第七魔王
冒険者が魔物を倒すと、それは儚い光の玉となって空や大地へ飛んで行く。
この光の玉はいったいどこへ向かうのか?
それは魔物の本体が存在する次元……地獄である。
我々が普段目にする魔物は地獄の魔性エネルギーがこの世に顕現した仮の姿、アバターのようなものだ。
冒険者が魔物を打ち倒して一時の平穏を得たとしても、それは一時のこと。
魔物のエネルギーは光の玉となり地獄へ還って、力を蓄えると再びこの世にあらわれるのである。
彼らは次この世にあらわれる時はどのような個体となっているかはわからない。
前にはスライムだったものがオークとしてあらわれたり、ドラゴンだったものが次はスライムになりもする。
ただし、彼らにとっては別に何に顕現しようとどうでもいいこと。
ドラゴンが良くて、スライムが嫌だ……なんて人間じみたことは思わない。
そもそも魔物とは“個”など無い混沌なのだから。
しかし……
そんな魔物たちの中で、何度よみがえっても同じ個体として顕現する強烈な“個”を持った高位存在があった。
それが【魔王】である。
◇
「ゴアアアアアア!!!!」
第七魔王・獣王デストラーデは地獄の大地で雄叫びをあげた。
なんという声だろう。
その音量だけで自らが立っている岩山がパラパラと崩れかけてゆく。
二本足で立ちながら獅子のような黄金の毛並みに、虎の頭。
怒気を象徴するかのような真っ赤な瞳は、人間どもの軍勢を見下ろしている。
機銃、大砲、戦車……
地獄の次元に住まう人間の高い技術力によってそろえられた兵器の照準がすべて魔王デストラーデへ向けられていた。
「がぁぁああああ!」
デストラーデはもうひと吼えかますと、こともなげに岩山の上から飛びあがる。
ジャンプ攻撃は空中で無防備だ。
人間たちの対空砲が一斉に爆裂音を放つ。
バババババ!……ボン、ボン、ボン、ちゅどーん!!
それは獣王へ何十、何百発と命中して、辺りは濃霧のような火薬の煙幕に満ちた。
「……やったか?」
兵たちの誰かがそんなふうにつぶやいた時だ。
ふいにすさまじい轟音と大地の揺れが起こり、多くの兵が吹き飛ばされる。
「うわああああ!!」
「まだだ! 構えろ!!」
指揮官の命令と共に総員が注目したのは、まさに着地した巨大な獣人の影である。
背丈は成人男性四、五人ぶんほど。
それでいて肢体はゾウのように太い。
あれだけの砲撃にも傷ひとつ負っておらず、ただただ怒気に毛並みを逆立てていた。
「人間どもめ……オレ様にそのような小細工が通用すると思ったか!! カラダで来んかーい! カラダでぇ!」
「……うッ」
音量だけで失神してしまう者もいるほどの大声。
続いて獣王の獣毛ごしの暴力的な量の筋肉がモコモコと隆起したかと思えば、すぐさま巨大な拳が鉄槌のごとく振り下ろされる。
刹那、鋼鉄の戦車がバターのように潰されてしまった。
「ひ、ひいいい……!!」
「ひ、怯むな! 撃て! 撃て!」
再び地獄の人間たちの攻撃が始まる。
火薬、爆発、爆裂……
近距離でのあまたの命中に煙幕はあがるが、そこから聞こえてくるのは大きな笑い声であった。
声の主は巨大な足で機銃兵を蹴散らし、重機のごとき握力で大砲をひん曲げ、嵐のような腕力で戦車をひっくり返していく。
「がッはッはッは! 脆い脆い、脆すぎるぞ!」
もはや戦いは一方的である。
技術では超えられぬ圧倒的な物理力。
人の攻撃では魔王の体躯に傷ひとつ負わせることはできず、魔王の一撃で人は木っ端みじんなのだ。
パラパラパラ……
そして、やがて訪れる静寂。
真っ青な空の下でキャタピラーがむなしく空転していた。
「……ふんッ、歯ごたえのない連中だ!」
「ケーッケッケ。ずいぶんと派手にやったもんだケーッ」
ふいに、戦いを終えた肩ごしでそんな声がする。
振り返るとそこには巨大な鳥人が浮かんでいた。
「……パニコスか。久しいな」
第五魔王・鳥人パニコスである。
鶏冠頭ながら人型で腕が翼になっている奇妙な姿であるが、デストラーデほどではないもののこれも巨大なサイズを誇っている。
「まあ、軽い運動だ。オレ様にしてみればな」
「ところで、この人間どもはどうしたんだケー?」
「どうした、とは?」
デストラーデは猛虎の頭を少しかしげる。
「なぜ戦いになったんだケ? 人間風情が魔王に逆らったりするとは思えないんだケー」
「なぜもクソもあるか。戦いたいから戦う。壊したいから壊す。それ以上のことはない」
「……ケーッケッケ! そう言えばキサマそういうヤツだったケー!」
パニコスは笑い転げるように翼をはためかせる。
「ふんッ、それはそうと何の用だ? お前ほどの者がわざわざ世間話をしにきたわけでもなかろう」
「ケー! そうだったケー! 実はこれから【F4】が開かれるんだケー!」
「なんだと……!?」
七柱の魔王はおおよそ独立しており、普段はそれぞれが干渉することはほとんどない。
しかし、魔なる者たちにとって重要な情勢や事案について統一見解を持つ必要がある場合もあろう。
そのような時に、複数の魔王が集まる協議会が開かれる。
F4(Feaer4)とは七柱のうち四柱もの魔王が集う一大イベントだ。
「ほんの40年前に開かれたばかりではないか。よほどのことがあったのか?」
「ボクも詳しいことはわからんケー。ゼノス様の命令だケー」
「……ならば仕方あるまい。悪いがパニコス。九天魔城へ連れて行ってくれるか?」
「ケーッケッケ! おやすい御用だケー!」
パニコスはそう答えると鎖骨部分からおぞましい触手を出し、デストラーデの巨体をぐるぐると取り巻き始めた。
腕の部分は翼になっているので彼の『手』はこの触手なのである。
「ここからならひとっ飛びだケー!」
「うむ、頼むぞ」
こうしてデストラーデはパニコスの翼によって魔王城へ飛んでいくのであった。
新章になります。
完結へ向けて更新続けてまいりますので、なにとぞ応援のほどよろしくお願いします!





