしょ。それが遅くに来た者のセリフざんすか?」


「ケケーッ! 遅くないケー! がんばって飛んで来たんだケー!!」


 パニコスがぷんすかと抗弁する。


「パニコスの言う通りだ。それに我らよりもナルシスがまだ来ておらんではないか」


「……オレならここにいる」


 そんな声がして見やると、空席だったと思った場所に黒づくめの男が腕組みをして座っていた。


 黒髪に白い眼帯、手足のところどころに包帯を巻いた魔人。


 第四魔王ナルシスである。


「なッ! ナルシス……キサマ、いつの間に!?」


「クククッ、ずっとここにいたぞ。気づかなかったのか?」


 ゼロに近いほど気配を消していたのだろう。


 自らの強大な力を完全にコントロールしなければ成せぬ芸当である。


「しかし、なぜそのようなことをするのだ?」


「わかりずらいだけだケー!」


「べ、別に……それがこの邪王神眼の意思なのだ!」


 ナルシスは神妙に答えるが、デストラーデとパニコスの頭の上には「?」が浮かぶばかりだった。


 ともあれ。


 F4の面子はそろったことになる。


 第四魔王ナルシス。


 第五魔王パニコス。


 第六魔王アニムス。


 第七魔王デストラーデ。


 地獄ではこの魔王四体を四天王とも呼ぶ。


「やれやれ……キサマたち、いつまでも遊んでないで議題にかかるざんす」


 こういう時に一応話し合いを進めようとするのは理屈屋のアニムスである。


「議題と言ってもなあ。何を話し合うのか聞いておらぬぞ」


「ミーも詳しいことは聞いてないざんす。でも、『下の世界』への侵攻のことらしいざんす」


 下の世界とは現世のことである。


 そう。


 地獄の者からすれば地獄こそが現実世界。


 地獄に生じた者たちからすれば、エイガたちが暮らす次元は“異世界”なのである。


 外国人から見れば自分は外国人というのと同じこと。


 人間も含めて地獄に住む者たちは自分たちの次元を『上の世界』と呼び、現世を『下の世界』と呼ぶのだ。


「なあに、我ら魔王にかかれば下の世界を支配下に入れるのなどたやすいこと。時間の問題だろう」


「はあ……やれやれ、たまにアホがうらやましく思われるざんす」


「なに!」


 怒るデストラーデへため息を返すアニムス。


「冒険者どもはどんどんレベルを上げていっているざんす。下の世界へは一体ずつしか魔王が顕現けんげんできない現状ではなかなか攻めきれないのが実情ざんす」


「ふんッ、そういえばキサマ。下の世界で『勇者』とかいうのにこっぴどく負けたらしいな。それで臆病風に吹かれたというわけか」


「ぐッ……どうとでも言うざんす。脳筋よりはマシざんす」


「なにをぉ!」


「なんざんしょ」


 ガオオオオ……!


 キシャー!!


 F4などと銘打たれているが、魔王が集まる会合がうまくいくことなどまれである。


 強烈な個性、偏執的な欲望、燃え盛るような自我エゴ……


 気取ってはいても基本は自分勝手な魔王たちが、仲良く話し合いだなんてできるはずがない。


 今回もケンカになって終わるのか?


 そう思われた時である。


 トントントン……!


 議場の扉がノックされた。




つづく

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